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2000年06月23日(金) 探し物はなんですか/春

探し物はなんですか


一向に終わらない工事ではあったがイヤにならないのはあの子供のせいなんだろうか。
近くの幼稚園から頻繁にやってくる奇妙なガキ。
明るい髪の毛は寝癖が酷いのか、真上に逆立っている事が多い。
休み時間や放課後はもちろん、朝早い時も夕暮れ遅くまでも子供はムサシのそばをうろつく。
何がいいんだと呆れもしたが、その黄色がかった頭がいつも視界に有る事に慣れてもきた。

その子供が今日は来ていない。
昼休みはとうに始まっている。
母親に事を話すと子供の分まで弁当を作ってくれるようになっちまった。
家の中のどこにあったのか小さくカラフルな弁当箱は可愛いハンカチをほどかれてもいない。

何かあったんだろうか。

幼稚園と柱の間には小さなフェンスが設けられている。
武蔵にとっては跨げる小ささ。子供にとってはよじ登る大きさ。
そこに立って目をこらしてみると賑わう幼稚園の庭隅に見慣れた頭を見つけられた。

季節は春。
暖かな陽気の中、花壇は花で埋めつくされている。
どうやらそこにしゃがみ込み、一心に花をむしっているようだ。
そんな事すりゃ、怒られるんじゃねえか。
てもちぶさたの片手で顎を撫でると無精髭が指にあたった。

今日ぐらいは鬚ぐらい剃んなさい

出かけに母親がそんな事を言っていた。別に、そんな大層な日じゃねえ。
子供はこの無精髭に触るのを好んだ。
剃ってしまうと残念そうな顔をする。
まだ傷1つ無く柔らかな手の平が顎を撫でる感触はくすぐったい。
小さな手のひらは暖かくてムサシはそれが嫌いじゃなかった。
自然と伸ばしっぱなしになる顎。

ほらな、怒られただろ。

花壇のそばでヒル魔が保母らしき大人に怒られているのが目に入る。
両手に握った花を取り上げられている。
まだ小言が続きをうな保母の前からヒル魔は逃げ出した。
けれど、こちらに来る様子は無い。
庭の隅っこにうずくまり、諦め悪く花を探しているようだ。

花なんて、いくらでもその辺にあるだろう。

陽気に任せて雑草とはいえ、あちこちが色付いている。
足下にあるたんぽぽを数本引いて手元にまとめる。
ヒル魔という子供の事だから、何か目的があっての事だろう。
ふらふらとその辺を回りながら花を集めた。
何してんだろうなと苦笑した所で後ろからいつもの声が降ってきた。

「何やってんだよ糞ジジイ!」

走って来ただろう、上気した頬。
額にはうっすら汗が浮いている。
後ろに回した両手には、恐らく花が握られてるんだろう。
こっちにまで花を探しに来たんだろうか。
ムサシが片手にした花を驚いたように見ている。
「集めてるんだろ。これもやるぞ」
たんぽぽだらけであまり見栄えのしない束をヒル魔に押し付ける。
おずおずと片手を出して、それを受け取る子供の表情は少し困惑したものになる。
「どうした?」
「どうもしねえよ」
言葉とは逆に顔が臥せてしまう。
そのまま、無言で時間が過ぎる。

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、ヒル魔ははっとしたように顔を上げた。
少しためらいを見せたあと、後ろに回していた片手を突き出す。
「………。やる!」
小さな手の中に握られた草花。
強く握りしめられたため、くったり首を折った花たち。
「今日は何も持ってねえんだ……。来年はもう少しましなモンやるからな!」

片手にムサシが渡した花を握りしめながら、叫ぶ子供が幼稚園へ帰って行く。






しんなりしてしまった花の束。
子供が精一杯集めた花々。

今日は、ムサシの誕生日。
どこでそんな情報を仕入れたのか。
そういうところがガキ臭くなく、こんな所がガキ臭いと思う。

来年も俺のそばにいるつもりかよ。
顔がゆるんで笑いに流れる。
それが苦笑なのか、照れなのか。ムサシは判断がつきかねるまま空いた片手で頭をかいた。









20061009


やまだ