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[夕陽]
教室に戻ると。 逆光を背に、奴はただ立っていた。のびをするように両腕を肩に持ち上げ, 物音にこちらを振り返り、それきり、動きが止まった。
今まで待っていたのだから、止める気はないのだろう。 黙っているのだから、かける声もないのだろう。 たくさんの時間を過ごしたつもりで、今思えばそれはほんの一瞬だった気もする。 それでも、なかったことにするには、濃い毎日だった。 ムサシは、机の中をもう一度確認すると、鞄を持った。 窓に眼を向ける。一段と濃くなった西日が、周囲を染めあげる。 白いシャツは赤ににじんで、輪郭が曖昧だ。表情が見えない。それが、良いと思う。
動きの止まったヒル魔は、何も言わずにこちらをただ見つめる。 最後に、なんと言うべきか。ずっと考えてきたのに喉を付く言葉は見つからない。 じゃあな、ともまたな、とも言えない。 言葉を受けるヒル魔と、明日につながるものの、何もかもが消えるからだ。
今日。俺はここを後にする。
どんな言葉もない。 きっと、栗田はすぐそばで泣いている。顔を見ないで行こう。 あいつの顔は、優しすぎてつらい。 ヒル魔の顔は。 目をこらしてもわからない。 自分が、どんな顔をしているのかも、分からない。 赤に溶け込むようになじんだその姿は、ぴくりとも動かない。
何も言わずに背を向けて、教室を出た。 その後ろで、あいつがどんな顔を浮かべているのか。 分かるようで、わからなくて、それでも。 泣いていないといいな、と思った。
あの日から。夕陽の赤が目にしみる。
20050410
<倉庫にモドル>
やまだ
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