鮭肉色のカーニヴァル
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ないことの心地よさ
2005年07月23日(土) 

 朝起きると新宿駅だった。実際には新宿だとわかるまでに数分要するわけだが。荷物はなにひとつ持っていない。怪我はしていない。靴は履いていない。財布はあるが千円を残してお札が消失している。ケータイには着信が一件。昨日の夜、一緒に飲んでいた友達からだ。それにしても、ふらつく身体は思考する、バックはどこへ消えてしまったのだろう。買ったばかりのハードカバーと読みかけの文庫本が入っていたのに。
 なにもなかった、なにもない、なにもないだろう。
 不思議と絶望ではなく希望を感じた。
 次に目を覚ますのは自宅のベッドの上だ。靴下で道を歩くのは痛かったことを思いだす。失われた記憶を取り戻そうとしても何も出てこない。もういちど目を閉じて取調室に入っていく。
 取調官が聞く、さいごに憶えているのはいつだ?――本郷の居酒屋です。店員がラストコールだと言いました。
 どうしてそんなに飲んだ?――わかりません。
 取調官の表情はすこし優しくなって、何か食べるかと聞く。それよりも飲み物が欲しいと答える。近くのコンビニにいってレモン水と和風パスタを買ってくる。レモン水は帰る途中に飲みきってしまった。
 ぬるいシャワーを浴びながら、あるのは現在だけだと考える。言葉の意味がそうなのだから同語反復にすぎないけれど。隣の部屋では掃除機をかけているようだ。




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