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「これって、冗談ですよねえ…」 細々とヒル魔に向けられるセナの言葉に力はない。
ハロウィンの仮装で、もっとも注目を集めたチームに賞金が出る。 そんな噂が渦巻く泥門高校のとある部室では、ため息と諦めの空気がただよっていた。 「本気なの、ヒル魔?」 尋ねる栗田の言葉も、どこか弱々しい。彼等の目の前にいるヒル魔と呼ばれているのは、一見しただけでは黒い尖った固まりにしか見えないだろう。 本人いわく「デビル」をイメージしたそうだが、御丁寧にわざわざ光を吸収するような素材で作られた衣装は、禍々しさを十分にまき散らしている。いびつな角や尖った爪などがランダムに縫い付けられ、おせじにも趣味が良いとは言いがたい。ただ、確実に注目を浴びることは間違いない、衣装。それが、部室の中央テーブルに山と積まれていた。 「人数分、サイズもあわせた」 派手好き、イベント好きなヒル魔らしい行動の早さと周到さに、周囲はいつも巻き込まれている。確かに、これならば優勝も夢ではない。しかし。 今後確実に、アメフト部に付きまとうのは「死の軍団」やら「悪魔の化身」だの、悪役のイメージ一直線である。ただでさえチームを率いる男のイメージが悪い。 不可能としりながら、部員の誰もが、おずおずとヒル魔に「やめないか」と提案し、そのすべてが簡単に否定される。弱々しい問答は、次第に静まり、後にはただ諦めだけが残った。
机の上に積まれた異様な物体の山に、誰もが本日何度目かのため息をついたころ。 「屋根の修理、終わったぞ」 「おう、ムサシ」 明らかに場の空気を読み取れずにいる男が、部室前に立っていた。 「何だ?その格好。」 「来週のハロウィン用ユニフォームだ」 どうだ?と上機嫌で見せるヒル魔。そう、彼は機嫌が良かった。思った以上の悪評が立った衣装のできばえに満足していた。だから、読みが浅かった。 部員達は、祈るような気持ちで武蔵の言葉を願った。できれば、似合っていないと。このヒル魔の計画が根本から覆るような発言を。 「ふうん」 ちらりちらりとムサシの視線が上下して。真顔のまま、口を開く。
「かわいいな」
とたんに、空気が固まった。 窓に向かって立つヒル魔の顔は、部員には分からない。しかし。 その背中から、明らかに、殺気を孕んだ怒気が満ちていく。 「こ、こっ…」 「お前、そういうの似合うよな。」 開いた窓の外でムサシが動いた様だが、それはヒル魔の影に隠れてしまう。 少しの間を置き。 「この糞じじいが!!」 ヒル魔の腕が、脚が、ムサシに向かってくり出された。 「なんだ、誉めてほしかったんだろ?」 「うるせえ!てめえは、どうしてそう…」 部員達は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら遠ざかる二人をただ、見守っていた。 いや、むしろ。想像を超えたムサシの発言に、感動さえ覚えていた。 彼等は、ヒル魔にさえも苦手な(というより御し得ない)相手がいることを知ったのだった。
話はこれだけに留まらない。 結局、ヒル魔はあの衣装を処分したようだった。部員達にも強制的な参加は求められず。ハロウィンは楽しいイベントのまま終了した。この後、ムサシのアメフト復帰を願う声が今まで以上に高まったのは言うまでもない。 彼等の脳裏に刻み込まれた図式。
一番恐いのは、ヒル魔さん。でも、一番強いのは、ムサシさん。
たとえ、試合には出られなくても。ちょくちょく部室に顔を出して、あの恐い人を押さえてくれないだろうか。誰もが自然にそういった意識を持ち、以来、ムサシは部室への出入りを非常に望まれる事になったのだった。
050411 取急ぎ、アップ。やばいなあ、更新が追い付かなくなってきている。 ハロウィンていつだっけ。秋?そんな遠くまでムサシいないの?とか。 そんな所に窓ないよとか、言われる前に言っちゃう。 <倉庫にモドル>
やまだ
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