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2000年03月05日(日) [夕陽]

[夕陽]

教室に戻ると。
逆光を背に、奴はただ立っていた。のびをするように両腕を肩に持ち上げ,
物音にこちらを振り返り、それきり、動きが止まった。

今まで待っていたのだから、止める気はないのだろう。
黙っているのだから、かける声もないのだろう。
たくさんの時間を過ごしたつもりで、今思えばそれはほんの一瞬だった気もする。
それでも、なかったことにするには、濃い毎日だった。
ムサシは、机の中をもう一度確認すると、鞄を持った。
窓に眼を向ける。一段と濃くなった西日が、周囲を染めあげる。
白いシャツは赤ににじんで、輪郭が曖昧だ。表情が見えない。それが、良いと思う。

動きの止まったヒル魔は、何も言わずにこちらをただ見つめる。
最後に、なんと言うべきか。ずっと考えてきたのに喉を付く言葉は見つからない。
じゃあな、ともまたな、とも言えない。
言葉を受けるヒル魔と、明日につながるものの、何もかもが消えるからだ。

今日。俺はここを後にする。

どんな言葉もない。
きっと、栗田はすぐそばで泣いている。顔を見ないで行こう。
あいつの顔は、優しすぎてつらい。
ヒル魔の顔は。
目をこらしてもわからない。
自分が、どんな顔をしているのかも、分からない。
赤に溶け込むようになじんだその姿は、ぴくりとも動かない。


何も言わずに背を向けて、教室を出た。
その後ろで、あいつがどんな顔を浮かべているのか。
分かるようで、わからなくて、それでも。
泣いていないといいな、と思った。


あの日から。夕陽の赤が目にしみる。






20050410

<倉庫にモドル>



やまだ