月に舞う桜
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ときどき、黒くてどろどろしたものが何の前触れも理由もなく体中に広がる。 「それ」は指の先まで侵食し、私を支配しようとする。私は、「それ」を逆に支配し返してねじ伏せる術を忘れ、途方に暮れてしまう。私にできるのは、ただ、油断すると口から溢れ出そうになる「それ」を何度も飲み込むことだけ。
例えば生理前だとか、明らかにストレスの溜まることが起きたとか、そんなふうに原因が分かりさえすれば問題の99%は解決する。いや、解決しなくても、問題自体が問題でなくなると言うか、原因が分かったことで安心して、どうでもよくなる。 でも、理由も分からず突然攻撃されると、本当にどうしようもない。
「それ」にあえて名前をつけるとすれば、「対象の不明確な憎悪」。
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