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「寒い!」 喉が乾いたからと武蔵がベットから起き上がるり、同時にヒル魔が声を荒げた。起きているとは思わなかった。 「冬だからな」 ほとんど半裸でも武蔵が平気なのは今の今迄暑くなるような事をしていたからだ。布団の中、裸で密着していれば武蔵にとっては暑過ぎる。冷蔵庫から冷えたビールを何本か取り出し、ベットに戻っても中には入らない。腰掛けて喉を潤し、布団の中に潜り込んだヒル魔にも1本振ってみせる。 「いらね」 言葉と同時に目を閉じるヒル魔の顔は、端々が赤い。頬や目尻や耳の先はまだあの熱を残しているのだろう。布団の中に顎まで潜り込み、不満そうに目がこちらを見ている。 「寝ねえのか」 「目、覚めちまったからな」 布団から覗くヒル魔の目端が眠いのだと主張している。眠いなら寝りゃあいいだろう。出した後、ヤった後に来る落ち着きのおかげでヒル魔を見下ろす気持ちは静かで穏やかなものだった。 「寒いなら、服着ろ」 「面倒くせえ」 それきり大人しくなっったから、寝たのだろうと勝手に思った。2本目を空け、音をつけずにテレビをつける。いつもなら見ないような深夜の番組。音が無ければ余計にそれらは陳腐で滑稽でつまらなかった。明かりをつけるとヒル魔が唸るように寝返りを打つ。本格的に文句を言われるのも嫌だったので早々に明かりを消してテレビも消した。 ベッドに入りゃあ眠くなるだろうと布団をめくり、そこで武蔵は困惑した。さっきまで端に寄っていたヒル魔が今はベッドの中央で伸びやかに眠っているのだ。 「おい……ちょっとどけろ」 「ん……」 ヒル魔の手足を折り曲げて、奥へと押しやるがうまくいかない。 「おい、ヒル魔」 「うる……せぇ……」 寝ぼけているのか何なのか、ヒル魔に武蔵の意図は通じない。 「俺が入れねえだろ」 「入らなくて……いい……」 「おい!」 意識しているのかそうでないのか。武蔵がヒル魔を押し退けると、開いた場所に細い手足がするりと伸びる。遊んでいるのかそうでないのか。 「お前、ちょっと起き……」 「嫌だ」 「ああ?」 起きている自覚は薄いのだろう。妙に機嫌が良いらしいヒル魔はまどろみながら武蔵の腕にじゃれる。悪い光景ではなかったが、付き合い続けるには時間が悪い。さっさと布団に潜り込んで朝までの時間を温く過ごしたい。ベットを諦めてソファで眠るか。それはそれで起きた時にヒル魔の機嫌を損ねさせる気がする。 「おい」 返事が無い事を確認してから武蔵はヒル魔の耳に口を寄せた。 「お前、ほんとに態度悪いぞ」 ヒル魔の耳先が少しだけ揺れた。ような気がした。 「素直じゃねえから可愛げもねえし」 遊んでいるようなヒル魔の動きが止まる。布団の端からシーツを引っぱりだし、勢い良く真上に持ち上げる。ヒル魔の体がころりと奥へ転がった。 ヒル魔が文句を言う前に、武蔵は素早くベッドへ潜り込んだ。シーツを剥がれた敷布団は今の武蔵には心地よい冷たさ。悪くねえ、と思いながらそこに寝そべり、ヒル魔をシーツごと引き寄せた。 布越しに不満そうな気配が伝わる。文句を封じ込める意味も込めて、武蔵な布の塊に抱きついた。ヒル魔の頭があるらしい場所を大雑把に見当をつけ、そこを片手でぽんぽんと撫でる。 「嘘だけどな」 シーツの上から頭を探り当て、そこを何度も撫でてやる。頭から肩。肩から背中。目に見える反応は無い。ヒル魔の周りに尖る空気は感じられない。ようやく回ったアルコールが、武蔵の意識を眠りに誘う。 「嘘だからな」 弁解したい気持ちも乗じ、少しはっきりと言い直した。 「何がだ」 意外にも反応があった。何が、と問われているのだから答えるべきなんだろう。が。 いくら布越しとはいえアレの否定形はそうそう口に出せるもんじゃない。ごまかす意味も込め、武蔵はヒル魔の頭を引き寄せた。いつもであれば、近寄れば暑いと文句を言うヒル魔。黙っているのは答えを促しているのだとはわかる。 わかるが、なんとも返事をし辛い。 幸いな事に武蔵は大分眠気を感じていた。 「後で、な」 答えになってない答えを返し、シーツの上から抱きつく腕の力を緩めた。眠いのだという意思表示をして武蔵は眠気に意識を預けた。まあ、夜なんだし寝とけ、寝とけ。ゆっくりと闇に滲んで行く意識と共に、武蔵の体が脱力する。 すとん、と落ちる寸前の武蔵はヒル魔に気がつかない。
「……ッ!!痛ぇっ!!!」
胸に感じるシーツ越しの尖った痛み。凶器はヒル魔の歯なのか爪なのか。考えながら武蔵はもう一度シーツを撫でた。
そして、部屋は静かになった。
20080221 0157
やまだ
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