『庭の話』

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花を押し付ける息子。

デージーは息子の好きな花です。

息子が2歳くらいの時、それまで空き地だらけであった我が家の周辺に
一斉に家が建ち始めました。
随分 無茶な話だと思うんですが、左右と前が同時建築とか、そんな状況。
庭に出ようものなら音がすごいんです。
息子はたまたま音に敏感な子供で、だから工事がお休みになる1時間しか
庭には出してやれませんでした。
それでも庭に出そうとすると泣いて嫌がります。
庭は一時期、息子の大嫌いな場所となってしまいました。

4歳の春、ようやく工事の音も ある程度静まり、庭にも興味を持ち始めた
息子にデージーの花を見せました。幾ら抜いてもまた咲いて殖えるので
抜いて持たせて見ました。まだ残雪のある頃でした。
家に花を持ち帰り、水に挿していました。
「春が来れば一番先に咲く花だよ」

それが子供の頭の中で、どう作用したのかは判りませんが 息子は幼稚園で
絵を描くと、必ずデージーの花を一輪、描く様になりました。
何を描いてもデージーも一緒に描くので「関係のないものを描いたら駄目だよ」
と言っても珍しく聞きません。先生も「あ、またデージーだ」と鷹揚に
笑って見ていて下さいました。「Rちゃんのデージーマークだね」。
やがて字が書けるようになると、自分の名前の横にデージーを描く様になりました。
それは今も、ずっと続いています。先日貰った母の日のカードには、チューリップ
などレパートリーが増えていた物の、やっぱりデージーが・・・。

描くだけではありません。庭の手入れを手伝わせていると、友達や近所の人が
通り掛ると、デージーを一輪もいでは 手に持って走って行きます。
「デージーをあげる」
幸いな事に、小さな女の子のお子さんを連れている方ばかりなので貰った
お兄ちゃんも妹さんにあげたりして、上手く収まってはいるんですが
「男の子はお花は余り好きじゃない子も多いんだよ」
と、説明するしかありません。
「お花の好きな女の子を今度庭に呼んであげれば良いでしょう」
でも何だか、返事がはかばかしくないのです。どうやら自分でデージーを摘んで
それを手渡ししたいみたいで。

先日、学校帰り、庭先で息子の声がしました。
「デージーが沢山咲いてるんだよ〜、こっちだよ」
「いらね〜」
「そうか、じゃあばいば〜い」「ばいば〜い」
・・・・・・だから言ったのに(苦笑)

さすがに、その後説明すると納得した様子。それでもデージーが好きな事に
今も変わりは無いんですが。
ここまで執着している姿を見ていると、数年もしたら何も憶えてないんだろうな
と言うのが無性に寂しく感じますね。


管理人 焙煎 |午後からガーデン