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| 2000年07月29日(土) |
ファーのヒル魔の固い決心 |
「最近見ねえな」 脈絡もなく武蔵がぽつりとつぶやいた。練習帰りの暗い夜道。 「何が?」 「お前、こないだの抽選会で白い毛のついた服着てただろ」 「あーー。あったな」 「あれどうしたんだ」 尋ねられ、ヒル魔は少し複雑な顔をして見せた。 「なんで?」 「着ねえのかなって思ってな」 返事に困ってヒル魔は黙る。 「最近あんま見ねえよな」 「あーー。あれな」 「汚したか」 小さな汚れさえも目立ちそうな白のダウンジャケット。 あれはヒル魔にとてもよく似合っていた。 「てめーと一緒にすんじゃねえよ」 「明日、映画行く時着てけよ」 「無理だな」 「なんで」 「………お前、素で言ってんのか」 ヒル魔が呆れたように武蔵を見る。そんな言われ方をするような心当たりが武蔵には無い。 「俺、なんかしたか?」 「こないだあれ着て一緒にでかけたろ」 「おう」 「………で、帰りの電車で、俺が寝てただろ」 「そうだな」 その時を思い出し、武蔵は少し頬が弛んだ。 警戒心の固まりのようなヒル魔が武蔵にもたれかかるように眠っていたのだ。 無防備な顔が、電車のに合わせて揺れる様は見ていて飽きない光景だった。 違いに分厚い防寒着を着ていても、密着していれば意外と体温は移るのだな、という発見を思い出す。 あのとき、何かしただろうか。 おかしな事はしていないつもりだ。 「……覚えてねえのか」 「お前寝てただろ」 「…………なんで目が覚めたと思う」 「降りる駅だったから」 ヒル魔の目が呆れたように細くなる。 「もう着ねえよ」 「なんでだ。似合ってたじゃねえか」 「もう着ねえ!」 突然早足になるヒル魔を武蔵は慌てて小走りで追う。 しつこく食い下がる武蔵にヒル魔は固く口をつぐんだ。
あれを着てる所がまた見たい、と照れもせずに武蔵は口にする。 弛みかける頬を意識して引き上げながらヒル魔は1人胸の中で武蔵をなじった。
お前のくしゃみがうるさいんだよ!!!
柔らかな羽と白いジャケット。自分でも気に入っている部類の服だ。 だから先週はそれを着た。楽しみにしていたせっかくの休日。 その間、ずっと武蔵のくしゃみは続いた。 極め付けは電車の中だ。 少しならいいか、と思いながらうとうとと武蔵にもたれかかると。 耳元で盛大なくしゃみが続いた。ファーの羽毛が合わないらしい。 違いの顔が近付く程、派手なくしゃみが邪魔をしていた。
武蔵の体温を耳に、肩に感じながら。 上から降ってくるくしゃみと唾。
「なあ、なんで着ねえんだよ」 「自分の胸に聞いてみろ!」
まったく心当たりが無いらしい武蔵は尚もしつこく食い下がる。 次にジャケットを買う時は、ファーの無い物を選ぼうと心に誓うヒル魔だった。
070117
やまだ
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