|INDEX|西部|
オフライン|欲|携|
中学校3年 美術の時間
持ち周り式の美術の絵モデル。 普通なら制服のまま椅子の上へ。 けれどちょっと美術教師はヒル魔に痛い目に合わされてて 軽く仕返しのつもりでヒル魔に嫌がらせのような指示を出す。
「上、シャツも脱いで背中こっちに見せてみろ」
緊迫する教室の空気。 ちょっときょとん。ちょっとびっくりするヒル魔だけど こんな事で脅迫手帳使う気にもなれない。 言われたとおりのポーズを取って、言われたとおりに椅子に座る。 机を組んだその上にある椅子の上から教師を見下ろし にやりと静かに笑ってみせる。 びびる癖に馬鹿な要求する所がこいつの小物じみたとこだな。
細くてがりがりが想像されがちなヒル魔の背中は 全体にまんべんなく薄い筋肉が覆っている。 両手で椅子の背もたれを抱きしめるように座っているから 肩の筋肉が少し強調されている。 じっくりそれらを観察すれば内側から透けてくる骨。 日にさらされない静かな肌。
面白かったのは始めのうちだけ。すぐに飽きてあくびが出てくる。 いつもより静かで張りつめているような教室の雰囲気。 ガラス窓に映った様子でヒル魔は背後を観察する。
遊んでいたり真剣だったり描いていたり描いていなかったり。 そうして。その中から武蔵を見つける。 こちらを見てもいない武蔵の横顔。 確かに、あいつは絵だって下手だし。上手じゃないし。 いつもは後ろの方で二人で落書き描いて遊んでいた。
自分がモデルの時ぐらいは、こっちを見て欲しかった。
鼻の奥がつんとしてちょっと視界が揺れる。 乱暴に顔をこすりたかったけれど 腕が動かせないからわざとらしく瞬きを繰り返す。 こんなつまらない事さえ気にする自分が本当に馬鹿みたいだ。 背中ごしで良かった。 多分今自分は酷い顔をしているだろう。 とてもみっともない顔になっているんだろう。
まあ武蔵にしてみれば。 目の前にあのこの背中なんかあったらそりゃあ落ち着けません。 ああ昨日痕つけなくて良かったとか。 いつもならひそひそうるさい教室が静かだとか。 熱心に描いているキャンバスを後ろから見て腹立たしかったりとか。
見るな、あれは俺のもんだとか。 考えてばかり。 うわのそらなまま。
蛍光灯の明かりの下でみんなに注目されるヒルを 正視できるわけもないんだ。
放課後。美術室におかれている大きなクロッキー帳を2人で眺めながら2人は誤解をといていました。 一番綺麗に描けていた子のスケッチブックをこっそり開いてたわいもない会話。 その最中に。 武蔵がそのスケッチの上を指でなぞるからヒル魔が少し赤くなる。
「何触ってやがる」 「おまえさ、ここ、わかるか」
肩胛骨の下のくぼみ。 椅子に両肩を乗せていたからその場所の影は浅い。 いつも武蔵が指をかける場所。 思った以上に自分の背中が貧相だと感じるのは、 いつも見ている武蔵の背中と比べてしまうせいなんだろう。
夕べも、何度も触られた場所。
「この辺とか、さ。」
言いようのない恥ずかしさでヒル魔は両手を静かに握りしめた。 しめった手のひらの感触に、落ち着けと無意味な言葉を繰り返す。
「普段触ってもくすぐったいだけだろ。」
昼間や意識していないときに、そんな場所を触られても当然何かを感じる訳がない。 例えば今だって。触られただけで体がすぐに「それ」を意識することは無い。 無いと思う。思うのに。
「だけどなあ。」
思い出すように武蔵の指が紙面をなぞる。
触れられてもいない。 場所は学校。時間は夕暮れ前。 じわじわと体が熱を帯びる。 多分一番熱いのは頬。
「おっぱじまったら、よ。」
制服のズボンで手のひらを拭う。 武蔵が何を言おうとしているのか。 意識してこんな仕草を見せつけているのなら。 これは、酷い辱めだ。
思い起こされる武蔵の部屋の天井。 嗅ぎなれた、布団の臭い。 窓も開けず、ドアも閉めたまま。室内にこもる二人の体臭。 古いベッドのきしむ音。 抱きしめた時の武蔵の背中。厚い筋肉と爪を立てた時の柔らかさ。 のしかかってくる重さと熱。耳に届く互いの息。 すぐに感覚が蘇る程、体に染みついた武蔵との情事。
「どんだけ気持ちが良いもんなんだ?」
指が、腰に降りてそこをなぞった。 木炭だけで描かれたそれは、指が触れるだけで黒くにじむ。 まるで、ヒル魔の腰に溜まり始めた熱の要に。
「なあ」
言葉に出さず、武蔵は視線でその先を尋ねる。 確信めいた、意地の悪い目つき。
ふわふわと体が浮き立つ体。 我に返るにはほんの少し体を振るだけでいい。 何馬鹿なこと言ってるんだと声を出せばそれで済む。 薄い薄いもやのような感覚は、カンタンにヒル魔の体から消えて無くなる。
そうすべきだとヒル魔は思う。 けれどそれを選ばないのがヒル魔の選択。 それを察して笑う武蔵。
なあ。その気になったら。 お前のココは、どれだけ気持ち良くなる?
少しでも動けば消えてしまいそうな薄い「それ」をつなぎ止めたくて。 伸ばされた指に舌を這わせた。
ヒル魔の腰をなぞった、指。 黒く粉を残した指。
目を閉じてそれを味わいながら。 ヒル魔は背中が疼き始めるのを感じていた。
場所は学校。時間は夕暮れ。 赤く染まり始めた教室の中で。 近づく武蔵にヒル魔は抱きついた。
20050614>手直し20060710
やまだ
|