|INDEX|西部|
オフライン|欲|携|
全員が同じ種を配られた。 手のひらに握った2粒ずつのヘチマの種。 各自が与えられた場所に埋めているその種を、ヒル魔は武蔵と一緒に別の場所に埋めおいた。
場所は林の陽当たりのいい場所。 へちまなんて見た事がない。 どんなもんが咲くのか楽しみで、それを武蔵と一緒に見たい。
保母のまもりが全員に画用紙を配る。 へちま、って植物の説明は何度か受けた。 からからに乾いたスポンジのようなもんを見せられて、こういう実がなるんだと説明される。 普通のへちまがあの大きさなら、武蔵と一緒に植えたへちまはとびきり大きなサイズになるだろう。 根拠の無い確信を胸にヒル魔は画用紙一杯に絵を描き始めた。
今日のお題は「へちま」。 ほとんどの園児がその植物の実を知らない。 画用紙の上を思い思いの色が飛び散る。ヒル魔は茶色のクレヨンを手にした。
武蔵と一緒に植えたへちまだ。 その辺で見るようなのとは全然違う大きさで、格好良い実がなるに違い無いのだ。 想像も出来ないへちまの絵は画用紙からはみだす程の大きさになる。 でも、このままじゃ何かもの足りない。
茶色のクレヨンを元に戻し、ヒル魔は腕を組んで考えた。 このままじゃちょっと大きいだけのへちま。 もっと武蔵らしくしてやりたい。
ふと思い付いて白を握る。 武蔵といえば、鉢巻きタオルだ。 茶色に塗りつぶしたへちまのてっぺんの方に白いタオルを巻いてやった。 一度塗った色の上から白は中々塗らさらない。 茶色がぼんやり滲んだような微妙な色で、へちまの上部分をなんとか包む。 あとは仕上げに葉とツルを描き足す。 ツルはタオルの上の方から。大きな実を支えるために太いツルを何本も描いた。 葉を描く場所がなくなったので、下の方にたくさん茂らせる。
満足できる良いへちまになった。 腕を組んで自分の絵を見下ろしていると周りに保母達が集まって来た。
「ヒル魔くん、これは………へちま?」 「武蔵のへちまだ!」
こんなへちまができると良いなと思いながらヒル魔は絵を畳んだ。 描けた絵は壁に貼る事になっている。取り上げられないうちに急いで隠すが 保母のだれも手を出して来ない。
首をかしげてヒル魔はそれをポケットにしまった。 大きくて立派なへちまが描けたから武蔵にも一緒に見てもらいたい。 きっとほめてくれる。
とてもとても楽しみだ。
その後、ヒル魔を可愛がる武蔵へ向けられていた 好意的な保母達の視線に疑惑の色が混じるようになった。 ヒル魔が描いた絵は武蔵が保管する事になった。
幼稚園の教室に、ヒル魔の絵が貼られる事はなかった。
やまだ
|