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| 2000年01月22日(土) |
男の身体の☆声が漏れ |
このところ、武蔵は苛ついていた。 仕事はうまく進んでいる。人間関係も順調だ。 顔つきがよくなった、と言われるようにもなり、そうなると仕事が面白い。 やる事なす事、今までの不具合が嘘のように流れはじめて。 その結果、夜毎に通っていた定食屋に行く暇がなくなったのはとても皮肉な話だ。
別に、会えないのが嫌な訳じゃない。 ただ。無闇に耳に飛び込んでくる噂。 最近定食屋の娘さんが、綺麗になったとか。 サービスが良いとか。 妙に機嫌が良かったりするとか。 以前うっかり足を触って半殺しになった男が、 最近はあのコも丸くなったよと訳知り顔で話す都度。 言い様のない苦渋が口に広がる。
別に、構わねえ。そう思う程、耳が敏感に噂を聞き付ける。 どうってことねぇよ。
昼の時間はびっしりと仕事に追い立てられる。もうすぐ、梅雨。 せっかく乾いた材木が水にやられないように、ここから先は天候との競争になる。 なんとか屋根を、棟上げまでを済まさなければならいないのはどこも同じで。 材料の届きも遅くなる。それでもノルマはこなさなければならない。
昔堅気の義父の方針で、工務店には大工を目指す若者が住み込んでいる。 その若者達の教育係に武蔵が当てられた。最近の若者らしい彼らの言動の全部の 責任は武蔵の肩に疲労と言う形でかかって来る。
ぐったりと泥につかりそうな体を引きずって家に帰る頃。 とうに明かりの消えてしまっている定食屋の前を通る都度、武蔵は面白くなかった。 工事の現場が遠いせいで、昼に通う事もできはしない。 ただ会えないぐらいで何かが腹の底にたまるだなんて。まったく、どうかしてる。
らしくねぇ。 とどのつまり。不愉快の原因はそこにあるんだと武蔵は思っていた。
久しぶりの逢瀬。 自宅に寄らず、まっすぐに定食屋に向かった武蔵に顔を喜ばせる娘。 機嫌よく座れと椅子を足で蹴り流し、目の前にどんどんと置かれる品々。 さっきまで誰かがいたのじゃないかと思う程な手際の良さに、 逆に箸が進まなかった。 「もう終わりか」 「あー。なんか、食いたくねえ」 自分でも口調が拗ねている事に気がついていた。随分と大人気のない態度をしているなとは思うが、仕方が無い。どうしても、この娘の前では自分の態度が嫌な方向に形が崩れる。 甘えだとはわかっていても、八つ当たりやあてつけや、嫌がらせの対象にしてしまう。 今も、そうだ。 かいがいしく世話をする娘を、マメなやつだと思ってはみても。 それがすぐに愛情に繋がる事はなかなか難しい。 良いやつだとも思う。俺なんかのどこが気に入ってるのかとも思う。 煙草に火をつけて、用意された食品の上に吸い込んだ煙りを吐き出した。 大概に、最低だなと思ってそっと娘の方を伺ってみた。少し眉を上げただけで肩をすくめる。
初めにくらべれば随分と表情が増えたと思う。 自分に心を許したような気安いと思える態度が増えて、増えたと思う事がどことなく腹立つ。 この感情に、理由などない。 そうして、そんないら立ちに気がつこうともしない娘の様子に無闇に腹が立ってくる。 ただただすがるような態度と、媚びるようにも見える口調。目線。表情。 ぽつぽつと話をして、週末は本当に久しぶりの休みだと言うと。 ぽかんとしたように娘の目が開いてすぐに反らされた。 武蔵は黙ってたばこを灰皿に押し付けた。言うつもりなど、なかったのに。舌打ちしたい気持ちをかろうじて押さえる。 今週末はこの店も休みだと。知りたくて知ったわけじゃない。 合わせようとしてとった休みじゃない。 でも。 言いかけた言葉は結局口には出せなかった。 自然さを装おうとしている娘が何を言いたいのかなど、想像に足る。 言いかけては口を閉じ、必死に言葉を探しているそのじれったさに武蔵はため息をついた。 「どっか、行くか」 注意深く見ていなければ分からない程小さく、その表情が揺れた。 どこか生きたい所があるかと聞くと、娘はさぞ今思い付いたのだと言わんばかりに口を開いた。 「お前の家、行ってみてえ」 「……そんなんでいいのか」 「無理かよ」 「………いや……」 それは、中々に。 面白いかも知れない。 娘が思い描いているのとは明らかに別の方向でに興味をそそられて。武蔵は小さく口の端をゆがませた。 「じゃあ、週末はうちに来るか」 そうだな、と軽くうなずいた様子はそれほど興味がないようなそぶりでも。 背後から、浮かれている空気が伝わってくる。こいつ、ほんとに俺の事好きだよなあ。 ぼんやりとそう思いながら、武蔵は週末の自宅を想像して。込みあがる笑いを静かに噛み締めた。
「古い家なんだな」 「ああ、隙間だらけだ」 勉強机に対峙する椅子に座るように指差される。 武蔵は椅子から適度に距離がある床の上に腰を落とした。 壁際に置かれた年代ものらしいベッドは体重をかけただけでぎいと音をたてた。 「どこもかしこも古いんだよ」 部屋の中は、想像した以上に物が無い。急いで片付けたわけでも無く、もともとそういう部屋なんだろうなとヒル魔は思った。調度品はもちろん、私物らしいものも極端に少ない。本や、CDや、ゲームなど、趣味に当たる物が見当たらない。落ち着き無く室内を見渡しても、そこから武蔵の好みや嗜好を探す事は難しかった。 6畳ほどの部屋は、その分武蔵の匂いが強く感じられた。 不快ではない武蔵の体臭が付きまとっているような気がして、意識しないようにしようと勤めてもどこか恥ずかしい。いたたまれなくて、気まずくて、それでも来たいと言った手前どこかに出かけようとも言い出せない。 落ち着かない気分に小さくため息をつき、ヒル魔は武蔵が畳の上にのばした足元に目線を向けた。 武蔵の母親が気を利かせたのだろう、そこには盆にのせられた飲み物と菓子が置かれている。 そこまでほんの数歩の距離がとても遠いと思った途端に、軽く指が曲げられた。 ここに来い、というように。
何もかもを見すかされているようで動作の一つ一つを無駄に意識してしまう。 ただ椅子から立ってそばに近寄るだけで。それだけでも、何を考えているのかが全部知られているようで。 自分からそばに近寄る事、それ自体にひどい恥ずかしさを感じてしまう。 何気ないふりを装って武蔵の足下に座っても、まだ指が曲げられる。 まだ近寄るのかと軽く目を見開いて、驚くふりをする。全部ばれている事はわかっていても。 とりつくろいながらそばに近付く。ベットに近付く程強まる匂いに、意識してしまっている自分が煽られている気がした。多分、もう顔は赤みを帯びている。 開いている両足の間に、来いと無言で告げる武蔵。 すぐにそこに行くのはとても性急すぎるきがしてけばだった畳を見下ろしていれば、強引な腕に引き寄せられた。いつも、酷い要求ばかりをくり返す武蔵が今日はとても優しい。 ずるずると体が引かれて、簡単にその腕の中に体が納まる。 武蔵のからだの上に、腹這いで抱き着くような、姿勢。 まだまだ日が高いのに、とても淫らな姿勢。
腹部と下肢が密着して、お互いの身体の変化が手に取るようにわかるような姿勢。
熱い頬に触れるだけのキスをされて驚いて目の前の武蔵を見つめた。 「ん?嫌か?」 反応が面白かったようで、なんども何度もそれはくり返される。 「好きだろう?こういうのが」 肌の近いところで囁かれて、低音が波紋のように広がって染みる。 密着した場所はまだお互いに柔らかさしかなくて、ああ、まだ、とぼんやり考えた。 その考えにまた頬が火照って。笑うように武蔵の唇が降ってくる。 抱き締められたまま時間が過ぎる事が嘘みたいで、ああ、ずっとこうされたかったんだとあらためて思い返す。 今日の武蔵はとても、優しい。 抱き合うにはむしろ暑いと思えるぐらいの気温も、気にならなく。 武蔵の動きが止まったところでその肩に頭を埋めた。自分より高い体温がとてもここち良い。 少し汗をかいているらしい武蔵と、その後ろに置いてあるベットからの臭いに、ここが武蔵の部屋なのだと改めて強く思わされた。 綺麗に整えられているベットに視線をむけられなくて、目を閉じればよけいに意識してしまう。 頭から背中のゆっくりとなで下ろす手のひらは何の嫌らしさもないはずなのに、どうしても意識が一定の方向に引きずられてしまってため息が漏れた。武蔵の耳にそれがどう届いたのか、耳に小さく笑う音が聞こえてたまらずヒル魔は強く目を閉じた。 武蔵が小さく身動きするだけで後ろのベットが小さく軋む。寝返りを打ったらさぞ大きな音がするんだろうなと思った途端に、武蔵が口を開いた。 「ベッド、気になるか」 「な、にが…」 「音」 「あ−−−、別に……」 「話してりゃ気にならねえだろう」 「まあ、な……」 背中をなでる手の平が腰までおりてきて、ヒル魔は軽く目眩を感じた。 「ここんとこ、何してた」 「何って」 「あんま会ってなかっただろ」 「ん………」 寂しかったという言葉がするりと口から漏れそうで慌てて他の言葉を探す。 多分、武蔵はそう言われる事が好きじゃ無い。 「別に、いつもと変わんねえ…」 「へえ、そうかよ?」 背を撫でていた手が止まる。 「寂しくなかったのか?」 「別に……」 「俺は、なあ」 手のひらは止まったまま。 「寂しかったぜ」 少し笑いを含んでいるような口調。 嘘と本音が混じった時の、武蔵の癖の一つ。 口調より、言葉の意味に。ヒル魔は暑い、と、感じた。 武蔵に触れている部分の全部が、とても熱い。
「なんで、うちに来たかったんだよ」 言葉に記憶を思い返す。 どうしてって。武蔵がどんなところで寝起きしているのかを知りたかった。 ただ、それだけ。武蔵の事が知りたかっただけで。また、嫌われる答えだなと思ったから。 武蔵が好きそうな答えを探す。 「なあ」 耳の後ろをくすぐる声には嘘もつけなくて、頭にあった理由のいくつかがぐるぐると頭を回る。 「ふ……布団」 気を抜くとどうしても声が裏返ってしまいそうで、そればかりを気にして一番つまらない言葉が口から漏れた。 「ああ?布団?」 あまりにつまらない事で。ヒル魔は口をつぐんだ。 「…………ああ、そうか」 ぐいと肩を押し上げられて、顔をまじまじと覗き込まれる。 「布団あるところで、やったこと、なかったっけなあ!」 「……っ……」 「じゃあ、やるか?」 相当に赤いだろう顔を楽しそうに見る武蔵の目線は、逃げる事を許してくれない。 一度でも拒絶すれば、それきり二度と向けられる事がないのは想像できる。きっと何も躊躇することなく、普通に目線は反らされる。店に二度と来なくなる。それだけで簡単に縁は途切れる。 昼に二人で過ごせるのは初めてで、だったらもう少し武蔵の事が知りたかった。 「こんな……時間から、か?」 武蔵の家は、思った以上に旧式で、大きくて、木の匂いがして、そして。 人の気配がした。 廊下を歩く気配も、隣の部屋に誰かがいる気配も。とても強く感じられる。 「他に何するんだよ」 「でも……」 「やりたく、ねえか?」 ヒル魔は目を武蔵から目を反らした。この男は、いつもこうだ。 絶対に拒まないと知っていて、その上で聞いてくる。 答えが見えた言葉を、聞きたがる。とても幼稚で、自信がなくて、それに自分で気が附いていない 酷い、男だ。いつも目が追い掛けてくる。仕種に、言葉に、拒絶がないかと。 絶対に大丈夫だとわかっているのに、それでも目は、なお問いかける。 まだ、大丈夫かと。酷い事をする事が、愛情の深さの確認だというように。 そのくせ、自分がどれほどこの男を甘やかしても。 最後の最後で、信用していない目。 自分を好きだなんて、お前は相当にバカだなと突き放す。
何をどうしたって信用しない癖に。 欲しがる強さと、疑う強さは同じ物だ。
身体を支えていた腕から力を抜いて、ヒル魔はもう一度武蔵の肩に頭を落とした。 軽く抱き着いて、肯定の意志を伝える。平静を装おうとしてももう顔は熱に弛んでいる。 服の上から背をさする動きは、とうに意地が悪い物に変わっている。 じわじわと自分を追い立てる刺激を与え、むずがゆいようなくすぐったいような。 不快の一歩手前のような撫で方。 そんな小さな刺激を刺激と受け取ってしまうこの身体を嫌らしいと罵られて。 こんなにしたのはお前だとも言えない。
「なあ、お前さあ……」 笑いを含んだ言葉に目を閉じた。密着していた腹の下を揺すられて、とうに気が附いていた事実を揶揄される。 「勃ってるぜ……?」 「………っ…」 「どうする?」 答えなんて必要も無いと思うのはヒル魔だけで、武蔵は全部に答えを欲しがる。何かを隠しているだろうと、そればかりを追求する。 隠している事なんて何一つない。見て、思うままに行動すれば良いのに。 脅迫するように決断の選択を迫る男。そこに、ヒル魔の意志など無いに等しい。 「………………………………する」 思った通りに言葉を引き出して、武蔵はようやく破顔した。目だけが、どこまでも静かに見つめたままで。
ごめんなさい、書き込めなくなったので次へ。 ええと、せっかくのラッキーセブンだからお布団でさせてあげたかったと 思ったわけです。考えた時はすっげえエロ!って思ってましたけど 実際に書いてみたらそうでもなかったなって思うわけです。が。
ちょっと時間をください。 すみません。
やまだ
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