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| 2000年06月24日(土) |
デリヘルヒル魔と被害者武蔵 |
仕事が終わり、食事も済んだ。風呂にも入った。布団は敷いてある。 就寝までの気侭な時間を武蔵がいつものようにくつろいでいるとふいにチャイムが鳴り響いた。 ちら、と時計を確認する。訪問販売がやってくるような時間ではない。 誰かが訪ねてくるような約束もない。無視しようか迷う所に再度しつこく鳴らされるチャイム。
3度目のそれで、武蔵は重い腰を持ち上げた。
魚眼レンズから覗くと、見覚えのない鮮やかな金髪。着ているものから判断すると女らしいが年の頃がはっきりしない。隣接している部屋の誰かだろうか。心当たりが全くない。 普段近所との関係がないとこんな時に困るなと思いつつドアを開ける。 隙間から顔を覗かせるだけのつもりだった武蔵は、思わぬ力でドアを開かれバランスを崩してつんのめった。
慌てて体勢を整えた時には入り込んでいる白いファーが目だつヤツ。 夜目に鮮やかな白い上下を身にまとっているのは、男。 釣りぎみの目尻、肉の薄い頬、何かが塗ってあるらしい薄く艶めいた唇。 女物らしい上着。よくみると爪の先がどぎつく赤い。 けれどそれはまぎれも無く男の顔だ。
「……どちらさんですか」
顔に見覚えは全くない。これだけ派手な身なりの知り合いは記憶の中にも存在しない。 簡単に侵入を許してしまった弱味から、不快感が顔に出た。 新手の強盗か、押し売りか、宗教関連の一種だろうか。トラブルと面倒事だけは避けておきたい。 「少し時間より早くなっちまったけど、平気だろう?」 こんな派手な男と何か約束をしたような覚えは全くない。 何と言って追い出そうかと言葉を探す内に男はじりじりと距離をつめて来た。 ふわりと香る化粧品か何かの香り。明らかに女が持つような中型のバッグ。 新手の変態なんだろうか。 こんな変人に近寄られるような覚えは当然、全く、毛頭、ない。
「あーー、悪いんですけど」
その先を、武蔵は口に出す事が出来なかった。 素早く接近する男に身構えつつ、おいおいぶつかっちまうぞーとのんきに考えている内に本当にぶつかってしまったためだ。口に、口が。
男の口が。俺の口に。
「……………っ!!!」 武蔵はパニックに目を見開いた。 ぶつかった、ぶつかっている、男が俺に、口をつけた。
変態だ。
変態強盗ってのがあるんだろうか。振りほどこうとしてもそこは相手も男の力だ。 混乱と理解出来ない現状に軽くパニックに陥る武蔵は慣れた男を押し退けられない。 逆に押し退けようとした腕をとられて、余計に深く抱きつかれてしまう。 背中を壁に押し付けられて、武蔵は逃げ場を失った。
何だこりゃ、何だってんだ、やめろ、近付くな密着するな、胸をあてるな、舌を入れるな!!
余りの事に棒立ちになり、恐怖のために目も動かせない。 これってキスだよ、男にされてるよ。 男に口に舌入れられてる!! 異様な程の至近距離にある男の体は恐怖だった。 自分より細い体。力任せにはね飛ばせそうな薄い体。 それが、俺を。
おまえ、俺をどうするつもりだ!!
どうしよう、どうすれば良いと思う中、せめて男を見たく無いと反らしていた目線の先で鍵のかかったドアノブが見えた。 間違い無い。こいつは変態の強盗だ。 なんて事だろう、俺は今変態にキスをされている。 しかも、この変態は。
手慣れているのか、やたらと上手い。
食いしばった歯列を何度も舌先でなぞられ、ふ、と息を抜いた所でまた歯の間から侵入される。 ちゅるり、音を立てているのはわざとだろう。口の中を嘗め回されるとふいに、男にされている事を忘れてしまう。 いや、忘れたくなる。こいつが女だったらどれだけ気持ち良くなれるだろう!
どうすればいいかとそればかりが渦を巻く。 呆然とした武蔵を逆手に男は次の何かに取りかかる。 当然ながら武蔵はそれに気付ける余裕がなかった。
気持ち悪いという感想は取りあえず無い。無い事が恐い。 気持ち良いとさえ思う自分がとても恐い。 こういう手合いは、大抵怒らせれば逆ギレと相場が決まっている。 この変態を怒らせずに速やかに帰ってもらうにはどうすれば良い? 冷静になれ、落ち着け俺、慌てるな俺、強くなれ俺。取りあえず武蔵は自分を励ましたが。 そんな努力も男の次の仕種に真っ白に消えた。
男の指が。 武蔵の股間を触り始めるたからだ。
まて、まて、待てっつうかそれはあり得ないだろう、ありえねえ!触るんじゃねえ!! 逃げられないかと身体を振るが、動く程に指が押し付けを強くする。 ジッパーを下げられ、中身を引き出され、反射的に蹴り飛ばしそうになる。
やめろ変態、笑うな変態、俺の息子に一体てめえ何するつもりだ!
思う様に抵抗出来ないのは、巧みに動く舌のせいだ。 抵抗に対してそれは無駄だと言うように舌先を軽く嚼み、反射的に武蔵はその都度動きが止まる。 ズボンからシャツが引き出され、ひやりと心もとない感覚が一層不安を高めてくれる。 待て、やめろ、息子を人質に金でも取る気か、それだけは、それだけは勘弁してくれ。お願いします! 柔らかくそっと芯に沿うよう動かされる指。
滅多に他人に触れられる場所ではないそこを弄られれば、反射的に怖じ気付く。 いくら触り方が優しかろうが、本能として腰が逃げる。涙目になる。 いくら意識が拒絶しようが、本能として血が熱くなる。息が乱れる。
勃つなよ!俺!
最も性欲から懸け離れた物を必死で想像しても身体はすぐに暴走しだす。 男に握られてその反応、ありえねえだろ!お前は俺を裏切るのか!! そんなにたまっていたのだろうかと不安になるほど恥部が膨らみ固立する。 意識が下へ集中すれば口が離され、文句の一つも言おうとすれば指の動きに喘ぎそうになる。 文字どおり目が白黒しそうな武蔵の表情が楽しいのか、男はくすりと笑って何度も何度も口付けて来る。 濡れた先端を指で押されてこらえきれずに声が漏れた。
男に握られて、ベロ入れられて、なんで俺は気持ちいいんだ……
硬くなった股間が熱い。どこかへそれをつっこみたくなるのは男の本能として当然だ。 当然なのだが、この場合はどうなるのが当然なんだろう。
武蔵が気がつかない間に器用にバッグを探っていた片手が濡れたタオルを引っ張り出す。 どういう訳か湯気さえ出ている暖かなそれを勃ちあがった武蔵にあてがい、ゆっくりと両手で揉むようにしごかれる。 「っ……!」 なんて、用意の良い変態だろう。 先端からくびれを丁寧に何度も拭かれ、細かく縦に動かされると気持ちが良かった。 包み込まれる暖かさに緊張していた背中がゆるみ、ゆるんだ背中が再び硬直した。 なんのためらいも無く男が武蔵のそれを口にふくんだからだった。 武蔵の口の中を巧みに動いた男の舌が、今度は器用に武蔵を追い立てる。 タオルとは違う濡れた包み込みに武蔵は今日何度目かのパニックに突入した。
武蔵はやめろと声にも出せない。咥えられる事は初めてではない。 けれど、この男。何をやるにもそつが無い。 舌が巻き付き、嘗め取り、吸い付く。 唇が顔ごと上下に動き、けして小さくは無い武蔵の全体を飲み込んでいる。 わざとだろう、唾液の音をずるりと響かせ、時折こちらの反応を伺うように上目で見られる。 度重なるショックと、呆然とするあまり、追い立てられる舌の動きに我慢しようと思わなかった。我慢しようとしても無理だっただろう。 巧みな舌技に高められ、気持ち良いと思う矢先に男の口に向って吐精していた。 むせる事もなくタオルで口元をぬぐい、息の洗い武蔵を見上げ、男は笑顔を浮かべてみせる。
「ここまでが、料金分。ここから先は、オプションな?」
余韻に浸る武蔵には、何を言われているのかわからない。 しゃがみこんだ男は鞄から一枚の紙を取り出し、それを読み上げようとしたところで携帯が鳴った。 「あ?今接客中だよ。後に……は?なんだって?」 大人しそうだった雰囲気があっというまにかき消える。 口調も乱暴、語尾も荒く、皺がよる眉間で人相も悪くなる。 「406だろ、聞いてねエぜ!?604?……ふっざけんな、糞っ!!」 携帯の相手を罵倒しながら男はイライラと会話を終わらせた。
「おい、爺。洗面所どこだ」 玄関から一番近いドアを指すと男はそこに土足で飛び込んだ。 制止するような閑も無く、中から盛大にうがいの音が響きだした。 「ふざけんな、人違いならさっさとそう言え!」 男が飛び込んだ洗面所からは怒鳴り声が止まらない。 未だに事態が見えていない武蔵は訳も分からず棒立ちのままだ。 こめかみに青筋をたてて玄関へ戻る男は武蔵をぎりぎりと睨み付ける。
「金払えよ」 「は!?」 「ただであんなイイ思い出来ると思ってるぐらいてめえの頭はめでてぇのか?」 「金?」 「オプションなしで、基本7000!後で来るからそれまで耳そろえて用意していろ!」 玄関の内側にひっかけてあった鍵の束のキーホルダーが男の手の中に握られる。 「逃げたら、家の中から金目のもん持ってくから覚悟しとけよ」 「あんた、なんなんだ」 「はあ?知らねえのかよ、デリヘルだよ、デリヘル」 「はあ……」 「戻ってくるまで1時間てとこか。大人しくこれでも読んで勉強してろ」
指で弾いて渡されたのは極彩色のパンフレット。 ごちゃごちゃとした印刷に逃げる目で斜に読めば現状の理由がわかって来る。
『当店はデリバリーヘルスサービスを営業いたしております。 お客様の所にとっても気の利く可愛い娘をお届けいたします。 お好きな場場所はご自宅・シティーホテル・ラブホテルなどご自由にご指定いただけます。 心も体も癒されたいとき、是非お電話下さい。 通常であれば30分前後でご指定の場所にお伺いいたします。』 パンフレットの間からひらりと落ちた物は、「娘達」であろう写真入りプロフィール。 プレイリストやNG行動など、そこに並ぶ単語の低俗さに武蔵は本気で頭痛を覚えた。
「金さえ払えば、追加のプレイはなんでもありだぜ?」 「あんた……ヒル魔っていうのか」 「気に入ったか?」 来た時と同じように身なりを整え、ヒル魔はドアから外へと滑り出る。 その、最後に扉が閉まる数瞬。 「俺は、てめぇが気に入ったんだぜ?」 言葉の最後にドアが閉まる。 チェーンを閉めれば良いのだろうが、武蔵はそんな気持ちになれなかった。
手渡された紙に目を落とす。 気持ち良かったわけだ。プロの技なんだからな。 武蔵は放置されたままの自分の股間を見下ろした。 気持ち良かった。本当に、あっという間の出来事だった。 そうそう自分は早い方でも無いと言うのに、多分あいつがチャイムを鳴らしてからそれほど時間はたっていない。
気持ち良かった。
できれば、他の事も試してみたい。そう思うのは男の性だ。 変態だなんて思って悪かったな。 最後に言われた言葉を思い出して武蔵は少し口がゆるんだ。
とりあえず、1時間後。あいつが戻ってくる時の為にもう一度風呂に入っておこうか。
ぼりぼりと頭をかきながら武蔵は浮かれる気持ちで部屋に戻った。
やまだ
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