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| 2000年06月10日(土) |
部屋の名前は「攻」なのだそうです。素晴らしい! |
この部屋は、何かおかしい。
部屋の中は静かなものだ。むしろ他の部屋の喧噪が薄い壁を通して響く。 枕投げや怪談や、喧嘩や徹夜でどの部屋も遅い時間まで盛り上がる。 まだ早い時間なのに、既に電気が消された室内。 寝返りさえもが聞こえない不自然な程静かな室内。
「むさし……」 武蔵の両手に抱き締められて、目を閉じていたヒル魔が囁く。 6人部屋の中、7人目の存在。 ヒル魔がここにいる、とばれてはまずい。 武蔵はヒル魔の口を塞いだ。
囁くような小さな声は、キスをねだったのだと武蔵は受け止め、キスで返した。 いつもより数倍優しく触れて来るヒル魔の唇を味わいながら武蔵は更に浴衣を引いた。 抵抗をするどころか、ヒル魔の身体がわずかに浮いた。するり、と簡単に布が流れる。 普段のヒル魔なら考えられぬ程、「積極的」ともとれる動き。
こんな場所で? こんな時に?
簡単に脱げる浴衣が意味する事を悟って武蔵は笑った。 笑いながら、キスを重ねた。何かを言いたいような唇を、優しく、無理に、甘く塞いだ。
だって、この部屋はおかしいのだ。
色々とハプニングが続きに続き、武蔵と1つの布団にいる。 同室の5人に最後まで隠し通さなければならなくなった。 全員が寝静まってからそっと抜け出すつもりだったのにあっというまに電気が消された。 臨海学校の夜だというのに、誰一人として騒ぎもしない。 学年内でも問題ありの生徒ばかりが集まった部屋なのに。
誰よりも隠し事が上手い高見。言動のすべてが信用出来ない男。 おかしいと思ったら、どこまでもしつこく追求する阿含。 妙な所でカンが鋭く、気がつけばいつもこちらを見ていたセナ。 興味が無さそうな振りをして、いつも目だけが真剣なキッド。 独自のルールと解釈で、思いもよらない行動をする進。
そんな、癖のある者ばかりに囲まれているこの部屋で。 無謀とも言える程積極的な武蔵の抱擁。 ヒル魔はそれを拒めなかった。
狭い布団の中で2人。普段でさえ、こんなに密着してはいない。 頭を外に出すわけにもいかず、自然と中が呼吸で蒸れる。 風呂に入ったせいだろう、ヒル魔の髪の香料がこもる。 武蔵の胸に顔を寄せると、嗅ぎ慣れたいつもの臭いにむせる。
お互いの臭いが混じる程密着するのは情事の時だけ。
何も言わず、何もせずとも、2人は当然それを思い浮かべてしまう。 身動き1つするだけでばれる可能性が高くなる。 そんなスリルが余計に煽る。
武蔵の指が腰をなぞった。そのまま背中までをゆっくり辿り、襟首が強く引っ張られた。 布団の中とはいえ、襟がはだける。大胆で、強引で、そのくせゆっくりとした武蔵の動きに ヒル魔の肩をゆかたが滑った。 声を出せば。寝返りを打てば。布団のすそから手足が出れば。 危険な事は、わかっている。それが余計に気持ちを煽る。
抱き合うだけ。 触るだけ。 武蔵の顔は布団の外だった。 キスも出来ない。顔を見れない。寂しいと思う気持ちが武蔵の胸板に頬を寄せていた。
ばれないように、しているだけだ。
自分に嘘を言い聞かせる。 耳に届く武蔵の鼓動はいつものように大きく早い。 武蔵に撫でられているだけのヒル魔の鼓動がそれに続く。
ただ身体を寄せあって、互いの身体を撫でているだけ。 それがこんなに気持ちイイなんて。
大きく動かなければばれる事は無い。 明かりも消えて、話声もしない。 始めは不自然だと思っていたのに次第に考えがまとまらなくなる。 布団の外を見る事も出来ず、奇妙の理由を確かめられない。 膨れる不安を武蔵が遮る。武蔵の両手が思考を奪う。
得体の知れない不自然と不安をヒル魔は無理に押し殺した。 あえてそれらに目をつぶり、騙すように都合良く解釈することに決める。
そうして。 違和感が形になる。
この部屋はとてもおかしい。 何かおかしい。
統べてが目に見える形になった時、それはとうに手後れだった。
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やまだ
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