INDEX西部オフライン

2000年05月11日(木) Xファイル 後編

 
失意のどん底でFBIを後にしたヒル魔は
誰も人が訪れないようなど田舎でのひっそり生活をはじめました。
地球上より進んだ科学で電波も電気も思いのままにしっかりこっそり引いています。

1週間程で生活は落ち着き、閑を持て余したヒル魔は
武蔵のその後を調べてみました。
我慢する事は出来ませんでした。


何重もの防壁を超えて武蔵へ到達するための抜け道はしっかり確保しています。
FBIにどれだけの情報が集まって、どれだけ真相をつかんでいるのか。
例えその部署からヒル魔が離れても
地球人達がエイリアンへどう対処しているのか。常に把握したい情報です。


武蔵が使う機械やプログラムの1つに「宇宙人探査装置」があります。
ヒル魔と武蔵が作った物です。
地球で発生した生き物以外を統べてチェックするシステムです。
もちろん「ヒル魔」の存在はしっかり除外するように組んであります。

武蔵の情報を手にいれようとFBIに潜入しても、いざとなると怖じけつきます。
新しい秘書が増えていたり武蔵に突然彼女が出来ていたらと思うと
キーボードを叩く指さえ震えます。

まず手始めにヒル魔はシステムに探りを入れました。
武蔵自身はとんだ馬鹿ですが、働いている場所は仮にも一応政府の機関。
ヒル魔に繋がる情報は、どんな些細な痕跡も消しておかねばなりません。
武蔵が一体今どうしているのか、気になりつつもヒル魔はシステムをチェックしました。

2人で作ったシステムが集めた情報は決まったルールで分類されます。
新しく蓄積された多くのデータに目を通しつつ、そこにかけられた
「検索」の跡、武蔵がデータをチェックしただろう順番と日付。
まずそんな所を確認していると。プログラムが一部かき加えられている事に気がつきました。

たくさんの因子を組み合せた巨大、かつ微細なリクエストを可能にする
高性能探知システムです。世界中に溢れている膨大な情報の中から
こちらが望む内容を含むものだけを選り分ける性質を持っています。

その、プログラムの中。
たくさん含まれた因子の中に、ヒル魔が入れなかった因子が増えています。



「ヒル魔」



その「名前」を引っ掛けるように書き換えられているプログラム。
変更されたのはつい最近の事。
一体誰がこんな事をしたのでしょう。
因子は組み合せてこそ意味があります。ぽつんと放り込まれた
「ヒル魔」という単語が人名なのか場所なのか、そんな基本の副情報もなく
ただ唐突にぽつんと書き加えられている単語。

一体だれがこんな事を?
ヒル魔の情報を知りたい「誰か」がFBIに現れたのでしょうか。
機械やシステムに詳しい者なら、この程度の因子き込みはほとんど意味をなさない、と言う事がすぐに分かるはずです。
これなら、googleで名前を打ちこんで検索する方が、世程早くて分かりやすい。


ふとヒル魔は武蔵のIPの跡を追いました。
こんな意味のない事をするのは武蔵しかいないだろうという
妙な直感がどこかにありました。

武蔵のPCが回った履歴をチェックすることでヒル魔は直感が
間違ってはいなかった事を知ります。


武蔵が「ヒル魔」を探しています。



ヒル魔 ひるま hiruma 蛭魔



同じ名前の形を変えつつ何度も検索かけた跡があります。
FBIのシステムの中、行方不明者リスト、飛行機のチケット、
有料道路使用者リスト、死亡者リスト、転居届けに無数のホテルの宿泊簿まで。
そこには武蔵が無い知恵をしぼりながらヒル魔を探した跡があります。


どうして俺を探しているんだ。


ヒル魔は込み上げる感情をなんとか押しとどめようとしました。
銀行の明細やカードの使用状況。
過去に使っていた携帯やカードはすべて新規に作り直しました。
ヒル魔の存在を探す人間にしっぽをつかまれるような痕跡は一切残していないつもりです。
この程度の探索ではヒル魔に辿り着く事さえ不可能です。


けれど。武蔵はヒル魔を毎日探していました。
武蔵の元を出ていった翌日から、毎日毎日探していました。
見つけてほしい、と強く思います。
見つけて、迎えに来て欲しい。また一緒にFBIで働きたい。
だって、こんなに武蔵に会いたい。



















数日後。武蔵がそこに現れました。
「なんで、何でお前、急に……」
無精髭はのびたまま。シャツの首回りは真っ黒。
頬が少し痩せたようです。離れた所でも臭う程、ヤニの強い尾臭いがします。
満足に言葉もしゃべれず武蔵はポケットから煙草を取り出し舌打ちしました。
少しへしゃげた煙草の箱がいくつ出て来ても中身は全部からっぽでした。
「煙草の量、増えたんじゃねえか」
「止める奴がいねぇからだろ」
それきり、会話が止まります。

ここに手引きしたのはヒル魔です。
武蔵がすぐに気が付くように、いくつかの記録を書き換えました。
会いたい気持ちが強かったからです。
武蔵がヒル魔を探しているなら、何か変わるかもしれない。
欲しい何かをくれるかもしれない。
自分でもよくわからないような、あやふやな気持ちがそうさせました。

手持ち無沙汰でいらいらしたのか武蔵がライターを手の中で回しています。
お互い、かける言葉が見つかりません。
言いたい事はたくさんたくさんあったはずなのに、それが1つも思い出せない。
会えば解決すると思ったのに前より空気が悪くなった気がする。
あんなに会いたいと思っていたのに会ったら何をするつもりだったんだろう。


どうしてここにいるんだろう。


気まずくて空気が悪くて逃げ出したくなるような気持ちの中。
ヒル魔は重たい口を開きました。
「なんでここに来たんだよ」
ここに来るように餌を巻いたのは自分だけれど。
「何で俺の事探してたんだよ」
探してもらったのは嬉しかったのに。
「会ってどうしたかったんだよ」
それは俺だって一緒なのに。

「そんなの……知るか」
武蔵のもそもそとしたそっけない返事。

「じゃあ何で来たんだよ!」
「来たかったからに決まってんだろ!」
「お前何しにここに来たんだ!」
「俺だってよくわからねえよ!」
「勝手に誤解したくせに!」
「お前に会いたかったからだろ!!!」

それきり言葉がまた途切れます。
長い沈黙が再び降り、それを武蔵が破りました。

「お前がいなくなったら、俺が困る」
思わずヒル魔は顔を上げました。
武蔵は下を向いたまま、こちらを見ようともしませんが手にしたライターが落ち着き無くぐるぐると動いていました。
「お前は俺の……」
俺の、何?
武蔵が口を開いて閉じて、何度も何度も言い淀みます。
「お前は、俺の……エイリアンなんだよ」
ヒル魔は耳を疑いました。
今、この男は一体何を言ったのでしょう。

武蔵は首までが真っ赤になりました。
照れ隠しのように頭を掻いたり、耳に指を突っ込んだり、落ち着きのない視線を見て。
ヒル魔は武蔵の言った言葉の意味を冷静に考えます。
考えようと、しています。
考えようとしたのですが。


ぼろり、と涙が溢れました。
あちこちうろついていた武蔵の目がまっすぐこちらを見ています。
隠す事も出来ません。ヒル魔はぼろぼろと涙をこぼしました。
「何で泣くんだ」
武蔵がおろおろとヒル魔の肩に手を置きます。
「泣いてねえよ」
「だってお前」
「てめえ、少し黙ってろ」
ヒル魔は半歩だけ前に出ました。
ぶつかった武蔵の胸板に濡れた頬を埋めました。
どうしていいのか分からないように、武蔵の両手が背後を揺れているのがわかりました。
目を閉じ、体重をもたれかけさせ、両手が背中を抱くまで待って、それからヒル魔も両手を背中に回しました。
「ヒル魔、おい……」
「少し黙れ」
両手に力を少し込めて、少し高い顎に近付き、後は武蔵に任せます。
柔らかく唇を塞がれて、目蓋を閉じるとたまった涙が溢れました。


武蔵が生涯をかけて追い掛けている「未知の生命体」への情熱はそれは高いものでした。
いつも複雑な気持ちで見ていました。どんなに周りに馬鹿にされても諦めないで追い掛けて、
時には危険な目にあいながらも武蔵は「それ」を追い掛けていました。
嫉妬もしたし、恐怖でもあり、正体がばれる不安も強く、それでも武蔵が好きでした。
とてもくさい台詞でしたが、武蔵にとっては一番強い言葉なのでしょう。

武蔵の腕の中でヒル魔はたくさんの事を考えます。
嬉しい。
嬉しい。
すごく嬉しい。
すごく嬉しくて何もかもどうでもよくなる。

武蔵の誤解を解かなければならない。
本当は地球の住人じゃないとも言いたい。
何度も嘘をついてきたから、全部1から謝りたい。
あんまり下手に出るとこの馬鹿はすぐに調子にのるから全部を言うのは止めた方がいいかも。

この腕の中が本当に気持ち良いと、それを一番に伝えたい。
それを伝えれば後はきっとうまくいく。
そんな気持ちを、伝えればいい。

両手の中の武蔵の体も、抱き寄せられる腕の強さも、うっとりする程気持ち良い。
まずは、それを伝えよう。



多分時間はたっぷりあるから、ゆっくりゆっくり伝えよう。




























よくよく考えてみると、地球より湿度高かったら
脱皮の必要はあんまりないんじゃ……。
乾燥が強いから皮膚が水分を貯えようとして硬くなるのか?
それとも爪の様に大気の水分量とはあんまり関係ないのかの?

脱皮と皮膚と水分の関係は適当です。
単にヒル魔をぬるぬるさせてみたかっただけです。(させるな)
あやふやしすぎ!(反省点はもっと他の所にあるような気がします)



書いてる最中に思いついちゃったいらん設定としては
どうして武蔵がそんなに「宇宙人」に恋いこがれてるのかとか。

多分子供の頃会ったのですよ。
そいでそれが初恋なんですよ。
しかもそれはヒル魔なんです。
観光で地球に遊びに来てたの。
思わず地球の男の子に会って。
膝から血を出すヒル魔を見て。
膝の怪我にハンカチを巻いて。


それが2人の初恋だったの。

そんなチープな設定があったりすんです。



なんでヒル魔が地球にひとりかとか
どうでもいい事ばっかり考えます。
考えるから遅くなるんです。

PM11:10


やまだ