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2002年04月14日(日) [余熱」

ヒル魔は、薄い布の中から頭上に手を延ばした。
指先でサイドテーブルの上を探り、携帯を掴んで引き寄せる。
アラームを設定した時刻まで、あと5分。
いまいましく思いながら、その電源を切った。


軽く寝返りをうちながら、ひじで天井を突くような形で顔を覆う。
身体の一部が熱をもっているような感覚が消えていない事にため息が出た。

夕べは帰宅した後に2度、シャワーを浴びた。
この時期にしては、冷たいと言えるような温度で、身体を冷やした。
なのに。
目覚めのぼんやりとした中でもいつもとの「違和感」を感じる場所がある。

畜生。

浅かった眠りの残滓が、頭の動きを鈍らせる。

腕が、熱い。
肩と、頭。

あの野郎。

わけもわからずに栗田が絡み、ムサシが無遠慮に撫で回した場所。

何だったんだ、あれは。

ごろりと転がり、枕に顔をおしつけた。
目だけで、つかまれた腕をちらりと眺める。

今でも残る、あの手のひらの感触。
栗田に押さえ付けられ、逃げ出そうと暴れていた最中だったのに。
触られたそこだけは別物のように、ムサシの手のひらを受けていた。

耳の先と、脇腹。

触れられた事を思い返せば、すぐに感覚が蘇る。
仕事で荒れ、ひびの入った手の平がこする、痛がゆい感触。
あり得ないと何度打ち消しても、のびてきた腕は現実だった。
二人があまりに楽しそうだったので、こちらも「怒る」立場でつきあってみた。
つきあった、つもりだった。
あれは遊びで、意識する方がおかしい。

そう思いながらも、あの場所でそれを徹底できたのかどうか、自信がない。
静電気の痛みよりなにより、手を伸ばされたあの驚きを。隠しとおせた自信がない。
栗田が戻ってくる少し前の、あの時。
椅子から床の上に落ちたはずみで、組み伏せられた体勢の。
ムサシがほんの少し、動きを止めた時のあの時。

ムサシは何を思ったんだろう。

熱を持った布が気持ち悪い。
冷えた場所を探すように転がっても、すでに夜具はどこも熱を持っている。
肌に直接触れる生あたたかいさに嫌悪しながら。
ヒル魔はそれでも起きあがれなかった。

あんな事で動揺する自分を、どう思ったのか。

不思議そうに見ている気配があった。
とっさに爪を立ててその下から逃げても。
ムサシの意図がつかめずに、反応できなかったあの時。
意図なんて。
ふざけて遊んでいた、以外にあるわけがないのに。

畜生。

掴まれた腕が熱い。
もう一度、シャワーを浴びよう。
あれはふざけて遊んでいただけで。
こんなに意識する方がおかしいのであって。

言い聞かせながら、もう一度ムサシの指を、思い返す。
勢い良く腹や肩にぶつかり、どばたばとした動きの中で掴まれた腕ではなく。
一瞬、触れていった脇や腹でもなく。

柔らかく、撫でるように触れてきた耳の先の感触。
あれだけは。
何かの意図があったと、思った瞬間。

あの、糞ジジイ。

そんなわけがないのに。
あいつが、そんな事をするはずもないのに。


あの鈍感野郎が何を意識するわけがある?
筋肉ダルマにそんな頭があるわけが、ない。
ただ、触ってみたかっただけなんだ。あいつは、そういう奴なんだ。
口に出す前に行動して、問いつめれば首を傾げる。
あいつは、そういう奴なんだ。

勢い良く上半身を起き上がらせて、そう考える。

気にする分だけ、無駄ってもんだ。

だから。
シャワーでもあびて忘れれば良い。
月曜、学校で会った時に。
何喰わぬ顔でおう、と言えるように。

忘れちまうに限る。

それでも。耳の先には残るんだろう。
あの、小さな接触。
荒れた指先の、優し気な余熱が。








20050419 ちなみに武蔵は夜寝る前に、手のひらに残った感触を思い返して寝たら忘れる。清すぎる‥‥

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やまだ