断ち切る

右のコメカミあたりが疼くと
もうすぐ朝が来るような気がします
昨日失くしたのは1セント硬貨とリング
残ったのは半裸の私と狂喜に満ちた表情

ロッカールームは閉鎖されました
鳥の死骸はそのままに放置されました
横断歩道ですれ違った人は泣いていました
宇宙の彼方で呼吸する星の吐息が聞こえました

右利きの私は右手にナイフを持って
左手の手首を眺めているのです
生と死の境界線が如何にあやふやかを
時計の針が時を刻む音とともに
噛み締めているのです

昨日の夜 私はテレビを見て笑っていました
昨日の夜 私は壁にかけられたポスターを見て
次に模様替えするときは剥がそうと思っていました
そんな私の今日の夜は
生温い空気が漂うバスルームで
生温い液体がこぼれてゆく手首を想像して
生と死の境界線のあやふやさに酔うのです

蛇口から水滴がひとつこぼれました
ピチャンと音を立てた水面は
わずかに波打ったかと思うと
私にあたって消えました
とても簡単にとても簡単にとても簡単に
(それが真実)
うまく焦点があわせられない眼球に
睫毛もろくに生えていないまぶたを覆わせて
私は呼吸していました
生きていました生きていました生きていました
(停止はしたが)

ダンボールの箱が崩れかけています
赤信号を無視して崩れかけています
私の中の私の声が停止しています
青信号を無視して停止しています
今しがた 窓の外で
15分間続いた夕立が止んだような匂いがしました







ぼくのせかいはひろがっていきます。ひろがればひろがるほど、ことばはふくらんでいきます。