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| 2000年03月04日(土) |
[物が言うことには] |
私の名はMー16。A社から発売されたポピュラーな形のマシンガンだ。 現主人と出会ってから、1年と少し。それなりに充実した日々を過ごしている。 主人の周りには仲間も多い。初めは少なかった同タイプの仲間もすぐに増え、饒舌に自分達の活躍を誇る彼らの話に耳を傾けるのが一日のはじまりで、終わりだった。
私の後に入った物たちは、誰もが型と口径が大きく、破壊力がある。以前から主人に仕えているのは、皆ハンドガンタイプばかりで、それを後から来た物達が笑った。ただ、私はそれが気になった。 それまでの品揃えを見れば、あまりに唐突すぎ、また、不自然な選択だ。 主人の元に長くいるだろう先人達が、話をすることはめったにない。
主人がどうして私を手にしたのか、その理由を彼らは私には話してくれない。 私を手にした時から、主人は明らかに「銃器」の揃え方が変わった。 何かを恐れているような。何かを守ろうとしているような。
主人が、我々を使ってまで、残したいもの、手に入れたいもの。沈黙して、語ろうとしない先人達が、主人に深い尊敬の念を抱いていることはよくわかる。それは私も同じだ。それと、同時に。彼らが私の知らない時代の主人を知り、語らない点がとても私を不愉快にさせる。
ガンタイプの我々の他に、この「部室」と呼ばれる場所ではたくさんの発言者達がひしめいている。「アメフト」なるスポーツで使われる道具だそうで、彼らは我々以上によくしゃべる。誰もが口が悪く、あまり賢そうには思えないが、謎のマスコット「デビルバット」が彼らを束ねているために、その結束は高い。 今、騒がしい程の言葉の中で、話題の中心はJ・ライス。今はいない、彼らの仲間の一人だった男だ。
「だいたいさあ、あのヒルマってのが横暴すぎねえ?いままで散々世話になった癖によぉ!」 「一人じゃパスも出来ない癖に、さぁ!」 「ライスの兄さんも、ひでえよ。おれたちに一言もなしでさ……」 「兄さん、ぼろぼろだったのよ。あちこち折れて、お腹なんて、何度やぶれたか分からないし」 「蹴飛ばされても、殴られても、文句一つ言わなかった。あれが男の鏡ってやつだ」 「吊られて、燃やされて、ひどい最後だよ」 「アレが真の男の花道!最後は俺も一花咲かせてみせるさ」 「兄さん達、ヒルマなんかぼこぼこにしてやりましょうぜ!」 「あいつら、俺らが言うこと聞かなくなったらどんな顔すると思う?」 「ひひ、それ、それ、いいなあ。」 「ぶっころしてやるぜ、ヒルマ!」
話が物騒な方向に走るのはいつものことで、私は彼らの怒声を聞きながら、最後にかわしたライスとの言葉を思い出していた。 「そろそろ、俺もお払い箱かな」 「突然、何を?」 彼とは付き合いも長く、主人に対しても敬意を払っている、いい話し相手だった。 「このところ、お呼びがかからねえ。良いことだ」 「……道具にとっては、いいことじゃないだろう」 「良いことだよ。本当は、俺なんかいないほうが、ずっと良かった」 どうして、と聞こうとして、私は聞けなかった。 彼もまた、私には伝えない何かを知っているのだ。 「私たちの主人は、きまぐれだから…しばらく倉庫で休めばまた出番も来るだろう」 「いいや」 練習中の、にぎやかな声が遠くに聞こえる。 彼は、私の主人と二人きりで過ごすことが多かったために、それだけに、私以上に主人のコトを知っている。 「俺は、いない方が良いんだよ」 その目の先には、懐かしさと何かをやりとげた満足げな色に満ちていて。 私は何も言えなかった。 「もうすぐ、あの人が帰ってくるからな」 あの人。知っている。1年と少し前にあった何か、に関わっている名前だ。 その名の前では、誰もが口を噤んで下を向く。おそらく、主人が私を手にした理由に大きく関わっている人物。 誰もが話をそらそうとする、その名前は。私の未知の世界の扉となった。 「ムサシ、さん、か……?」 「はは、この話題じゃお前はいつも不機嫌になるな。」 「……」 「そのうち、わかるさ。あの人は必ず、戻ってくるからな」 ライスは、本当に、主人をよく支えてきていた。雨の日も、どんなに天候が悪くても、彼は文句一つ言わずに主人の動きにつきあった。悪態もつかれていた。何度も蹴られ、投げ出され、それでもライスの口から主人を嫌う言葉は一度もでなかったのだ。 本当は、とてももろい主人の姿を知っている少ない仲間の一人だと思っている。 「帰ってくるから、お払い箱なのか?」 「………。いんや。」 外はそろそろ、日を落としかけていて、部室に残された道具達が長い影を床に落としはじめた。 「ヒル魔さんには、もう、仲間がいるからさ」 それでも、その仲間じゃあこなせない役割も、ライスはしてきたはずだ。ただ、肩を震わせていたあの時も、やみくもに雨の中の練習で泥にまみれていた時も。あの人は、あんたに顔を埋めていたじゃないか。誰にも言えない泣き言や、愚痴や、悔しさを、あんたは人一倍聞いていたはずなんだ。 「お前が何を言いたいのか、わかるけどよ。所詮代わりなんだ、おれたちは、みんな。」 そう言って、ライスは私に背を向けた。喋りすぎた、と言わんばかりに。 そうして、間もなく。彼は本当に私たちの前から姿を消した。きっと、最後の瞬間まで主人を恨むこともなく。
私は親しく話を交わす友人をなくし、それから流れた月日の間に、いろいろな経験をした。仲間が、増えた。大工に会った。試合が増えた。部室が広くなり、たくさんの情報を耳にした。主人の表情に、笑顔が増えた。 私が主人に出会って、1年と少し。もうすぐ、また、メンバーが増える。おそらく、これで最後のメンバーが。私が嫌っていた、あの男が。 主人を泣かせるのも、悲しませるのも、たいていの原因はあの男で、そうして、何よりその顔を喜ばせるのも、あの男の名だった。今なら、ライスの言葉が少し分かる。 きっと私が主人に選ばれたその日、あの男がこの場から立ち去った後で。 銃器が一気に増えたのも、足りない自分の手の長さを補うためで。 あの男が戻ってくるまでにたくさんの物を作り上げることに必死で。
でも、どれほど作り上げ、虚勢を張り、たくさんの武器をそろえても。 あの男がいないという現実をとても打ち消せずに。 どれほど強い武器がそろっても、主人を慰めることもできず。 それを、ライスは、知っていたのだ。
わたしたちは、あの男の代わりにさえなれないのだと。
主人が、私を呼ぶ。私は、それに応える活躍をする。 けれど、もしも。主人が私を呼ばなくなる日が来るとすれば。
それは、なんとすばらしき未来なのだろう。
私は、その日を思い、今日も主人とともに過ごす。
20050408
<倉庫にモドル>
やまだ
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