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| 2000年07月28日(金) |
ちびムサシとでっかいヒル魔 |
ちびっこムサシとおっきいヒル魔。冬の日のおでかけ編
楽しくお買い物して楽しく御飯も食べて丁度良くホームに入って来た電車に飛び乗って。 今日はすっごく面白かったな!と御満悦のちびムサシ。 運良く特急に乗れたから家まではそれほど時間はかからない。 小さいながらも体力のあるムサシはこんな時疲れたなどとぐずらないのが良い所だとヒル魔は思う。 少し混んでいる電車の中でムサシはいつもより大人しく、色々とタイミングが良く進んだ今日一日が有終の美で終われそうだ。ぼんやり外の景色を眺めているとムサシがヒル魔の上着を引っ張り始めた。
「どうした」 「ヒル魔ぁ……」
見上げて来る表情も含めてそわそわと落ち着かない。嫌な予感は大抵あたる。
「俺、しっこしてえ……」 「………我慢しろ」 「無理だーー……」
片手がしっかり股間を握っている。楽しすぎるとムサシは時々トイレのタイミングを後回しにする癖があった。ぎりぎりになってから大騒ぎするのもこれで何度目の事だろう。
「なんでもっと早く言わねえんだよ」 「ヒル魔シッコ!」 「早口で言えって意味じゃねえ、馬鹿」
ヒル魔が雑に刈り上げた為、ムラのあるムサシの坊主頭を叩く。適度に混んでいる車内の中を忍び笑いがゆっくりと満ちた。
「しっこ、しっこ!」 「黙って待ってろ!!」 「〜〜〜〜!!」 「飛び跳ねるな!」
漫才のような掛け合いの最中、電車が止まるとムサシは電車から飛び出した。こういう事がしょっちゅうあるため、各駅のトイレの場所を熟知しているのは誉めてやる所なんだろうか。
このまま俺が電車から降りないで帰っちまったらあいつどんな顔すんだろうな。 たまにはこらしめてやるべきだと思いながらヒル魔はしぶしぶ電車から降りた。すっきりとした顔で戻って来るヒル魔の頭を軽く叩く。 次の電車が来るまでの時間を、ムサシとヒル魔は駅のベンチでだらだらと過ごした。喉元を過ぎると熱さを忘れてしまうムサシは、ヒル魔にジュースをねだり、ヒル魔に何度も叩かれた。
家に帰っても部屋の中は寒い。途中下車した駅の中や帰宅する道すがら、色々なものに興味をひかれてムサシは何にでも手を出したがる。手袋もはかずにそんな遊びを繰り返していれば指の先まですぐに冷え、家に帰ると急速に膨らむ。 わかっていながらムサシはお湯の中に手をつっこみ、急いで暖を取ろうとする。
「ヒル魔!ぱんぱんになった!」 「手を洗え」 「ヒル魔!もう破けちまう!!!!」 「うがいしろ」 「した!した!!早くしろ!!」 「………ほんとにしたか?」 「もう俺の指、破れそうだぞ!!」
大急ぎで手荒いうがいを雑に済ませて、ムサシはヒル魔の回りを付きまとう。以前戯れでヒル魔がムサシをからかった事がある。以来、この時期のムサシは必死でヒル魔を呼ぶのだ。
「端けて、指が無くなっちまう!!」
べそをかくほどに慌てたムサシがヒル魔に必死でしがみついた。まだ爪の先に泥がつまっていそうな汚い指先がヒル魔の目の前に差出される。少し眉をしかめながらヒル魔はその手を自分の手のひらではさんだ。 いつも冷たいヒル魔の両手が武蔵の手のひらから熱を吸い取る。
外から帰ってほうっておくと、指が破裂してなくなるぞ。
ただのつまらない冗談をムサシは本気にして泣いた。冷やせば治ると言い聞かせたがムサシは恐怖でパニックに陥った。仕方なくあみ出した方法が、このやり方。 馬鹿は本当に扱いが面倒臭い。
「ヒル魔の手ってどうしていっつも冷たいんだ?」 「お前と中身が違うからだよ」 「ヒル魔の指ってなんでつるつるで長いんだ?」 「お前がずんぐりしすぎなんだろ」 「俺、ヒル魔の指好きだーー」 「おーー、そうかよ」 「ヒル魔は俺の指好きか?」
持ち前のの図々しさと記憶力の薄さのおかげでムサシはこりもせずにこの質問を繰り返す。何度も適当にあしらわれているというのに諦めるという知識は頭に無いらしい。そうだ、と返事をする事はほとんどない。それでもムサシは質問する。
「なあなあ、俺の事好きか?」 「うるせえぞ、阿呆顔」 「……好きなんだろ!」 「どう思う?」 「ヒル魔は、俺の事好きなんだぞ!」 「へぇ、そうなのかよ」 「ちゃんと言えよ!」 「お前が知ってんなら言う必要ねえだろ」 「へんくつ!」 「そういう事はどこで覚えるんだ」
指の腫れがだいぶん収まってヒル魔が手を離した途端、何があったのか忘れたようにムサシは部屋を走り回る。 最近気に入っているプラスチックの刀。それを腰からズボンに差し込み、室内を見立てて冒険を始める。居間と廊下を走り回った後、狭い所へ頭から潜り込む。一ケ所にじっとせず、広くもない室内を絶えまなく走り回っての大騒ぎだ。
暑がりのムサシは冬でも短パンにTシャツで動き回る。 出したりしまったりが忙しい刀のおかげで短パンのゴムは弛んでいた。 子供達が皆そうでさるように、冒険らしき遊びに夢中になるとムサシは回りが見えなくなる。 膝をつき、身をかがめると刀は腿に添って縦に固定される。刀に引っ張られた短パンは、ムサシの腰からずり下がる。
だから、そこから尻が見える。
「見えてんぞ!」 「おう!」 「おう、じゃねえ!そんなもん見せんな!」 「おう!」 「隠せ!!」 「おおぅ!」 「おおぅじゃねえ!」
就寝はムサシが楽しみにしているお話の時間。その場その場で適当な話を派手につなぐヒル魔の話はめちゃくちゃだから面白い。ドラゴン退治に出かけたお姫さまは今日どうなるんだろうとわくわくしていてもヒル魔の話が始まらない。
「ヒル魔?」 「なんか……ねみい」 「話してくれよーー」 「やべーな。風邪か……?」 「具合悪いのか?」 「ちょっと、な」
ベットの中でムサシより先に眠りそうなヒル魔にムサシは少しばかり狼狽える。
「どこ悪いんだ?頭か?腹か?」 「……どういう意味だ」
特に声も出さずにいると、顔に何かが貼り付いた。
「こうしたら治るんだろ」
それは汗ばんだムサシの手のひらだった。
「破裂しそうになったら、押さえていたら治るんだよな」
そりゃどういう病なんだ、と突っ込みかけて納得する。ムサシにとっては指の膨れと同じようなもんなんだろう。いい、と邪険にその手を振り払おうとしたがムサシの顔は真剣だった。
「俺、治るまでこうしててやるからな!」
顔が熱い。多分少し熱が出ている。ムサシにうつったらまずいから隣の部屋で寝るべきだ。汗もかいている。服着替えてえ。 ムサシの手のひらは子供特有にやけに熱くて気持ち悪い。おまけに何か触っていたようで甘臭い匂いがしている。ムサシに押さえられた顔の一部がべたべたしていて最悪だ。
でも、見下ろす顔はとても真面目で降りほどく気にはなれなかった。
数分後。 ますます体調が悪くなったヒル魔の顔を塞ぐようにムサシは熟睡モードに入っていた。揺さぶっても起きない程の眠りの深さだ。ふっくりと柔らかいムサシの腹がヒル魔の顔を圧迫している。洗濯したてのパジャマなのに、ヒル魔の顔にあたる一部はやはり何かでべたべたしていた。
熱い。眠い。気持ちが悪い。
ほんの少しほだされて、ムサシを甘やかしたツケがコレだ。こいつに関わるとロクな事が無い。 わかっていながら手を離せないの自分の態度に腹をたてながら必死にムサシを押し退けた。眠りこんでいるムサシの身体はとても重たく、随分時間と体力を消耗する。 ごろりと布団に転がるムサシは気持ち良さそうな阿呆顔で寝息を立てている。お前のせいで、と弛んだ頬を指で引っ張りかけ、手をとめる。
やっぱり俺はこいつに甘い。
こんな事が知れたらどれだけつけあがるか。 一生隠し通してやると決意しながら、小さな手のひらをそっと握った。顔に手のひらを押し当てられるあの感触。
いやな筈なのに嫌じゃなかった。
明日までには、風邪を治そう。
やまだ
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