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疲れた。正直、今日は忙しかった。ムサシはどかりと自室の床に腰を落とした。 かろうじて夕食をすませた身体が、強烈に睡眠を欲している。 朝練。学校。呼び出されて行った現場は混乱を極め、飛び交う怒声の中でこき使われた。 ようやく目処がついた頃に、なんだ、武蔵さんとこの息子さんか、と言われる始末だ。あの時気が附いてもらえなければ、恐らく深夜まで拘束されていたんだろう。 疲れた。 とにかく、眠りたい。
胃が心地良い満腹感につつまれ、座っているだけでもかなりの眠気が襲ってきている。着替えるのも面倒臭い。 あとで母親が、ぎゃあぎゃあと文句を言ってくるだろうがどうでもよかった。 ベットに顔を埋め、このままぐっすり眠れたらどれだけ気持ち良いだろうと思った。 思っているのに。
何かがひっかかる。 何だ。何をやりのこしているんだ。
眠い目をこすって、ぼんやりと室内に目を向ける。
何だ?
このまま眠るには「何か」収まりが悪い。 なのに、そんな気がするだけで、まったく心当たりがない。
今日一日、なんかあったか?
物を考えるのも面倒で、ムサシはただ意味もなく目線を室内に泳がせた。 眠さを含み、その視線も力なく床を這うのみ。まめに掃除をしていない床にはうっすらとしたホコリとゴミだけで、眠気が一段と襲ってくる。 作業着の黒は、そんなほこりを目立たせた。 薄く表面についた白は、手で払ったところで意味がない。
掃除しろって、言われんだろうなあ。 この程度の汚れでは特に気にする程でもない。 のろのろと動いていた目線は、ズボンのホコリの上に着地する。それきり、動かせない程まぶたが重い。
畜生、なんだってんだ。
いっそ、部屋の掃除でもすればすっきりと眠れるのかと考えた時。 ズボンの裾に見なれないものを見つけた。 細く、白い線。 それは、糸くずよりも細く、白より色を含んでいる。 身動きもできず、狭くなる視界でそれを眺めた。
ああ。髪の毛だ。
切れてしまいそうな程に細く、やや黄を帯びているような、髪。
ああ、土曜に来たからか。
眠気が、一段と肩にのしかかる。
あいつのあんな顔、はじめて見たな。
ぼんやりとそう思いつつ、それがどんな顔だったのかよく思い出せない。 そういえば、今日はほとんど顔を合わせていない。 携帯に何か来てるかもしれねえ。
思う頃には、もうまぶたが降りていた。 眠れる。 どこかで、そう思った。
残った意識が土曜のバカ騒ぎを思い返し、ぐずぐずと眠気の渦とまざりあう。
あいつ、あれだ。あの時の顔だ。
はっきりと意識することが出来たかどうか。 ムサシはベットにもたれたままで寝息を立てていた。 満足げな笑いを浮かべたまま。
20050419
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