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2023年10月15日(日) 「本にカバーはおかけしますか?」

通勤電車で、斜向かいに座っている女性に目が留まった。
スマホを見つめている人がずらり横一列に並ぶ中、彼女だけが本を読んでおり、さらにそのブックカバーがレトロな雰囲気でおしゃれだったのだ。
店名らしきものが英語で書かれているが、読み取れない。どこの書店のものだろうと思ったら、ある友人を思い出した。彼女は全国の書店のブックカバーをコレクションしているのだ。
「本を買うともらえるあの紙のカバーって書店オリジナルでね、デザインも紙の感触もいろいろなの。企業とのコラボで期間限定だったりその地域ならではの図柄だったり小さなお店のは遊び心があったりで、眺めてるだけですごく楽しい」
出張や旅行に行くと、ブックカバー目当てにご当地書店めぐりをするそう。なんてすてきな趣味なんだろう。

ところで、こういうブックカバーは海外にはないらしい。
外国人が「日本に来て驚いたこと」として挙げているのをテレビで見たことがあるが、そうだろうなあ。そればかりか、カバンの中で開いて表紙やページが破損しないよう輪ゴムまでかけてくれるのである。過剰なサービスだと私も思う。
……と言いつつ、レジで「カバーはおかけしますか?」と訊かれたら、お願いしますと答える私。
本を買うとたいてい家に帰り着くのを待たず電車の中で読みはじめるのだが、私は自分がなにを読んでいるのか周囲に知られたくない。たとえば、『五十歳からの後悔しない生き方探し』『百人のお金持ちに聞いたお金の生る木の育て方』『子育てに迷ったら〜思春期の子どもの心を開く魔法のことば〜』なんていうタイトルが目に入ったら、誰だってなんらかの想像をしてしまうんじゃないだろうか。
いやまあ、私はこういうハウツー本には興味がないが、好きな作家や本のチョイスにはその人の状況や内面が反映されるから、ちょっとおおげさに言うとプライバシーをさらすようでイヤなのだ。
表紙を裏返して巻いている人もたまに見かけるけれど、あれは本をぞんざいに扱っている感じがして好きになれない。できるだけきれいに保ちたいというのもあって、輪ゴムや袋は断るけれどカバーはかけてもらっている。

しかし、人がカバーを必要とする理由はこれだけではないらしい。
私はエッセイしか読まないので知らなかったのだが、ミステリー小説は表紙のデザインが不気味だったりライトノベルだと萌え系の女の子がどーんと描いてあったりするものがあるという。「アブナイ人」と思われそうだから、表紙を隠したいんだそうだ。
また、こういう人もいた。
「読んでいる本を知られたくないというより、『こいつは“自分はこういう本を読んでいるんだ”というのをみんなに知ってほしがっている』と思われるのがイヤ」
ふ、深い……。

ちなみに、私がよく仕事帰りに寄る書店のそれは店のロゴがさりげなく入った素朴なデザインのもの。
電車の中で誰かの目を引くような個性はないけれど、落ちついた色柄は老若男女の手になじむし、本棚に何冊並べてもうるさくならない。“立場”をわきまえ、読書の邪魔にならないよう黒子に徹している感じが好ましい。
ブックカバーをかけてもらう派のみなさん、お気に入りの書店のカバーはありますか?

【あとがき】
電車の中で読書をしている人をすっかり見かけなくなりました。大人はたいていスマホを触っていて(電子書籍で小説を読んでいる人もいるでしょうけど)、本を開いているのはもっぱら高校生。といっても読書ではなく、参考書や英単語帳とにらめっこ。通学時間まで勉強に充てるなんてすごいなあ……と毎朝思います。