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2000年01月30日(日) 6000記念[男の体に☆飯を盛れ2前編]

椅子に跨がって、こちらを楽し気に見上げる武蔵を。
ヒル魔は血の気が引く思いで、見下ろしていた。


今日は携帯に武蔵から連絡があった。
早めにそっちに着けると。弁当もいらないと。
だから、待っていろ、と。
すこし機嫌の良さそうな声に、給料でも出たのかなとぼんやりと考えた。
待っていろと、言われた。
店のカウンターに腰掛け、脚をテーブルにのせる。
何もしないで待つなんて。初めての事。
楽しそうに少し声が明るい武蔵の声。
気持ちが、それだけで一杯になってしまって。
そわそわと何もかもが落ち着かない。
どんな顔でここに来るのだろうとそればかりを考えた。
今まで、笑った顔を見たのは数回。
自分に笑いかけてくれる表情は、きっとそのどれよりも素敵なんだろう。
目が、ちらちらとガラス戸へ走る。
楽しみで。
テーブルを何度も踵で蹴った。
自然に熱くなる頬に、グラスを何度も押し当てる。
こんなに嬉しい事は、多分はじめて。


息を弾ませて入って来た武蔵は、すぐにヒル魔へ手を伸ばした。
夢みたいだ、とその腕に頬を寄せる。
仕事で荒れた手のひらは小さなささくれがたくさんあって、
少しこそばゆい。
目を閉じて、その感触を楽しんだ。
優しい武蔵。
「待ったか」
「別に」
夢みたいな、会話。
ずっと、こんな言葉を交わしてみたいと思っていたから。
紙袋を脇のテーブルに置いて、武蔵が隣の席に腰を下ろす。
そのまま、顔が寄せられて。
ヒル魔は目を閉じた。
恋人同士、みたいだ。
柔らかい触れ方に、胸がきゅうきゅうと苦しい。
締め付けられるようなほど、痛くて、嬉しい。

嬉しい。

おずおずと腕を武蔵の首に回すと、口の中に武蔵の笑いが広がった。
腰が引き寄せられ、あっという間に武蔵の膝の上に乗せられる。
ぎゅう、と胸が締め付けられる。
唇が離れても、武蔵の手が優しく髪の毛を撫でて。
何度も夢みたいだと思って。武蔵の肩に額を落としてその体温と匂いを感じた。
夢にまで見た、夢みたいな、夢。
耳もとに武蔵の息があたって、それだけで喘ぎそうになった。
「あんたさ、俺の事好きだろ」
楽しそうに囁かれる言葉。
「…………だったら、なんだよ」
「わかりやすいな」
赤い目尻を指の腹で撫でられる。
ささくれが、頬に線を引くような感覚。
すぐそばで見る武蔵の目の色に。
笑いと、悪戯をしかける直前の物を見る。
「俺のためなら、なんでも出来る、か?」
目の前の、武蔵にそう問われて。
自分に否定する事ができるわけ、ない。
本当にこの男に惚れてしまっている自分を感じて。
ヒル魔は目を反らした。
「何させるつもりなんだよ」
照れ隠しにさえもならないような台詞。
どんな恥ずかしい事をさせられるんだろうという期待と。
はじめて見せてくれる自分への笑顔に。
どこか、不安になる自分を無理矢理だました。

武蔵の目が。
本当は自分を見ていない事も。
企んでいる事が、自分にはあまり好ましくないだろうという予感も。

武蔵にされる事は、いつでも想像を超えた事ばかりで。
本当に驚かされていたけれど。心から嫌だった事は一つもないから。
きっと大丈夫。
ヒル魔は、目を武蔵に戻した。
「何、させるつもりなんだよ」
顎に唇を落として、肯定の意を伝える。
にい、と笑った武蔵の目。
少しその目が怖いと思いながらも。
ヒル魔は自分に言い聞かせた。

何をされたって。
きっと、平気。

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ごそごそと紙袋に武蔵が手を伸ばす。
何が出てくるのだろうと赤らむ顔は、期待と不安を隠せない。
そこから取り出されたのは、一本の缶。
ラベルをはがしたのか、ヘアムースを思い出させるその円筒形は
ヒル魔に何の手がかりも与えてくれない。
白いキャップを外して、武蔵が目の前でそれを振った。
内部で揺れる、液体の音。
なんだかわかるか?と問いかける目。
笑っているその武蔵の目の奥に何となく、恐怖を感じながら。
ヒル魔は首を振った。
ヘアムースでどんな事ができるのだろうと。
期待より、不安が少し膨らむ。
噴出口が顔の前に突き付けられた。
「ちょっと、目ぇ閉じろ」
目に滲みないように、ぎゅっと目を閉じたヒル魔の顔めがけて
武蔵は噴出用のボタンを押した。

シュワシュワと予想したとおりの音。
ただ、髪に向けられるとばかり思っていたヒル魔は、
そのムース状の物が顔に吹き付けられて驚いた。
目尻に、頬に、そしてそこから顎に垂れる物。
口に入ったらまずいんじゃないかと反射的に顔を拭って。
目をあけて、指についた物を確認した。
白い、泡。
そして。
弛んでいた唇から舌に触れる味。
「っ……………!!」
びくりと身体が跳ねた。
喉に絡んだ悲鳴をなんとか押し殺す。
あわてて顔を拭い、逃げる腰を武蔵がやんわりと引き戻す。
「あんたさあ」
楽し気に笑う、武蔵。
「嫌いなんだって?」
ヒル魔の鼻に乗った泡を指ですくって、それを見せつけるように揺らした。
「甘いもん」
ゆっくり口に近付けられるその指から、ヒル魔は必死で顔をそむけた。
唇をなぞる指は、優しく穏やかな動きなのに。
ヒル魔は背中に冷たい汗を感じた。
どうしても、乗り越えられない嫌悪。
過剰なまでに嫌な、臭い。色。感触。そして。
味。
ただ口のラインをなぞっていた指が、虚をついて押し込まれ。
「っ…、……っ、-------っ!!」
必死ではきだそうともがくヒル魔の首をもう片方が押さえ込む。
口の中で動かされる指に、脳を突き刺すような甘味をかき回される。
腰が、背筋が、ぞわりと凍る。
逃げる身体ががくがくと震える。
「便利になったよなぁ」
両手で顔を固定されて、否応なしに口につきこまれる甘味。
「押すだけでいいんだぜ?」
油で溶かした、砂糖の味。
勢い良く歯を食いしばってしまいそうで、ヒル魔は必死にその反射に耐えた。
「目ぇあけろ、ヒル魔」
自分の名前に、のろのろと目を開く。
多分、武蔵が口にするのは初めて。
とても、楽しそうに笑う表情。
「今日なあ、誕生日なんだ。俺の」
抜かれた指にほっと息を吐いた。
ゆるんだ唇から飲み下したく無い唾液が顎を伝った。
「祝ってくれるよなぁ?」
目の奥に。暗い色を沈ませて笑う武蔵。
自分が、愛してやまない男。

絶望的なほどに、自分を弄ぶ意志を感じながら。
ヒル魔はどうする事も出来ずに目を閉じた。


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何度も口をこじ割られ、強制的に飲下させられる甘味。
武蔵にキスをされても。どれだけ優しい言葉を囁かれても。
麻痺したように硬直する意識。
喉に、胃に、肌に。体内に降り積もる、嫌悪の感覚。
幾度も悲鳴をあげた喉はその都度、新たな甘味を放り込まれた。
顔を背ける都度、俺が嫌いかといつもの台詞。
逃げられない鎖のようなその言葉にヒル魔はあがらう術を持たない。

幾度目かに、口の中に泡を放り込まれ。
反射的に武蔵の胸を突き放すようにもがいた。
服の中に尽き込まれる缶。
シャツの下で、しゅうしゅうと新しい泡が生み出される。
「ひっ………ぃや、だっ……」
肌に触れるだけでそれは嫌悪を呼び起こす。
自分ではどうする事もできない生理的な拒絶。
立ち上がり、逃げようとする身体を何度も引き戻す武蔵の腕が
服の上から身体をなぞる。
「嫌、だっ……頼むっ、からっ…………」
泡が布越しに手のひらで潰されて、肌に塗り広げられる。
酷い悪夢のようで、ヒル魔は泣いた。
濃厚でむせる程の匂いに、意識を失いたいと思った。
武蔵の顔に飛び散った白いクリーム。
それ以上に自分は白にまみれているのだろうと想像し、逃げかけた身体から力が抜ける。
ヒル魔にとって、これは暴力をふるわれている以上の恐怖。
武蔵の手に握られた缶が、恐ろしい。
逃げても逃げても、追い掛けてくる白い恐怖。
武蔵が何を言っているのかも。
どんなに近くにいるのかも。
全部忘れてしまうほどの、本能の衝動。

気がつくと、武蔵の手がヒル魔の下着を剥いでいた。
むき出しにされたそこに、ぬめる手のひらが触れて行く。
何をされても、ただ体内にあるのは悲鳴。
恐怖からの逃げ出したい衝動。
武蔵に逆らいたくないという意識だけが、その全部の要求を押し殺す。
渦巻く欲求を、実行できない現実への絶望。
はじめに胸に抱いた淡い期待は、とうに黒く塗りつぶされ。
受け止めきれない状況に、意識が軽く飛びかける。

それを。
現実につなぎ止める白いクリーム。

舌打ちが鳴り、武蔵の手が動きを止めた。
「勃たたねぇかよ」
のろのろと目で武蔵を探した。
自分が好きだと言った男。
どこからかこんな目にあっている自分を助けてくれないだろうか。
そう思って。
視線が泳ぐ。

狭い店内。見なれた天井。
「何みてんだ」
聞き慣れた声。
肌が覚えた温もり。
ふいに唇をふさがれた。
麻痺してしまえば良いのにと思っていた口内に広がる、武蔵の味。
口の中の気持ちの悪さを塗り替えて欲しくて、ヒル魔はその舌を欲した。
間違えるはずが無い。
目の前の武蔵。

身体のあちこちに飛び散った、塗り込められた甘味から逃げたくて、
ヒル魔は舌を動かした。武蔵の唾液で、おぞましい感触を塗り替えて欲しくて。
背中に腕を回す。
薄れていた意識が回復する。
目を開くのが恐ろしくて、ただ、夢中で唇を絡めた。
のに。
あっけなく武蔵の腕がそれを阻む。
武蔵の息が荒い。欲情している事は、体温で分かった。
楽しくて仕方が無いと言う口調と。
濁りが増した目の笑い。
武蔵の指が、自身のジッパーを下ろした。
中から引き出した物に、自分で指をからめていく様子を、ヒル魔はぼんやりと見下ろした。
少しだけ息を弾ませ、武蔵の片手が缶へ伸びた。
「ヒル、魔」
熱に浮いた声が自分を呼ぶ。
自分の名前を。まるで呪縛の様だとヒル魔は感じた。
「嘗めろよ」
言われた言葉に、のろのろと動く身体。
震える膝が言う事を聞かない。
武蔵の肩に手をつき、かろうじて身体を立たせた途端に。
しゅうしゅうと忌わしい音がたつ。
見下ろした先の、新しい白い泡が。
武蔵の指に、その絡んだモノに吹き付けられた。

椅子に跨がって、こちらを楽し気に見上げる武蔵を。
ヒル魔は血の気が引く思いで、見下ろしていた。













20050524 0709

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