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小話設定:武蔵もヒル魔も高校生です。
誰だって。 誰だってそれを、望んでいるもんだ。
ヒル魔がぺらぺらと手帳をめくり出すと武蔵は黙ってそこに背を向ける。 「こいつがそんなに不満かよ」 最初に作った時よりも、大分分厚くなった脅迫手帳をヒル魔は武蔵に振ってみせた。 潔癖、という訳ではない癖におかしな所で几帳面な武蔵。信条があるんだかないんだか。単に気紛れで頑固なだけだ、とヒル魔は思う。義理や理屈が通っていれば、ルール違反は簡単に目をつぶる。その癖、ヒル魔の行動に時々眉を寄せる。器用な線引きしてんじゃねえよ。 「好きじゃねえな」 「綺麗事だけで何とかなるだなんて、思ってねえんだろ?」 武蔵は無言でこちらを睨む。年期の入った黒い手帳。そこに武蔵の名が無い事を、大分前から伝えてある。あった所で使う気は無い。それは武蔵もよくわかっている筈だ。 「俺んトコまで泣きついてくるやついんだぞ」 人の弱味をつかんで脅す。そんな行動を武蔵は嫌った。時にはやめろと言う時もあった。 「そりゃ、愉快な話だな」 「そんな事して楽しいか」 「楽しいぜ?」 反省の色もなくけろりと告げるヒル魔に対して武蔵は諦めたようにため息をついた。 「お前だけだ」 「そりゃ、違うだろ」
「誰にだって、悪い事ってのは楽しいもんだろ」 踏み間違えるための最初の一歩。 誰もが持っている無意識の願望。
こんな会話だけでヒル魔を説得出来ると思っていない武蔵はそうか、と相づちを打った。 「誰でもか?」 「誰でもだ」 「俺でもか?」 「お前だって、だ」 手帳を片隅に放り投げ、武蔵のそばにヒル魔が寝そべった。 「お前も?」 肯定の代わりに目を閉じた。上からかぶさってくる武蔵の影を、唇を開いて迎えて重なる。 お前こそ。日常からの適度な逸脱を、少し毛色の変わった火遊びを。望んでいる事にいい加減気が付け。
「……で。こりゃ何のつもりだ」 武蔵の片手がヒル魔のシャツ下に潜りこんだ。ヒル魔の肌は武蔵には冷たく、武蔵の指はヒル魔には暖かかった。 「…………イイ事だ」 「都合がいいな」 「嘘じゃねえだろ?」 武蔵の表情が知りたくなって、ヒル魔は片目を薄く開いた。 悪びれてもいない、気がついてさえもいない、こんな行為をそれなりに楽しむ武蔵の顔がそこにあった。 「嘘じゃねえな」 「だろ?」 ヒル魔は片目を、ゆっくりと閉じた。
誰だって。 つみをおかすことを望んでいる。
平穏に飽き、変化を望み、逸脱に憧れ、臆病ゆえに手近でそれらの欲求を解消する。 いくつもある選択肢の中から、罪悪感をあまり感じない、手軽で、手頃な物を手に入れて満足する。 そしてまた。 それに慣れて手を離す。
誰だって。 どんな者でも。 小さな罪は、魅力なのだ。
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