INDEX西部オフライン

2000年08月20日(日) しかたがない。


 

「おい、お前俺のパンツ知らねえか」

風呂上がりに、まともに身体を拭きもせずに
あたりをウロウロ歩いたあげくに、武蔵はヒル魔にそう尋ねた。

「てめえのパンツは歩き回る癖でもあんのか」
「新しいやつ買って置いといたはずなんだけどよ……」

背中にびっしりと水滴を貼り付かせ、武蔵は尚もあたりをうろつく。
タオルは腰。長く垂れ下がる前髪からはぽたりぽたりと雫が垂れる。

「いいからまず、頭拭け」
「ちゃんと拭いたぞ」
「まだ濡れてんだよ」
「それより、パンツねえと困るだろ」

濡れてる方がこまんだろうが!
声に出して怒鳴るより、ヒル魔は作業中のPCを武蔵から遠ざけた。
たった1滴。それだけの水でもショートすれば一貫の終わり。
手早くファイルを保存するヒル魔の心中を理解しないらしい武蔵がのっそりと近付いて来る。

「まず、拭けって言って……」
「お前、ちょっとパンツ見せろ」
「………は?」
「間違えて、俺のはいてねえか?」
「んなわけあるか!」
「わかんねえぞ。怒らねえから、ちょっと脱げ」
「………お前、俺に喧嘩売ってんのか?」
「さっき穿いてたヤツ、洗濯しちまってんだ」
「いいから先に身体拭けって」
「風呂から上がった時、ちゃんと拭いたぞ」

武蔵はしごく真面目な顔で、ヒル魔が脱ぐのを待っている。
拭いた拭いたと口では言うが、武蔵の歩いた後には水滴が残る。

自分で何をどこまでやったか。
何をどこに置いておいたか。覚えてないのか?この馬鹿は。

老けた顔だ、老けた態度だと思っていたが。
ついに中身までぼけたんだろうか。

「今さら照れる事もねえだろ。ほら、脱げ」
「………それで、俺がはいてなかったらどうするつもりだ」
「……………困ったなあ」
「お前はどうやって落とし前つけるつもりだ?」
「…………。怒ってんのか」
「お前は。俺が。てめえの汚ねえパンツはいてると思ってんだろ?」
「怒ってんのか」
「そんな阿呆に見えるのか?」
「汚くねえぞ。さっきコンビニで買ってきたやつだ」
「どこに置いたんだ」
「………そのへん」
「ねえんだろ」
「おかしいよな」
「笑えねえよ」

武蔵は少し頭を捻る。
ぱたり、ぱたりとまた水滴が垂れた。

「もし、お前が履いてなかったら……」
「なかったら?」
「謝る」
「それで済むか!」

武蔵の顏には照れや悪びれた様子さえない。
全部の台詞が、素で真面目なのだ。

ヒル魔の返事を待ちもせず、武蔵の片手がヒル魔のシャツをまくりあげた。
腹は腰が外気に触れ、冷えた空気にヒル魔が竦む。
武蔵は片手でタオルを押さえ、残る片手でヒル魔を脱がす。

「てっめえ!」
「パンツ見るだけだ」

ヒル魔の抵抗は無きに等しい。
ズボンが無理に引き下げられたがそこに武蔵のパンツは無かった。

「………おい」
「なんだ。履いてねえのか」
「謝らねえのか」
「なあ、俺のパンツ知らねえか」
「知るか!!」

これで諦めて離れるだろうと考えたヒル魔。
一向に目の前から動かない武蔵。
なんでそこからどかねえんだ。

「………おい」
「ん?」
「なんで、まだ脱がそうとしてんだ」
「いや……」
「…………おい」
「ついでに、な」

武蔵の両手が、ヒル魔の股間から布を引き降ろす。

「ついでかよ」
「いやじゃねえだろ?」

武蔵の足下にはタオルが一枚。
布が隠していたはずの部分が、武蔵の欲求を物語っている。

「………てめえは、ほんとに」
「こういうの、嫌か?」

至近距離からヒル魔の顔を覗き込み、笑いながら口を寄せて来る。
ヒル魔のため息は途中で塞がれ、後に続く文句は2人の間で飲み込まれる。

仕方ねえだろと弁解するように武蔵が呟く。
だってパンツねえんだからな。

計算して、ここに持って来ているのなら大したもんだ。
武蔵はいつも無意識に動き無意識にしゃべり無自覚に要求する。
悪びれもせず、考えもせず、思ったままに動き回る。

こんな阿呆に付き合わされて。
とんだ迷惑だとも思うが。
抱き締められて頬がゆるむ。
阿呆顔に覗き込まれて、意味もなく笑いがこぼれる。






何をどう言い繕っても、武蔵は思うままに行動する。
口で言う程怒っていない。
どんなに拒絶の言葉を並べても、機嫌が直れば元に戻る。
態度がどうでも、結局ヒル魔は武蔵に甘い。
武蔵はそれを疑わない。

そういうもんだと、思っているのかもしれない。

馬鹿にするなとか甘くみるなとか
文句は喉までいくらでも溢れているが。




仕方が無い。
それが嫌だと思えないのだ。
これに飽きる気がしないのだ。
どれもどこかが愛しいのだ。


仕方が無い。
何しろ、武蔵なのだから。

だからヒル魔にはなすすべがない。
ただ、振り回されるからしがみつく。
喧嘩になれば意地をはる。
気が休まるからゆっくりと休む。
そばにいれば蹴飛ばしたくなる。
遠くにいれば触りたくなる。
やられた時は、やり返す。
声を聞けば嬉しくなる。
優しくされると、少し戸惑う。

虚をつかれるから、泣きたくなる。

仕方がない。
何しろ、相手は武蔵なのだ。

ヒル魔がどうしても測りきれない、
無茶で無謀で頑固な馬鹿。




だから、全部仕方ない事。





























20000406
初心にかえろうとして。途方にくれる。
ここはどこだ。これは何だ?


やまだ