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| 2000年01月31日(月) |
5555記念[男の体に☆飯を盛れ] |
時刻は9時半。 そろそろ、武蔵の仕事が終わる頃だとヒル魔は時計を見た。 今日は、何にしようか。 2つの弁当箱の片方に白飯をつめて、考える。もう一つ。 まっ先に卵焼きを端に置き、冷めるまでに他の品を考える。 塩の強い味が好きな武蔵のために作った、卵焼き。 辛子明太子を内側に巻き込んだそれは、武蔵に気に入ってもらえた一品。 あとは。
用意していた具材をを箱の中につめようとして少し手を止める。 仕事で汗をかいている武蔵の好みで、いつも塩辛い物がメインの弁当になる。 でも。あんまりいつもそればっかりじゃあ。 浅漬けの白菜か。キャベツを下に敷いた方がいいかな。 油物を入れるから、ばらんを入れても、間仕切りにもうひとつ何か欲しい。 パスタでも敷くか。茹でた残りがどこかにあったはずだ。 鳥のかあらげには最後にあんをかけよう。鯖のマリネは、タマネギを抜いてある。 煮染めのニンジンをつまんでヒル魔は時計を見上げた。 あと30分。楽しい時間が終わるまで。 来るか来ないか。それがわかるまでの、30分。 今日は、あいつ来るんだろうか。
夜10時までのこの時間は、ヒル魔にとっての新しい遊び。
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弁当をここで食べて行く事もあれば、そのまま持って行く事もある。 実家にいるのに、どうしてそんなに食べる物に困っているのか。 聞いてみた事はない。 ただ、武蔵がここに来てくれるだけで嬉しい。それでいい。 いくつか質問をすれば、面倒そうな表情で返されてしまう。 腹が立つけれど、結局自分はあいつに惚れている。
最後に武蔵がが居心地悪そうにため息をついて店を出て行くのが最近のパターン。 会える時間は少ないから、できるだけ楽しく過ごしたい。 なかなかうまくはいかないものだけれど。
普段の自分なら、気楽に話せるだろう辛口の言葉も。 武蔵の前ではあいづちでさえも口籠る。いつもの自分の半分も度胸が無い。 嫌な悪循環にはまっていると、わかっていても。 今よりぎくしゃくするのが嫌で、簡単な会話さえもうまく言葉を選べない。 「おう」とか「ああ」だけで続く会話。
その後を思い出してヒル魔の手が止まる。 いつも、仕事を続けるこの場所。 床の上や、テーブルや、椅子の上。 思い出して誰もいない店内を見回した。 広く無いこの場所で。何度も。
顔が熱くなって、ヒル魔は息を吐いた。
今日は何時に来るのだろうと入り口に目を向けて、 そうしてそこに立つ武蔵の姿に息が止まった。 いつもの時間より、随分早い。 武蔵がいつ来ても良いように、この時間でも鍵は開けてある。 半分だけ下ろしたシャッターの下に、ガラス越しに屈んだ姿を見間違うはずがない。 がらがらと音を立てる引き戸を抜けて、内側からシャッターが閉められる。
「随分早いんじゃ、ねぇの」 「あ------腹減った」 勝手は知っているとばかりに、当たり前のように武蔵はカウンターの内側へ入って来た。 「今、弁当つめてるから椅子座って待ってろ」 「そんなの待てるか」 脇においた皿の上から、武蔵がひょいひょいと食べ物を摘む。 数が合わなくなると言いかけて、結局黙った。 武蔵が、好きなようにすればいい。 その手が選ぶ品を見極めて、嫌いな物がその中に入っていないかを観察した。 こう見えても、このがたいの良い男は好き嫌いが多い。 一応の好みは調べたつもりでも。 一度口に含んでから、二度と手を伸ばさない品を覚えておく。
「腹減った」 肉ばかりをつまみながら、油で汚れた指をヒル魔のエプロンで拭く。 「飯、盛るか?」 「んや、いい」 ある程度頬張ったところで、麦茶を差し出すと一気に飲み干された。 ごくごくと上下する喉を、唇の端からこぼれたものがつたう。 良い男だなと、ヒル魔は改めて思った。 不精ひげが、いつもより伸びている。 仕事からまっすぐ来ただろう汗の匂いも、気にならない。 ヒル魔の手許の弁当箱からも数品つままれて、最初の予定は大きく狂った。 普通なら、怒鳴りつける所だけれど。 すぐそばにいる武蔵にそんな言葉は投げ付けられない。 むしろ。 嬉しくて。赤くなった顔が恥ずかしくて、俯いてしまう。 どうしても顎より上に視線をあげられない。 直視できない分、少しだけ体を寄せてみる。 ふんわりと臭う嗅ぎ慣れた武蔵の体臭。
ほんのわずか、距離を縮めて胸を高まらせるヒル魔に。 武蔵の腕が後ろから絡み付いた。 ぎゅうぎゅうと抱き絞められて、期待していたとはいえ体が強ばる。 「腹へった」 後ろから、エプロンの下のボタンを乱暴に外してゆく指。 するりと内側に入り込んだ指先が、拭いきれていない肉の油を擦り付けるように降りて行く。 体温の高い指には、いつまでも慣れる事が出来ない。 触られた場所は指先から熱を受け取り。そこに火照りとむず痒さが残される。 肩がむかれ、そで口にシャツがたわむ。 ヒル魔の上体が簡単に引き出されて、その腰でエプロンが揺れた。 じゃまなシャツを床に落としたかったけれど。 武蔵の動きを妨げる事になりそうで、もじもじと後ろ手を擦りあわせた。 ボタンを外さなくては。抜けそうにない。 小さく動かした手が武蔵の股間に触れてしまい、ヒル魔は息を止めた。 ジーンズの上からでもわかる、その熱と高まり。 それが求める欲求が全部自分に向けられている事に。ちいさく目眩を感じる。 「なんだよ、触ってくれんのか」 耳を嚼まれて目を閉じる。 違うとも、そうだとも言えずにただ武蔵の腕の中で立ち尽くした。 キスをして欲しいなと思う。 首筋にとどく、武蔵の荒い息遣いを正面から感じたいなと思う。
しつこい程に武蔵の指は胸元を往復する。突起の周りをゆっくりと這うのは いつもの武蔵の癖の一つ。 目を閉じてヒル魔は浅く息を吐いた。 どこかに、気が反れた時。意識が胸から離れたとたんに。 指でつままれて声をあげさせられる、いつもの癖。 その時を待ち、充血し続ける2つの突起。 目を薄くあけると、いつもの仕事場。 作りかけで食い荒らされてしまった弁当に目を下ろす。 こんなところで。抱き締められて。胸を触られて。 腰がじんじんと痺れているのが。
なんて、気持ち良いんだろう。
武蔵に抱きついて、キスをしたいと思う。 こんなに気持ち良いなんて、信じられないと言いたい。 けれど。意図しない動きは好まれないから。 せめてこれだけはと腕を伸ばして包丁を遠ざけた。 シンクの中にそれを落とそうとして、ぎり、と胸に爪を立てられる。 「何してんだ」 「痛っ………」 シャツが後ろに引かれ、そのまま布ごとねじられた。 両手が一つに束ねられて、ぐるぐると残った布が巻き付けられていく。 「勝手に動くんじゃねえ」 動かせなくなる、両手。 苛々としたような口調が悲しくて、大人しくされるままになる。 武蔵を抱き締められなくなった。それが一番悲しかった。
詰めかけの弁当箱や、料理を載せた皿が武蔵の手で左右によけられ。 空いたスペースに背中を押し付けられた。 仰向けの視界で見た、今日最初の正面からの武蔵。 目の周りに浅い痣がある、暗い顔。 「その、目……」 聞こうと開いた口を、ふさぐだけの口付け。 諦めて目を閉じたヒル魔を見下ろす武蔵。彼が浮かべた表情は。 ヒル魔には結局、伝わらなかった。
背中にあたる、ステンレスの台が痛い。 押し付けられて冷たい金属の感触に、眉が寄る。 痛いのは、いやだ。 それを言う気も起きない程、熱い体。 触れられるどころか、脱がされてもいない腰が自然に揺れる。 窮屈に台に押し付けられた姿勢のヒル魔の胸を執拗になめる武蔵。 突起に歯を立てられ、舌で押され、甘く息を吐かれて体が震える。 何か、あったんだろう。 目を閉じていても、武蔵が荒れている気配は感じられる。 唐突でも。場所を選ばなくても。 わがままでも。急に態度が変わっても。 縛られても。 言葉が乱暴でも。 武蔵が好き。 武蔵にそうされるのが、好き。
悲しいのは。 そんな髪を優しく撫でられない両手の戒め。
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しばらく胸から腹にかけてを動いていた武蔵の顔が離れた。 うっすら目を開くと、脇にあった弁当の残りを見ている武蔵。 「これ、あんたが作ってたのか」 言われた事の意味が分からなくて、武蔵の目線を辿る。 「卵焼き」 「………ああ」 言われて、そういえばそんな事さえも伝えられて無かったなと思い出した。 卵液が少し残ったボウルを不思議そうに見ている武蔵。 脇にあった明太子の残りに手が伸びた。 指が、赤い魚卵をすくって口に運ぶ。 「辛いな」 頭にかかっていた心地よいもやが晴れて行く気分で、ヒル魔はそれを眺めていた。 気紛れに振り回されて。それでも嫌と言えない自分を馬鹿だと思った。 もう、今日はこれで終わりなんだろうなと体を起こして。 胸に押し付けられたものの冷たさに驚いた。 「同じぐらい、赤ぇな」 突起の周りに、押し付けられている指。その先についた赤い魚卵。 親指の腹で魚卵はつぶされ、押し伸ばされ、塗り付けられる。 色がついた突起を、さらに染めるように。 噛み付かれ、舌で何度もなぶられたその部分は、刺激に弱かった。 ふやける程に唾液を吸った肌は、その辛みの成分に悲鳴を上げた。 びりびりと伝わる痛み。 「んっ、痛い……」 片方に塗り付けられただけで、胸に火がついたようだった。 「ぃっ……や…」 見下ろす武蔵が、満足そうに笑う。 触れられていない方の胸に、再び武蔵の顔が落ちた。 柔らかく這わされる舌づかいは、心地よく、優しい。 けれど、その目的を悟ってヒル魔は身をよじった。 「いや…だ……」 甘い噛みつきも時折交えながら、胸がやんわりとほぐされる。 ついさっきまで。そうされる事が快感だったのに。 ペースト状のそれを塗り付けられた場所から、びりびりと体を揺らす痛み。 赤を塗り足す指が、その痛みを追い立てる。 痛くて。熱くて。 舌で嘗めあげられる柔らかな刺激がぼんやりと滲む。 いつも、それだけでとろとろと体が溶かされていたのに。 今は。 塗りこめられた場所は、腫れているのかも知れないと思う程熱い。 武蔵の息にさえ、肌が震える。 「こんなとこ、か」 突起を口に銜えたまま武蔵が呟く。 顔が離れて。赤を乗せた指が押し付けられた。 「っ………、やだっ………」 火を押し付けられたかと思う程。 それは唾液に慣れた肌へ染み渡る。 背中を反らして、体が逃げる。追い掛ける指が突起を摘んだ。 指の間に魚卵を乗せて、そのまま軽くひねられて。 ひどい熱さと痛みと、それだけではない刺激に、喉を反らした。 指が離れれば、火は熱を高める。 揺れる空気にさえ体はあおられて、声が漏れる。 胸を上下させて、身悶えても火は消えない。 その火が、熱い肌が、ヒル魔に一つの刺激をつきつける。 初めはじんわりと、そして次第に性急に、意識を塗り上げた。 見上げた武蔵は、楽しそうに笑い。ヒル魔が口を開くのを待っていた。 身をよじっても、解決しない刺激。 ぞわぞわと肌からその下の筋肉へと、その下へと、伸びて行く火の触手。 口にするには、あまりに恥ずかしく。 かといって、我慢ができる類いの刺激ではなく。 ヒル魔は目を閉じた。 目尻に熱が集まるのがわかる。 焦れるように腰が揺れた。 噛み締めていた唇を開けば、その言葉は簡単に吐き出された。 「か……痒、い……」 「どこが」 「……む、ねのところ………」 へえという言葉だけが降る。 じんじんと痺れる場所には何も降りては来ない。 「武蔵………」 「何だ」 唇を噛んだ。 武蔵が言わせたい言葉はわかっていても。 何度も口にしたのに、慣れない言葉。 特に、こんな状況では。 「……さ……わって…」 「どこを?」 「…痒い、とこ……」 「どこを?」 武蔵の息が肌にかかって、ひく、と腹が揺れた。 「…むっ………ね……」 手のひらが、腹と胸の丁度間に置かれて。ゆっくりと上へと這い上がる。 憎い程の、緩慢さで。 「胸、の?」 「もっと……上、だっ……」 「こう?」 肌に触れる程の距離で囁かれて閉じていた目尻が震えた。 武蔵の指先がようやく熱を持った場所に届き、息が漏れる。 触れるか触れないかの距離を保って指が、胸へ近付き。 焦らされた肌がぞくぞくと泡立つ。 安堵と。期待と。待ちわびた刺激と。快感に。 腰が揺れた。
片方を噛み付かれて、大きく仰け反る。 歯を立てられる事が、たまらなく心地良い。 指だけで弄られる片方は、引っ掻くように立てらた爪の刺激に喜んだ。 「……んっ…、噛ん、でっ……」 「すげえな」 肌に落とされる言葉さえも、刺激だった。 赤く染まった上体を見下ろして、武蔵は満足そうに笑った。 息を弾ませ、身をよじっているのは。胸への刺激だけで。 崩れそうな脚の間、エプロンの下ではさぞ苦しい事になっているだろうと。 武蔵はその奥へ手を伸ばした。 「ひっ、ん、……あっ………」 胸の周りに走る何本もの赤い線。 その数を、増やしながら布を下から押し上げる場所にも爪をたてた。 じっとりと濡れた布の感触が楽しくて、武蔵は喉で笑った。
面白い程に、自分に溺れる娘。 俺のどこが気に入ったのだろうか。 ここで、夜を過ごす時だけは。嫌な事から逃げられる。 何も聞いてこない、何も語ろうとしない娘。 今、一番気に入っている娘。 何も知らないこの娘に、たくさんの事を教えてやった。 白い布に、墨をまき散らすようなそれは、今の武蔵の楽しみの一つ。
こいつに全部を語る時がくれば。 いつかは、楽になれるのかもしれない。
この娘が救いになる可能性は高く。それに縋りたいと思いながらも。 暗い遊びに、武蔵はのめり込んでいた。
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息が苦しい。目を開いているのか、閉じているのか。 それさえもよくわからない中で、ヒル魔は武蔵が何かを手にしたのがわかった。 銀色の、丸い物がぼんやりと視界に入って来て。 降ってくる液体。 すぐには動かない体で自分の腹を見下ろす。そこに零された粘りのある黄色。 武蔵の手がそれをすくい、腹に伸ばした。 鈍い思考は、それが卵液だと気がつくのに時間がかかった。 へそに溜まった黄色に、武蔵が唇を落とす。 わざわざ舌を鳴らすように嘗められて、ヒル魔は目を反らした。 「甘ぇ」 武蔵の好みにあわせたそれに、砂糖やみりんは使っていない。 「甘くなんか、してねぇよ…………」 「へぇ」 顔を上げた武蔵が笑う。 「じゃあ、アンタが甘いのか」 カッと、頬が熱く火照った。 反応を楽しむように、武蔵が白い布の下で指を動かす。 きつい程に布がはっていて。身動きさえ、痛みが走る。 そこを撫でられて身体が強ばり。がくりと腰が落ちた。 武蔵の膝に脚を割られ、太ももを跨ぐ形で支えられる。 白いエプロンはそのままに、武蔵は下のジーンズに手をかけた。 ボタンを外し、布を引く。張り詰めた雄が擦れる刺激に布を濡らす。 「触ってねぇのに、勃たせすぎじゃねぇの?」 言葉の意味をはっきりととらえる事も出来ず、ヒル魔のぼんやりと視線が宙を揺れた。 押さえ付けられていた下肢の拘束が解けて、表情が緩んだ。 脱力した両足を武蔵は肩にかつぎ、卵液をつけた指で双丘奥を探った。 待ちわびていたように、そこは柔らかく指を飲み込んだ。 指の腹で内側から刺激を与えてやり、適度ほぐれたところで引き抜く。 やりやすいように腰の高さを調節して、武蔵がヒル魔の腰を引くと。 ずるり、とヒル魔の上体が台から崩れかける。 「おい、落ちるなよ」 気に止める事もなく、武蔵は腰を押し込んだ。 「あぁっ-------」 反らした体が台から落ちかけて、後ろ手にヒル魔は体を支えた。 ほとんど宙に引き出された体は、突き上げに耐えきれずがくがくと揺れる。 ずり落ちそうな体を支えるには拘束された腕では無理があった。 力が抜けて、崩れる体に武蔵は舌打ちをした。 背中に腕を回し、軽く突き上げてやりながらヒル魔を持ち上げた。 腰の一点に体重がかかり、武蔵の顔が歪んだ。 たたらを踏むように後ろに数歩下がり、その数歩の振動にヒル魔が顔を歪ませる。 ふらつきながら、武蔵はヒル魔を脇の壁に押し付けた。 ヒル魔の上体をそこで支えさえ、思うままに武蔵は体を揺らした。 壁に擦られる背中の痛みも気にならない程の、揺らされる刺激。 「あっ、あっ、…んっ、ぅ………、ぁんっ…」 開いた目にうつる、眉をしかめた武蔵の顔に。 キスをしたいとヒル魔はぼんやり思った。 朦朧と濁った意識は、霧の様に広がる快感にかき消される。 抱き締めたい。壁に挟まれて感覚が消えた腕はそれを許してくれない。 好きだと言いたくても。 喉からこぼれるのは意味を持たない喘ぎばかり。 せめて、名前をと思うのに。 そう思う端から意識が飛んでしまう。 ただ、突き上げられて。喘ぎながら。 武蔵の顔を見ていた。 自分の体に、喜ぶ表情。荒い息をはずませながら、揺れる顔。 だんだんと視界に霞がかかって、それさえも出来なくなって。
ヒル魔の目尻から涙が落ちたことに、2人は気がつかないまま。
息を、体を、声を止めて。 2人は同時に意識を飛ばした。
床の上に崩れて、荒い息を整えながら。 目を覚まさないヒル魔に、武蔵は。 優しく唇を落とした。 無意識の内に、武蔵の手がヒル魔の頬を撫でた。 その身体が床に落ちてしまわないように、膝の上に抱えて その背中に腕を回す。 気立ての良い、娘。 店のまん中でいつも楽しそうに切り盛りする姿。
それを、こんな姿にして。 歪んだ笑みが武蔵の顔に浮かんで、そうして。 ヒル魔の肩に額を落とした。 その姿勢のまま。 武蔵は、しばらく動くことが出来なかった。
夜明けまでは、まだ随分と時間がある。 店に光が差し込むまで。 2人が、光を見つけるまで。
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