月に舞う桜

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2019年03月12日(火) 卒業式の思い出 その1

高校時代、とても印象的な先輩がいた。
私より一つ上か二つ上かは、忘れてしまった。
その先輩のことは、ときどき廊下で見かけた。ゆっくり静かに歩く人で、男子にしては小柄で髪が長めで、いつも学ランの上から黒いロングコートを羽織っていた。
(「いつも」と書いたけれど、本当のところ、夏場はどうだったか記憶にない。さすがに真夏まで学ランにコートではなかっただろうけれど、私の中でその先輩は黒いコートのイメージで、白いYシャツ姿が思い浮かばない。)

私はその先輩と知り合いではなかったし、名前も知らないし、正直、顔もよく覚えていない。ただ、その佇まいはどこか独特な雰囲気を放っていたから、よく目についた。見かけるのは、不思議といつも後ろ姿だった。顔を覚えていないから、後ろ姿の印象しかないのだろうか。黒いロングコートを着て、静かに歩く後ろ姿。

その先輩たちの卒業式でのこと。
私たち在校生は、卒業生の後ろに座っていた。

その先輩は、髪をハーフアップにして、白いリボン(たぶんレースの)で飾っていた。

高校生ともなれば、女子(とみなされている人たち)ですら、学校に白いリボンは付けて来ないものだ。
うちの高校はわりとまじめな学校なので、髪を派手な色に染めたり奇抜なカットにしたりする人はいなかった。卒業式で着飾る風習もなかった。

ごく「標準的」な髪形が並ぶ中で(しかも、黒い学ランの一群の中で)、その白いリボンは否応なしに目立った。
それは、人によってはある種、異様な光景に見えたかもしれない。
けれど、私は、先輩の白いリボンから気高さを感じた。

私は、先輩のパーソナリティ(セクシャリティも含め)を知らない。だから、白いリボンが何を意味していたのか、断言はできない。
ただ、日頃の雰囲気から推察するに、少なくとも「男子がウケ狙いで女装する」というような類のものではなかったと思う。

卒業という門出の日に、その白いリボンは強い意志の表明であり、主張であり、何かの宣言であるように私には思えた。
静かだけれど確固たる何かを放っているような白いリボンに、私は吸い寄せられ、しばらく見つめていた。

卒業シーズンになると、あのとき後ろから見つめた白いリボンを思い出す。


桜井弓月 |HomeMail


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