INDEX西部オフライン

2000年02月03日(木) [ケータイ]03

03使用期限を守ってお使い下さい

それは、随分と前の事。

完全な漆黒の闇と言う場所は、意図しなければ生まれない。ヒル魔は、商品のパネルや非常電源用のわずかな明かりから必要な光量を得ていた。特殊なAIを持つ移動型ハードとして開発されてから、一体どれだけの時間が立っているんだろう。外部との接触は最小限に押さえているために、洋として知れない。逃げ込んだ先のこの倉庫は、見事に世間と隔絶していた。都合が良かった。同時に、コンテナごと捨てられる危険性もあったが。

開発者たちが思った以上に発達した学習型のAIとやらのおかげで、たくさんの物事を学べた。このコンテナ内にある見た目が似たような機種から、引きだせるだけの情報を引きだし。そうして、自分の存在がどういった物なのかを知らされる。
個人用にはあまりに高価すぎる代物。おそらく、あのまま開発が進めば軍用商品として開発されていたのだろう。逃げ出したのも、あいつらの鼻を明かしてやりたいだけだった。

世間に出ても、逆に持て余されるだけのスペック。じっくりと考える時間だけは十分だったが、その先に何があるのかはわからなかった。外に出るためには人間の力を使うしかなく。強く操作するための端末も、電力も、余裕があるわけではない。

無為に時間が流れ、自分の体内寿命の残りが気になり出したころだった。こんなところで朽ちるぐらいなら、最後の時間くらいは有効に使いたい。ただ、外に出たかった。

都合良く、古い商品を掘り起こすような注文が降りてきた。注文主の簡単な経歴などを調べた結果は思った以上に気にいった。こいつにしよう。宮大工という、今はない職業の流れを組んでいるのが気にいった。機械にうといようで、これならそれ程こちらの素性や機能を詮索はしないだろう。何を考えてこんな注文をしたのかは分からないが、丸め込める自信はあった。



アキハバラという街を歩き、その品揃えの豊富さに思わず笑みがもれた。これなら、なんとかなりそうだ。さんさんと日の光を浴びながら、自己診断をくり返した。残りの時間がどれほどなのかを、綿密に割り出す。荷物の中にまぎれていた古い携帯機種はあの倉庫からいただいたもので、思った通りにジャンクショップでは良い値段で売れた。その値段で、いくつかのノートパソコンと端末、カードリーダーなど必要な物を購入する。ネットに繋ぐことで、自分の素性や居場所がばれるのは馬鹿らしい。「今」ではすっかり古風なやり方のようだが、アナログ方式は一番一番足がつきにくい。

内部に走らせていたプログラムが、おおまかな自分の寿命を告げた。思ったよりも、短い。

あとは、どれだけ楽しめるか、だ。家主は変態だがうまくやれるだろうし、やれなくなる前に足場を固めて、出て行っても良い。どうせ捜し出せないだろうし、そう騒ぎ立てる奴とも思えない。
多少の金でも渡しておけば、問題ないだろう。どうしても手を出してくるようなら、それで外に買いにいかせればいい。

無骨で、さわると固そうな男だった。ぼんやりとしているようで、それほど頭が悪いようでもない。今までに見た事のないタイプだ。そうだな、と考えをめぐらせる。
色仕掛けもいいかもしれない。口封じには。逆に、俺に惚れさせればこっちの思うように動くのだろう。

想像するだけでそれは案外面白く、ヒル魔はひとり、笑みを浮かべた。







<befor
 next>
<倉庫にモドル>



やまだ