つきよにわらふ

2006年06月24日(土) traum

のぞき窓からのぞくと
黄色い毛血走った眼気違い染みたウサギの着ぐるみが分厚い封筒を手に
あせった風に郵便受けにそれを突っ込んでゆくので
訳知り顔の私は気にもしない素振りで
ウサギがすっかり見えなくなった頃を見計らい封筒を引きずり出し
封を切ると入っていたのは愛の言葉を書き連ねた絵本
それなのに絵柄は壊滅的なモノクロ
最後のペイジには返答をよこすようにとの催促が一行書かれてあり
催促などせずとも自明であろうにと思いながらの再会を果たす
不思議なことにその男の顔は記憶の靄にかすんで見えず
肌を触れ合う感覚も不確かで
(なぜ夢の中のセックスは挿入まで至らない?
 なぜならそれは女は夢精ができないからであろう)
要するに忘れてしまったのだろう温もりを私は
はったりの世界(夢であれ現実であれそれは)
梅雨空
重い空気
円く切り取られた天蓋
夜の坂道を転げるように駆ける
「埠頭まで」啓示のような声が響く
あの夜から宇宙は膨張を続けている
いよいよ私はどうしてよいのかわからない

目が覚めたときはすっかり肌が冷え切っていて
私は香を焚きシャワーを浴びた
女の中には女の血が脈々と流れる
母の純潔と祖母の外道
共存を許す自分のからだを観察しつつ身を清める
動くべきときはいつも突然にやってくる
その日まで
気違いウサギは逃亡を続けるのであろう


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