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武蔵は割合クラスメートに人気がある。 休み時間にわらわらと席を離れ、それぞれがいくつかの場所に分散する中で、武蔵と栗田の周りにも人は集まりやすい。 栗田に伸ばされる手は、菓子をつかむ。 武蔵は時折投げかけられる言葉に、適当な相槌を打つ。
自分の周りからは、終了のベルと共に人が途絶える。 おかげで、誰に見咎められる事も無く、静かに自分の作業に集中できるのがありがたい。ちらちらと周囲に意識を向けながら。 ヒル魔は、休み時間の多くをそうして、過ごしていた。
教室内の会話から価値がありそうな情報拾いながら。 意味も無いつまらない会話ばかりの内容にうんざりしながら。 ヒル魔の指は何度も同じフォルダを開いては閉じた。タッチパネルの上の指は、すでにそのフォルダの場所を覚えている。 「名称未設定」のままのそれは、無意味に開いて閉じてが繰り返されていた。
楽しげな会話が武蔵の周りで起きて、笑いが重なり。武蔵もまた合わせて 笑っている。会話の中身はGWの予定。近づいてくる長い連休に、教室内の空気が日ごとに浮かれはじめていた。 「おい、ヒル魔」 武蔵に名前を呼ばれて、ようやく気が付いたという風に顔を上げる。 「お前も行くだろ?」 前置きも無く、無頓着に同意を求められる。今まで会話に参加していなかった相手に向かって、そういう態度は何だ。まず何をどうしたいのかお前は説明をしろ。
「泥門高 GWバザー」
武蔵が手にした手作りらしいチケットに目を向けてからヒル魔は無言で目線を画面に戻した。 「今ならチケット安いんだとよ」 「行かねえよ」 「栗田も行くよな?あ、3枚な」 「行かねえって言ってるだろ!」 「なんでだよ」 内容も口調も普段とは変わらないお互いの会話でも、距離があるため声は大きくなる。 憮然としたヒル魔の口調に周囲は気にしないふりをしつつ、温かった空気に緊張が混じった。 「興味ねえ」 「なんだよそれ」 不満そうな声にため息が漏れた。こいつは、本気でどこまで馬鹿なんだ。 「それ、いつだ」 「えーと。5日」 まだ気が付かないのかこの馬鹿は。 「お前、その日仕事だろ」 「‥‥‥‥あ。」 梅雨が始まる前。せっかく乾燥させた木材が雨にやられる前に棟上げしなけりゃならないと。栗田に話していたのを忘れているのかこいつは。 「あー‥‥‥‥‥。そうか。そうだった」 振り回していたチケットを、横の女子生徒にすまねえと言って戻す武蔵。 「仕事なら仕方ないけど、武蔵君が忘れていたのによく覚えてるね、ヒル魔君」 「そうだな」 何気ない会話が続いて教室内にほっとした空気が戻る。そうやって、またくだらない会話の流れの中に、今の出来事もすぐに流されるんだろうと思った。のに。 武蔵がふと、俯いて黙りこくった。
馬鹿の癖に。
ヒル魔は眉をしかめ、口の中で小さく舌打ちをした。表情には出さないように気を使いつつも、意識のほとんどが武蔵の様子に向けられる。
こんなときばかり、勘が冴えやがる。
断るにしても他の理由を言えば良かった。 指先で、眺めていた書類を閉じる。
スケジュールと、個人情報。見聞きした内容を細かく分類した書類達。 全部が一人の情報に繋がるもので、「名称未設定」のフォルダの中にしまいこまれる。
俯いてた武蔵の顔が、ふいと上がってこちらを向いた。気が付かないふりをしながらもキーボードの指が緊張に震える。 「おい」 顔をあげないままでは、どんな表情をしているのかわからない。 けれど声の口調で、カンタンに想像が出来る。 「なあ、ヒル魔」 少し悩んで、少し困っているような、単純でわかりやすい武蔵のばか面。
「俺、お前にGWの予定言ったか?」 お前は。こんなところで。
俺に何を言わせたいんだ。
早く、始業のベルが鳴ればいい。 平静を保とうとして、どうしても顔に力がこもる。 眉に皺が寄っている。さぞ、不機嫌そうに見えるんだろう。 作業しているふりをして、無意味に同じフォルダを開いて閉じる。 ただ、そればかりを繰り返した。 汗ばむ指では、いつも繰り返していた簡単な作業さえもうまくはいかない。
がたりと武蔵が席をたってこちらに歩いてくるのがわかった。 無視し続けるのも不自然だと、顔を上げると予想もしないようなにやけ面がそこにはあって。 無駄にでかい図体が、周りの興味深げな視線を遮断する。
「俺、『お前には』まだ、GWの予定言ってねえぞ」 こんな時に限ってベルが遠い。たった10分の時間が、長い。
「………なあ」 お前は。一体どこまで俺を。
ぎ、と見下ろす武蔵を睨み付ける。それが、精一杯の抵抗。 にい、と深まる笑みに対抗できる言葉が見つからなくて、目をそらした。 「なあ、ヒル魔」
こんな場所で。こんな時に。そんな顔で。 これ以上俺を、見るんじゃねえ。
20050712 0200
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<倉庫にモドル>
やまだ
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