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いつもありがとうございます。1みくしー
武蔵がミクシーを登録する。
つきあっていた彼女が「メール苦手でも日記なら続きそうじゃない?」と 武蔵にとっては謎のオススメをしてきたからだ。
使い方がわからなくてヒル魔に質問。 ヒル魔は操作を教えるついでに武蔵のニックネームを盗み見る。
彼女とも長続きせず、別れてしまったあとに残ったのはミクシだけ。 ほとんどかき込みもせず、ほったらかしの日記についている足跡はぽつぽつとしたもの。 ミクシにかき込まれるのは短い一言。
雨が降って仕事が休みになった。 閑だ。 今日の晩めしはうまかった。 コーヒーの無糖が切れていた。代わりに買ったやつが、甘い。 忘れもん。タオル1枚。 水虫、直せと言われた。なんでばれた。
なんの脈絡もなく、ぽつりぽつりとかき込まれる武蔵の一言。
誰かが武蔵の家に泊まって、帰った後。そんな時に日記が更新される事が多い。 少なくとも、ヒル魔が泊まった次の朝には一言書き込まれているからだ。
武蔵らしくない、朝の時間のつぶし方。それは何年も変わっていない。 眺めているのはヒル魔ぐらい。誰とも連絡を取っていない、とても孤立したスペース。
ある時、武蔵がミクシをやめた。 かき込む頻度が極端に落ちて、何ヶ月も放置されるようになった末の事だ。
ミクシを覗くぐらいでしか、武蔵との繋がりはなくなっている。 随分長く連絡を取っていない。 覗く回数も極端に落ちた。 本当に限られた武蔵の日記の閲覧者。その一人がヒル魔だと武蔵は知らない。
日記を書かず、マイミクも少なく、コメントも残さず。 ただ覗きに来るだけの訪問者を武蔵はどう思っていたのだろうか。
ある日いつものように飛んでみるとアクセスが出来なくなっていた。 ユーザーが退会しましたというメッセージを残して 武蔵が知らない関係は途切れた。
こんなもんか。 栗田から武蔵の報告を電話で受けながら、ヒル魔は手元の携帯で 用のなくなったミクシへ飛ぶ。もう意味は無い。退会する。 久しぶりにトップぺ−ジを見て、そこにメッセージが届いている事を知る。
武蔵からだ。
何も頭に浮かばない。 真っ白になるってのはこういう事か。
震える指で操作をして、開いたメッセージはただ一言。
「元気でな」
それが。 ヒル魔相手だとわかっていての物なのか。 何年も続いた覗くだけの付き合い相手への一言なのか。
携帯の画面にぼたり、と雫が落ちた。 もう、武蔵がここに何かを書き残す事はない。 誰かがいない夜をもてあまし、つまらない一言をつぶやく場所も。 相手も必要としないのだ。
武蔵が結婚した。
栗田の口からその報告を聞くよりも、遥かに強くそれはヒル魔の中で事実になった。
電話の向こうから栗田のどうしたの、という声に何でもないと返事をした。 掠れそうな声をこらえて、大きく息を吐き、気持ちを押さえる。声を殺す。
ほんの一言。 たった、一言。 連絡も取らず、顏も合わせず、お互いの消息さえも知らない。 それでも、まだ何か繋がっているような感覚があった。 あいつには無くても。こちらにはあった。
あったという事に、今気が付いた。
壊れた途端にわかるもんだ。 思った以上にそれが辛くて、栗田との会話の最中に何度も言葉が途中で詰まった。
短い単語だけの武蔵の一言。 あれが、とても好きだった。
あの場所を必要としていたのは多分武蔵以上にヒル魔の方。
どうしたの、と再度訪ねる栗田に向い、何でもないと返しながら ヒル魔は手の中の携帯を洗面台に置いて水をかけた。
元気でな、とあった武蔵の多分最後の一言。 消すのも。振り返るのも。それを形として残しておくのも。 全部がいやで壊したかった。
水をしみ込ませたプラスチックの塊をゴミ箱に落とす。 ソファに座り、栗田との会話に集中する。 平静を保てる声。普段通りに振るまえる会話。
電話を切って。 ああいう場所に細々と書込む気持ちが、少し理解出来る気がした。
やまだ
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