まゆのウォーキング、ぼちぼち日記

2012年04月05日(木) ■本からのお話紹介その1…「私、バカなんです」

今日は、久しぶりに本からのお話紹介です。
紹介したい話が、うんとたまっていたので、
今週は、本からの話の紹介する予定です。
どぞ、よろしくです。
今日は、こちらの本からの話紹介です。


「いいかげんが いい」





この本の中には、
心に残る話がたくさん書かれていますが、
今日はこちらのお話です。



(引用P20〜24)



「私、バカなんです」



ずっと気になっている患者さんがいた。
脳卒中で左片麻痺のある75歳の女性。
ぼくの外来へ足を引きずってやってくる。
いつもニコニコしている。
笑顔があふれている。
ありがたい、ありがたいと言う。




デイケアに行きだしたという。
デイケアが楽しい。
みんながよくしてくれる。
折り紙をしたり、切り絵をしたり、
絵を描いたり、すべてが勉強になる。
うれしそうに、そう言う。



ふうん、とぼくは思った。
調子のいいこと言っているな。
折り紙がそんなに楽しいわけがないと思った。




あるとき、彼女に聞いてみた。



「なんでそんなに折り紙が楽しいの?」




思いがけない答えが
返ってきた。





「字を書くことも、絵を描くことも、
 してこなかったんです。
 先生、私ね、小学校に
 行ったことがないんです」




今まで心の中にため込んでいたものが
あふれるように、しゃべりはじめる。
ぼくは、聞き役にまわった。



「役者をしていました。
 旅役者です」




ああ、そうなのか。



「学校には行かせてもらえませんでした。
 字は読めるんだけど、書けません。
 今、デイケアで教わることはなんでも、
 私にとっては嬉しい勉強なんです。
 だから、脳卒中になってうれしい。
 病気をしてよかった。
 初めて勉強ができました。
 勉強は楽しい」




そう彼女は繰り返した。
脳卒中になってよかったなんて
初めて聞く言葉だった。
生き方のヒントになると思った。

子どもの時から、
座長に厳しく芸を仕込まれたという。
踊りを教わり、セリフを練習した。
全部口伝えだった。
青春時代には花形役者になった。

歌を歌うと着物の襟もとに千円札を入れてくれる
お客さんもいた。
でも、いい時代は長くは続かなかった。



姉も一座の中にいた。
姉は結婚して子どもが2人できたが、
夫が蒸発してしまった。
姉と2人で子どもを育てようと決めた。
そのとき自分の結婚はあきらめた。

姉は早くに病死。
それから彼女は、芝居をしながら
姉の子ども2人を育てた。




やっとわかってきた。
「おにいちゃん」という存在が、
よく彼女の話の中に出てくる。



「おにいちゃんがよくしてくれる。
 本当にありがたい」




姉の長男のことだったのだ。



「おにいちゃんが結婚して
 家を建てるというので、
 私の仕事は終わったと思いました。
 私は一人で生きていけばいい。
 でも、おにいちゃんが何度も誘ってくれました。
 一緒に新しい家に住もうって。
 うれしかった。
 迷惑かけちゃいけないなと思いながら、
 おにいちゃんのやさしい言葉に頷いたんです。
 私は幸せ者です」

「勉強の集まりがあっても、
 私はいつも小さくなっていました。
 何か役をやらされて、字を書きなさいと
 言われたらどうしよう、字が書けないから、
 いつも小さくなって後ろのほうに、
 いるしかなかったんです」




いつもニコニコしているあなたは
素晴らしいとぼくは言った。




「私、バカだから。
 ニコニコしか取り柄がないの」

バカじゃない、
賢い人だと思った。





「今は、なんでも聞けます。
 いっぱいいろんなこと教えてもらっています。
 いろんなことができるようになってきました。
 みんなで歌を歌うときは少し誇らしい。
 いい声だねと言われると、昔、舞台で
 お客様から声をかけられたときよりうれしい。
 私の中にも何かよいものがあると思えるだけで、
 とてもうれしいんです」




まるで子どものような顔をしながら
感謝の言葉がつづく。

この人は、お姉さんが遺した
2人の子どもを必死に育てた。
苦労の連続だったけど、
ちゃんとその恩返しがなされている。

お会いしたことはないけれど、
おにいちゃんエライと思った。




誰かのために苦労した人が
見放されないって大事。
ぼくたちの国は、
まだまだ捨てたもんじゃない。





デイケアなんて、めんどくさい、
というお年寄りがいる。
息子が行け行けとうるさいから、
しぶしぶきているんだ、
という高齢者も多い。

そういう人たちは、せっかく来ても、
ずっとつまらなさそうにしている。
なかなか笑ってくれない。



字を書けなかったという女性のニコニコ顔と
向き合いながら、ぼくは思った。
幼いときに恵まれなかったことで、
この人の目には、同じデイケアが輝く時間に
感じられている。





いいなぁ…
こういう気持ちを
持っている人って。





きっと彼女は、「おにいいちゃん」にも、
そのお嫁さんからも、心から大切にされているに違いない。
本当の親子でなくても、間違いなく家族なんだ。

(ここまで引用)



私は、この話が心に残り、
何度も何度も読み返しています。
そして私もまた、
著者の鎌田さんと同じように、



いいなぁ…
こういう気持ちを
持っている人って。




と、思うのです。



なんでもイヤイヤ、
なんでも不幸、
なんでもつまらない、
いつでも不機嫌顔、
いつでも周りをけなすだけ…

そうしながら生きていくこともできれば、
今日の女性のように生きることもできる…
それは自分しだい。




この話を読むたびに、生き方を
教わるように思うのです。




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