月に舞う桜
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高熱の出る風邪に比べて、熱が出ない、もしくは微熱で終わる風邪は治りにくくて厄介だと思う。熱が出ると、そのときは非常にしんどいけれど、熱が下がってしまえば同時に風邪自体が吹っ飛ぶ……ような気がするんだな、経験上。 で、今回の風邪は高熱なしバージョンのため、しつこい。ずっと体の隅っこでくすぶっている。 私は人より筋力が弱く、肺活量もあまりない。だからか、一度咳が出るとなかなか止まらないし、痰を出すのが下手だ。そんなわけで過去に3回も肺炎に罹っている。遠い将来、たぶん肺炎で死ぬと思う。高齢で体力が弱っているときに風邪をこじらせ、肺炎になって亡くなる人は多い。私もそのパターンだろう。前に「私、肺炎で死ぬと思うんだよね」と言ったところ、母に「そうだろうねぇ」と頷かれた。 自分の死因を予想するなんて縁起でもないと思われる方もいるかもしれないが、人はいずれ死ぬのだし、肺炎なんていう死因としてはポピュラーなもので人生の幕を下ろすなら、私個人としては諦めのつく終わり方だなと思っている。逆に言うと、肺炎以外の原因で死なないように気をつけたい。まぁ、何となくそう思っているだけで、健康のために何か実践しているわけでもないんだけど。 話が逸れたけど、とにかく未だに咳が収まらないんである。と言っても、四六時中出ているわけではなくて、朝と夜が調子悪い。風邪引きの人に聞くと、やはり朝晩の体調が良くないという人が多い。だから、咳の出る風邪ってそういうものなんだろうなと納得したのだけど、でも不思議。 それにしてもパブロンはよく効く。咳が出るときのエネルギーって凄まじいし、ちょっと落ち着いたあとは体力をかなり消耗している。そこから考えるに、咳を止める薬はかなり強いものなんじゃないかと思い、ビビリながら飲んだり飲まなかったり。
……咳の話でこんなに行を費やす予定じゃなかったんだけどな。 体調が戻りきらなかったり暴風雨に見舞われたりして、この一週間もあっと言う間に過ぎた。あっと言う間すぎて、あまり覚えていないくらい。 そんな中で唯一心に残っているのが、ソース焼きそばのこと。 火曜日だったか水曜日だったか、会社で頼んだお昼の仕出し弁当の中にソース焼きそばが入っていた。お祭りの出店なんかでよく売っているような、チープなやつだ。それ自体は別にどうってことないのだけど、お弁当の蓋を開けてソース焼きそばを見た瞬間、私は小学校の給食を思い出した。そりゃあもう、15年も前のこととは思えないくらい鮮明に。 小学校の頃、一番好きな給食のメニューがソース焼きそばだった。当時、私は今よりももっと小食で食べるのが遅かったので、いつも給食を残していた。あの頃は、食べること自体があまり好きではなかった。でも、学校から配布された献立表にソース焼きそばと書いてある日は、給食を楽しみに学校へ行った。もちろん、ソース焼きそばは残さずに食べることができた。 給食に出ていたソース焼きそばは、もちろん出店や会社のお弁当に入っているやつみたいにチープではなかったけれど、特別豪華というわけでもなかった。でも、私にはものすごくおいしく感じられたのだった。麺が家で食べるものとはちょっと違っていて、あまり長くなく、断面が丸ではなくて四角だったし、ちょっと柔らかかった。他に思い出すのは、イカが入っていたこと。足はなく、胴の部分だけ。 中学に上がった直後は、「小学校のあの焼きそばが食べたいなぁ」と何度も懐かしく思い出したものだ。大人になってからはすっかり忘れていたし、家で焼きそばを食べても思い出さなかったのに、給食とは似ても似つかない会社のお弁当を見て、久しぶりに記憶が蘇った。 小学校の給食はメニューの組み合わせがだいたい決まっていて、ソース焼きそばの日はたいていロールパンとフルーツポンチがついていた。そんなことも思い出しつつ、私は目の前のチープなソース焼きそばを食べるのだった。
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