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2023年01月18日(水) テレビの中の人

新型コロナ第八波の真っ只中、スタッフにも陽性者が次々に出て、年末年始の病棟は目が回るほどの忙しさだった。
でもなんとか乗り切ったね、ほんとがんばったよね、とみなでねぎらい合っていたら、ひとりが言った。
「私、退職したら毎年お正月はハワイで過ごすって決めてるねん。長いこと仕事がんばった自分へのご褒美」
あと数年で定年になる彼女は大のハワイ好き。「一回行ったら満足なのがグアム、何回でも行きたくなるのがハワイ」なのだそうだ。
そうしたら、
「年末年始にハワイだったら芸能人に会えるんじゃない」
と声があがり、そこからいままで誰を見たことがあるかという話になった。

「新大阪駅で上沼恵美子。化粧が濃かったなあ」
「心斎橋歩いてて、めっちゃ背高い人がいる!と思ったら小籔やった」
「梅田でロザンがロケしてた」
「千日前商店街で千原ジュニアと島田珠代ちゃんを見たよ」
目撃談が相次いだが、見事にお笑い関係の人ばかり。
そう、そうなのだ。私も長く大阪に住み、休日にはキタやミナミに出かける生活をしていたが、遭遇したことがあるのは吉本の芸人さんとタージンだけ。
だから、東京に引越したときは驚いた。二子玉川の高島屋に行ったら、ドラマでときどき見かける女優さんが買い物をしていた。わあ、女優さんを見ちゃった!とさっそくご近所さんに自慢したところ、うらやましがってくれるどころか、「タマタカ周辺は芸能人とかスポーツ選手とかたくさん住んでるからね」と事もなげに言う。
それもそのはず、
「私は松嶋菜々子を見たことある」
「ユーミンとだんなさんが歩いてたわ」
「だいぶ前だけど、聖子ちゃんがお茶してた」
とつづいたのだ。

「このへんでも芸能人見かけることけっこうあるよ」
とも言う。が、都心でもないのにそんなわけないよねえ……と話半分に聞いた私。
しかし、住んでいるうちに彼女たちは話を盛っていたわけではないとわかった。幼い子どもがいて、私の生活圏は半径数キロという狭さにもかかわらず、実際にかなりの頻度でテレビの中の人を見かけるのである。
バスに乗っていたら沿道が若い女性であふれ返っていてなんだろうと思ったら、ドラマの収録を終えた木村拓哉さんがバンに乗り込むところだったり、イモトアヤコさんが24時間テレビのマラソンを走っていたり、学校のバザーに行けば前に並んでいる男性が西城秀樹さんだったり。子どもの幼稚園がドラマの舞台になったときは、見慣れた教室や園庭が別物のように見えたっけ。

自宅の前で撮影が行われたこともある。
散歩に行こうと表に出たら、ふだん静かな通りに車が何台も止まっており、人がたくさんいる。おじさんに「そこをのいてくれ」とジェスチャーされ、ここを通らないとどこへも行けないのよとムッとしながらあたりを見ると、パイプイスに座る端正な顔立ちの男性が。
こんなところにいるはずないよねえ……?
しばらく考えたあと、そういうことかとそばにいた人をつかまえて訊く。
「なんの番組ですか?」
「『法医学教室の事件ファイル』ですよ」
まああ、こういう夫婦、憧れるなあと思いながら見ているドラマじゃないの。
後から放送を見たら、近所の家が容疑者の自宅として使われており、名取裕子さんと宅間伸さんが容疑者を尾行している場面だった。
どうしてこんなにロケに遭遇するんだろうとお隣さんに言ったら、
「緑があって街並みがきれいなのと、△△スタジオが近いからじゃない?」
ということだった。



それほどミーハーではないつもりであるが、街で私服姿の有名人を見かけたり撮影現場に出くわすと、やっぱり得した気分になる。
東京在住でも大阪在住でもない現在は「あれっ、いまの人もしかして……」と振り返る、なんてことはもうないけれど。
何年か前、病室に飾ってある家族写真を見て、
「わ、この人きれい。女優の○○さんにそっくり」
と言ったら、
「ありがとうございます。○○は孫です」
と返ってきてびっくりしたことがあるくらいだ。
残念ながら○○さんが面会に来ることはなかったが、ドラマで見かけるたび、「がんばってやってるみたいです」とうれしそうに話していた患者さんを思い出す私である。

【あとがき】
ザ・ペニンシュラ香港で全盛期の浜崎あゆみさんを見かけたことがあります。リムジンに乗り込んだ浜崎さんに近づこうとファンの一人が道路に飛び出し、車にはねられたんですね。でもその女の子はむくっと起き上がると足を引きずりながらタクシーをつかまえ、後を追ったのでした。す、すごい根性……とあ然。