|INDEX|西部|
オフライン|欲|携|
[弁当] 栗田とヒル魔とムサシと、三人の間でくだらない会話がだらだらと続く。 外は雨。春とはいっても、こんな天気の日は肌寒い。 体育館はスペースがとれず、廊下も他の運動部に占領されて。 こんな日は、する事もみつからない。
来週末には桜が満開だから、どこかに花見に行こうと栗田は主張する。 面倒くさいと乗り気にならないヒル魔は栗田の話を聞き流しながら、 膝の上に愛用のvaioを広げていた。 ムサシは机の上の見飽きた雑誌をぺらぺらとめくった。 三人でどこに行こう?と栗田がこちらに会話を振る。 どこでもいいと相づちを打つと、てめえは花より食い気だろうとヒル魔が笑った。いつもの会話がいつもの様に流れる中で、鞄の中で携帯が鳴った。
工務店や現場で知り合った、他店の棟梁からの電話。 用件はいつもと同じ。手が足りないから手伝いに来てくれというやつだ。 大した礼も出来ないけど、頼むよと言われれば構いませんよと返すのが礼儀。 手弁当で行きます、気にしないで下さい、と伝えれば電話の向こうは恐縮するように頼む、とくり返した。 収入にならない仕事でも、いずれはこの仕事につくだろうこの身にとっては、 今の年令からでも経験をつめるのはかえってありがたいとお決まりの台詞で会話は終わる。 特に変わった内容でもなく。 いつもの会話のはずなのに、ヒル魔がこちらを見つめていた。 何やら、おかしな顔をして。 不審に思われるような会話ではなかったはず、だ。 ヒル魔はすぐに目を伏せ、ノートPCを操作しはじめる。
何か気に触るような事でもしただろうか、と気になった。 栗田との会話も上の空で、ちらちらとヒル魔の様子を伺うと。 ついさっきまでの暇そうな雰囲気と変わり、眉根にしわがよる程の 真剣さで画面を睨んでいる。 「だったら、来週はうちで花見にしようよ!お弁当は用意するから!」 同時に、ヒル魔の顔が赤く染まった。 珍しい事もあるもんだと、思わずまじまじと見つめてしまい、 目があった瞬間に。ヒル魔の耳まで赤が走った。 大きな音をたてて、PCの画面が閉じられる。 「どうしたの、ヒル魔。トイレ?」 「……ああ、ちょっと出てくる」 乱暴なほどの足音が遠ざかり、再び栗田は熱く休日の予定を語り出す。 「今日みたいに雨が降っても……ムサシ?」 「来週の天気でも調べとくか」 「やめなよ、勝手に触ったら怒られるよ」 「おう」 返事にならない返事をしながら、そっと画面を開く。 ヒル魔が何を見ていたのか、気になった。 ウィンドウがいくつも開き、そのどれもが検索画面のまま。 キーワード欄に打ち込まれた言葉は、どれも同じ。「手弁当」。
なんだ? 「手 弁当」「手で 弁当」。 手弁当、の意味がわからなくて、それで検索していただけなら。 あの反応は少しおかしい。 何より、それを調べるだけならこんなに手間もかからないだろうに。 自分が知らないだけで、「手弁当」に何か他の意味でもあったんだろうか? 手弁当。 手づくりの弁当。 電話の中では「自分で必要な物は揃えて手伝いに行く」という意味で、使ったと思う。 多分、ヒル魔は他の意味を探したかったんだろう。 でなければこれほど言い方を変えて何度も検索はしないだろう。 けれど、言い方を変えても出てくる物はたかが知れている。 現に上に見える画面は皆、似たような内容でしかない。 「ムサシー、ヒル魔帰ってきちゃうよ?」 「おう」 何もわからない。 とりあえず元の画面の順番にでも戻そうとして、一番後ろの窓に気が付いた。 検索の言葉は「弁当 ロ」。
ますますもってわからねえ。あいつ、何考えてるんだ。 PCの画面を閉じ、元の席に戻る。ヒル魔はまだ、戻ってくる様子がない。 手の、弁当。同じ男とは思えないような細い、ヒル魔の指。華奢な手の弁当。 最後のはなんだ。ロ?口か? 弁当は弁当だろ。口の弁当。手と、口の、弁当。手と、口? 花見に行く。弁当の時間に、ふたを開ける。 なぜだか中にはヒル魔が入っていて、 俺に向かって手を差し出す。桜のように色のついた、唇と一緒に。 まさか、な。 流れるようにバカな想像をしてしまい、自分で自分を即座に打ち消した。 しかし。 それだけでは、止まらなかった。 むしろ、どんどん下世話な方へと流れて行く。
ヒル魔の器用な白い指がちらちらと頭に浮かんで消えて。 よく動くわりには小さな口。薄い唇。それが、重なる。 頬が熱い。まずい。 ヒル魔の野郎。あいつ、何考えてやがるんだ。 俺は。何を考えているんだ。 「ねえ、ムサシ。週末の天気どうだった?」 「あー、ああ」 ヒル魔が戻る気配はない。 「ムサシ、顔赤いよ?」 「週末は暑くなりそうだとよ」 窓の外に目を向けるて、ごまかす。 ちくしょう、ヒル魔にどんな顔をすればいいのかわからなくて。 ムサシは大きくため息をついた。
俺は、何を考えていやがるんだ。
20050413 なんつうか、結論が全く見えない話だったんですが妙な所で好評でした。こういうのはありなんでしょうか。
next>>[甘物] back<<[靴紐] <倉庫にモドル>
やまだ
|