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すうすうと寝息をたてて、ヒル魔が眠っています。予定よりも早くおうちに帰る事ができたムサシさんは、寝室の入り口からそっと覗き込みました。足音を忍ばせて、そっと近寄ります。ベットの足下に、枯れ草で作ったヒル魔の寝場所があります。しっぽまでもがくるんと丸まったそのまん中に、ちょこんと頭をのせています。寝息は深く、どうやら熟睡しているようです。 可愛らしさに見愡れていたムサシさんは、はっと気がつきます。ヒル魔を起こさないように静かに、慌てて寝室を出ました。たしか。ここにあれがあったはずだ。 台所の戸棚や机の引き出しをごそごそかき混ぜると、奥の方にそれはありました。 新築のお礼にもらったケーキを包んだリボン。綺麗に包まれたお菓子の包装材。何かに使うかもしれないと乱暴に引き出しの奥につっこまれていたそれを、ムサシさんは取り出しました。外に咲いていたお花も集めて、ムサシさんは寝室に戻りました。 静かに眠っているヒル魔の耳に、白いお花を置きました。思った通り、とてもよく似合います。いつも見る道ばたのお花が、今はとても綺麗です。 お花を回りに飾って、そうして、手で短くちぎったリボンを回りに散らします。色とりどりの飾り付けのまん中ですやすやと眠るヒル魔さんは、とても可愛らしいのでした。自分の仕事ぶりにムサシさんは満足して何度もうなずきました。 どうして、こんなに可愛らしいのでしょう。起きている時はあんなに口が悪いのに。自分勝手で、こちらの言う事なんてひとつも耳を貸さないのに。
このところ、お仕事が忙しくてなかなか二人の時間がとれません。折角のお休みの時にも、最近では小さな事に喧嘩してしまいます。こんなに好きだな、と思うのに。それがなかなか伝えられません。どれだけ言葉を尽くしても、伝えられない事がたくさんあります。 眠っている、今なら。簡単に言えます。 「好きだぞ」 鼻の先をつんつんとつつきます。起きる様子がないので、顎を撫でます。ヒル魔が喜ぶ場所の一つです。 好きだ、という事だけじゃ、喧嘩はおさまりません。 ヒル魔が、自分と違う事を考えているのがわかります。自分より、とても複雑に考えている事も知っています。だから、でしょうか。ため息をつかれます。苛ついた声で、なんでもないと言われてしまえばそれきり何も言えません。暗い表情でぼんやり外を見ている事が多くなりました。でも、ムサシさんにはどうすることもできません。 謝ってすむのなら、何度でも頭を下げます。原因がわかれば、悪いところがあれば、すぐに直します。 何があったというわけじゃ、ありません。ただ、少し。気持ちが少しだけ、行き違います。ちょっとだけ、ずれてしまいます。本当に小さな違和感が、積み重なって。言葉では説明できない不安が積み重なって。 こんなのは嫌です。 ヒル魔も、そう思っているようです。 出来るだけ、一緒にいたい。本当に、それだけでいいのに。
ムサシさんは、ヒル魔の指に余ったリボンを結びました。肉球とおそろいの、淡いピンクのリボンです。 こういう細かい作業は苦手なので、なかなかうまくいきません。何度巻き付けても、ほどけてしまいます。初めは綺麗だったリボンが、だんだんとくしゃくしゃとしてきます。不器用だな、と思っても。どうしてもこれだけは結びたくて。ムサシさんは指を動かしました。
もう、とっくにヒル魔が目を覚ましている事はわかっています。眠ったふりをしているのです。それが照れくさいからなのか。顔を合わせずらいからなのか。分からなくて、ムサシさんは悲しくなります。 大好きなんだがなあ。 今度は口には出しません。
ヒル魔が自分を大好きだと言う事を、知っています。自惚れて良いと、思います。 けれど。
ぎゅうと抱き締めて、なにも心配するなと言いたいのです。 どうすればいい、と聞きたいのです。 そんなことは、言っても何も意味が無くても。
すうすうと寝息をたてて。ヒル魔さんが眠っています。周りに綺麗なお花とリボンを飾って。 指の先には、ピンクのリボン。
ピンクのオンパレード。やつの周りは、いつでもパステルカラーだよ
20050414 back<< >>next <倉庫にモドル>
やまだ
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