INDEX西部オフライン

2000年06月12日(月) ラーーーストーーー


5人ではなく、どうして武蔵を選んだんだったか。
理由はあまり覚えていない。ただ、自分に好意を向けて来る者よりも、自分に興味のなさそうな武蔵がいつも気になっていた。
注目される事には慣れている。
むしろヒル魔という存在を恐がりもしなければ興味も示さないという武蔵のような存在が稀だ。

自分に尻尾を振って来るでなく。
本音を隠したさぐり合いの会話を楽しむ訳でもなく。
ヒル魔が持つ能力への、憧れや賞賛という物もない。
自分を好きになれと押しつけもない。
感覚的に気になる相手という訳でも無い。

どうして、武蔵だったんだろう。




ふわふわと夢の中を気持ち良く漂うヒル魔は、ふいにそれが夢ではないと気がつかされる。
身体にのびるいくつもの手。意識を取り戻したヒル魔がとっさに跳ね起きようとして、妙に自由が効かない事に気付く。後ろ手に縛られている両手。タオルのような物が目から頭部を覆っている。

「起きたのかよ、カス。てめえは寝てた方が素直なんじゃねえか?」
「ヒル魔さんにあんまり酷い事しないで下さい。嫌がってるじゃないですか」
「こういうのはな、嫌がってるじゃなくてよがってるって言うんだよ」

武蔵の腕の中では多少なりとも身にまとっていた浴衣の感触。
肌に触れる感触で身を隠すものが何一つないと分かる。
布団の上に転がったヒル魔の、腹も胸も、好きなように弄ばれている。
足を閉じれば誰かの腕を挟み込んだ。
うつぶせに逃げようとすれば胸を強くつままれる。

「こういうヤツに限ってなあ、痛い方が好きなんだぜ?」
「てめぇっ……、阿含!さっさとこの紐、外しやがれ!!」

暗闇の中、誰かがいると思われる方向に足を踏み出し、やみくもに蹴る。
それはやんわりと誰かに捕まれ、抵抗らしき抵抗にもならない。
逆に膝の裏を捕まれ、大きく足を開く事になる。

「相変わらず、嘘が下手だねえ。無駄な抵抗だと思うけど?」

身体が熱い。汗が流れる。
冷静さを保とうとして必死で記憶を蘇らせる。
身体を拘束されてはいても、口は塞がれていないのが幸いする。
いや。幸いと言えるのかどうか。

「てめえら……。何、考えてやがる……」
「何をされると、思うんだい?」
「まさか、こういう事が嫌いじゃねえだろ?」

武蔵の腕の中で、自分は意識を失った。
それから、こんな体勢になるまでそれ程時間はたっていないはずだった。
腹部から腿にかけて、力を込めていた反動で軽い疲労が残っている。
武蔵の手の中に精を吐き出し、それから自分は気を失ってしまった。

「あいつも俺らも、変わらねえんだろ?」
「生理的な反応にしても、随分過敏すぎるようだな」

5人分の声を確認し、ヒル魔はあきらめの息を吐いた。
それでは、この部屋にヒル魔の味方はいないという訳だ。
助けを求めても無駄という事だ。




じゃあ、武蔵はどこにいるんだろう。




武蔵の名前を呼び掛けて、ふいに喉が凍り付いた。
呼んでどうなるというんだろう。
集まる彼等の目の前で、呼べば助けが来るんだろうか。

そばに武蔵がいるのなら、こんな目に会うはずがない。
そばに武蔵がいないのだから、こんな状況に陥っている。
だから、呼んでも無駄なのだと思う。

わかっていながら衝動が胸を突く。
武蔵の名前を呼びたかった。
助けろ、と叫びすがりたかった。

ここにはいないはずの男。
顔の上半分を覆っているタオルからは武蔵の髪の臭いがした。
そう、武蔵はここにはいないのだ。

これから何が起きようとしているのか、考えるだけでたまらなく恐い。
自分を救ってくれるはずの名前を呼んでも、返事が返って来る訳が無い。



そう、返事が返って来る訳が無い。




ヒル魔は喉を凍らせた。
喘ぎや悲鳴、逃げたくなる衝動、そんな物が胸を突く。

「声を出したければ出しても良いさ。でもそれがバカな事だと分かるだろう?」

こんな所を誰かに見られれば、ダメージを受けるのは何よりもヒル魔だ。
言わる通り、それほどバカをするつもりなはい。
わななく唇を引き締めながら、ヒル魔は極力声を落とした。
ともすれば叫び出したくなりそうな、そんな衝動を必死に押さえた。

武蔵、と名前を呼びたかった。
たとえ返事が返って来なくとも。
名前だけにでも縋りたかった。
声を出すのなら、武蔵の名のみ。


けれど、もし。




武蔵、とヒル魔が叫んだ時に。
返事があったらどうすればいい。

考え過ぎだとは思う。
それはあり得ないと意識が打ち消す。





けれど、「もしも」が胸を焦がす。
もしも、武蔵がここにいたら。
この光景を見ていたとしたら。

どうすればいい。
どうしたらいい。


大きく足を割り開かれる。
周りが息を飲むのがわかる。
痛い程、視線が注がれている下肢。
周りにある、人の気配。

視界を奪われた状態で、ヒル魔は気配の「数」を何度も何度も確認する。
恐ろしい程の事実が浮かび、それをヒル魔は必死で打ち消す。


そんなはずはない。
そんな訳がない。

何よりも恐ろしい点を確かめるのがひたすら恐くて
ヒル魔はぎり、と歯を噛み締めた。





声を出さずに、ただ耐えよう。
何よりも恐い想像が、現実の物になるぐらいなら。
この状況を耐える事は、それほど辛いとは思わなかった。

どこまでも冷えて落ちる意識とは裏腹に身体が熱い。
焦れて痺れる下肢をくねらせ、ただ快楽に浸りたかった。

どれ程痴態を繰り広げようと、動じないような静かな気配に気がつかなければ良かったのに。
腰を中心として広がる刺激に溺れるように集中した。
可能性だ、と想像を打ち消す。
あり得ない事だと、それを否定する。




けれど、喉は武蔵を呼ばない。
その名を口にする事が出来ない。






ここにいるのは5人とヒル魔。
タオルの下で目をきつく閉じ、抵抗をやめ、ヒル魔はひたすら時間を数えた。
ここで、5人の男と性交をしている。

それだけの事。
それ以上でもそれ以下でもない。


ヒル魔は唇を噛み締めた。
声を出せば泣叫びそうで、声を許せば叫びそうで。
尖った歯先が唇を裂き、口の中に不快が広がる。

ここにいるのは5人とヒル魔。
まるで呪文のようにヒル魔はそれを繰り返した。
















AM0:10




やまだ