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夏に向けてのお話です。梅雨明け直後ぐらい? 中学生。
昼休み。 思い思いの場所で皆が好きに昼食を取る。 いつもの定位置屋上は、この季節になると少し辛い。
初夏。まだ少し梅雨の名残りを残した空気。 日ざしだけが夏のもの。
心地よい木陰は争奪戦が始まる程人気が高い。 もっともこの学校内でヒル魔に対してそんな戦いを仕掛けるヤツはいない。 校舎の裏、一番大きな木陰に走ると既に栗田と武蔵がくつろいでいる。
普段からあまり人が通らないそこは、適度に雑草が茂っている。
「くつろぎ過ぎじゃねえか」
3人の中で食べるのが一番早い武蔵は空になった弁当箱を片付けていた。 2人は靴を脱ぎ、素足で草の上に転がっていた。 気持ち良さそうなその光景にヒル魔も真似をし、靴を脱ぐ。
特大の弁当を片付ける栗田の隣がヒル魔の指定席。 購買で買って来た菓子パンの袋をあけると武蔵が物ほしそうにそれを見る。 食べると寝る、という実に若者臭くない習性の武蔵はゴロリと土の上に寝そべった。 封のあいていないヒル魔の菓子パンを袋の上から指で押す。
「何してんだ」 「いやーー。なんとなく」 「……やめろよ」 「どうせ食ったら後は一緒だろ」 「やめろっつってんだろ」
ヒル魔の苦情を気にもせず、武蔵はそのまま指でパンを突つき続ける。 眠そうな武蔵は、ヒル魔の怒りに気がついていない。
「止めろって言ったよな」 「おうーー」
返事さえも軽々しい。 空腹を満たすための時間。苛ついた気分が一気に振り切れる。
「止めろって言ってるだろ!!!」
そばにあった武蔵の靴を鷲掴み、ヒル魔は思いきり良く投げ飛ばした。
「あーー!何すんだ!!」 「人の食事邪魔するからだ!」 「俺、裸足なんだぜーー」 「取って来い」 「……めんどくせ」 「取ってこい!!!!!」 「これでいーー」
寝そべったまま身体をひねり、武蔵はそばにあるスニーカーをつかむ。
「てめえ、それは俺んだろうが!」 「サイズ、一緒だろ?」
ヒル魔の抗議にも怯む事なく武蔵は素足のまま手にしたスニーカーに足を入れた。
「何やってんだ」 「持ってるだけだったらお前に取られそうだ」 「てめー、水虫なんて持ってねえんだろうな」 「……」 「何で黙るんだ!!!」 「大丈夫。お前の足は強い子だ」 「わけわかんねえ!」 「へえ、武蔵水虫だったんだ」
栗田の呟きがヒル魔を打ちのめす。
「やめろ……」 「だって俺の靴ねえんだ」 「取って来い」 「めんどくせーー」
蹴ろうが叩こうが、罵声を浴びせても眠た気な武蔵は動じない。
「糞!!」
ヒル魔は食べかけのパンを地面に放った。 日陰から一歩出ただけで気温が上がる。息が詰まる。
「てめえ、覚えてろよ!!!」 「お前が投げたんだろ」 「先にてめえがパン潰したんだろ!!」
叫びながらヒル魔は素足で土の上を駆けた。 普段は土になど触れない足裏がくすぐったい。 武蔵の靴を拾い上げて、どうしようか迷った末にその中に汚れた足を入れてみた。
同じサイズのはずなのに、少し大きい。 そのまま歩くとがぼがぼする。 少し中が湿っている。 汚いという気持ちは沸かなかった。
少し歩くと足に馴染んだ。
更に歩くと顔が弛んだ。
気がつくと2人がこっちを見ているのがわかって一気に顔に血が登る。
「こんな靴はけるか!」
靴から踵を浮かせたまま蹴ると、狙いとは違う方向に武蔵の靴が飛んで行った。
「ノーコーーン!」 「ヒル魔はキック下手だよねーー」
いつもと変わらない2人の叫び。 それでいい。 気がつかれてなるものか。
こんな何でもない時間でさえも、楽しくて仕方が無いなんて。 恥ずかしくて顔も向けられない。
070220
やまだ
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