崩落

僕の耳から僕が流れ出ているようすを
僕は見ている
さらさらと音を立てながら
僕が分離する

何にもないはずの地面に
積もってゆく小さな粒粒のひとつひとつが僕で
はっとした僕を横目に
小さな粒粒の僕もはっとする

連鎖モードにはいりました
あらゆる言葉と音声と映像と精神と肉体と無機物は
地球史に残るであろう連鎖を始めました
小さな粒粒の僕を笑う白い壁の向こう側でも
憎むべき誰かの音声と無機物と精神が手をつなぎます

僕の耳からこぼれていく
僕の中身は無質量で
無質量な僕の言葉とおんなじように
からんからんと切ない音を立てる

僕は生きている
だから崩れることもある
死んでいる魚はどうだ
再生を望んだところで何一つ芽生えるものはない

僕は生きている
だから崩れることもある
生まれてきた赤子はどうだ
外界の空気が苦しすぎて泣き出してわめきだして
もだえながらそれでも生きていこうとする

連鎖モードにはいりました
粒粒の小さな僕はやがて空気と同化して
あらゆる言葉と音声と映像と精神と肉体と無機物の
一部として混ざりあうのです
やがて耳から再生ははじまり
僕は僕に足りないものを手に入れて再び
息をすることでしょう
そこに悔いがないのなら
僕は僕としてまだ生きていけるということなのです






ぼくのせかいはひろがっていきます。ひろがればひろがるほど、ことばはふくらんでいきます。