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2022年03月12日(土) 学歴フィルター

読売新聞には就活中の大学生を応援する紙面がある。
私はバブル崩壊後の就職氷河期世代。いまの就活生はまずリクナビやマイナビといった就職情報サイトに登録、SNSを駆使して企業研究したりエントリーしたりするから、パソコンやスマホがなかった頃の就活風景とはもう別物という感じだ。
私たちの就活は三回生の終わりに自宅に送られてくる就職情報誌から関心のある企業のハガキを切り取るところから始まった。資料請求やセミナー参加を希望する旨を一枚一枚記入していくのだ。
この作業にどれほどの時間と労力を費やしたことか……。書き損じて修正液を使ってしまったときは「印象悪くないかなあ」と不安になったっけ。



就職情報誌といえば、思い出すことがある。
当時は応募を受け付ける学部を限定したり、「来年度の採用は男性のみ」と表明したりといったことをどこの企業もわりと堂々としていた。
そのため、大手企業のハガキがたくさんついた就職情報誌はつぶしのきかない文系学部の女子のところには送られてこない。よって、欲しい企業のハガキが手に入らないことも多かった。
そんなある日、地元で採用試験を受けるためしばらく帰省するという友人から「時々、たまった郵便物を玄関に放り込んでほしい」と頼まれた。
彼のマンションは私の行きつけのスーパーの隣。買い物のついでに寄ってあげると鍵を預かったら、驚いた。三日と空けずに行くのに、その郵便物の量ときたら……。
封書だけではない、電話帳ほどの厚さの(若い人は電話帳を知らないか)就職情報誌がこれでもかというほど届き、ロビーの床に積まれているのである。
「そりゃあこれを放置してたら、他の住人に大迷惑だわ」
私はせっせと部屋に運んだ。

さて。
使えそうなものがあれば持って行っていいと言われていたので何冊かもらって帰ったところ、さらにショックを受けた。私のところに送られてくる就職情報誌には掲載されていない、有名企業の資料請求ハガキがどっさりついているではないか。
友人は工学部。募集職種が理系の知識を必要とするようなものなら納得なのだが、「来年度の採用予定」欄には総務、経理、広報、営業とある。それって理系の学生を選ばなきゃならない仕事……?
そういえば、彼の元に届いていたダイレクトメールの大半がセミナーの案内だった。申し込んでもいないのにあちらから「ぜひお越しを」なんて、先輩から聞いたバブル期の就活みたい。こんなの、うちには一通も来ないよ。
同じ大学でも男子と女子、学部によって市場価値はこんなに違うのだ、と思い知ったのだった。

企業にコンタクトするすべを手に入れられる人と入れられない人。就活のスタートが就職情報誌から就職情報サイトに替わったことで、この格差はかなり解消されたにちがいない。web上では誰もが同じ情報にアクセスし、エントリーすることができるだろう。
ただし、「応募できる=選考対象」ではないけれど。
昨年末、マイナビが首都圏の就活生に送信した、ある企業のインターンシップ希望者を募るメールの件名が「大東亜以下」となっていたため、「学歴フィルターではないか」と騒動になった。マイナビは誤送信だったと謝罪した上で、管理の都合で登録者を「大東亜(大東文化大、東海大、亜細亜大)以下」と「その他」の二グループに分けたが、大学による対応の違いはないと釈明した。

うーん。「以下」がついているだけに、苦しい言い訳に聞こえてしまう。
しかし、選考の入口で大学や学部を問われるのはいまに始まったことではない。いや、むかしよりシビアになっているかも。
私たちの頃は、企業は就職情報誌の送付先を限定することで対象外の学生をシャットアウトした。が、いまは各社のサイトから誰もがエントリーできるため、採用予定を大幅に超える応募がある企業もたくさんあるだろう。
採用担当者がその膨大な数のエントリーシートに目を通し、自社にふさわしい人材かどうかを判断するのは不可能だ。応募者の数だけコストもかかる。
となると、早い段階でふるいにかけ、バッサリ落とさなくてはならない。

では、なにで絞り込むか。
二十二やそこいらの年で、抜きん出たなにかを持っている人などめったにいない。エントリーシートを並べたら、きっとみんな似たり寄ったりの経歴だ。
パッと見でわかる凹凸があるとしたら、「学歴」の部分くらいではないだろうか。たしかにそれは、その人が努力して獲得したもののひとつである。
大学の偏差値だけで社会人としての資質を計れないことは採用するほうもわかっている。しかし、応募者全員を面接して人物をみるということができない以上、「学生の本分をしっかりやってきて、一定の学力を有している」という点を評価して、その実績で足切りを行うほかない、という現実もあるのだろう。



「大手企業の説明会にエントリーしようとしたら『満席』で申し込めなかったが、別の大学名を入力したら『空席あり』の表示になった」
という話がときどきネットでニュースになる。
そんなあからさまな学歴フィルターをかけたらすぐに発覚し、炎上してイメージに影響するリスクがあるのに、大胆な企業だなあと驚く。
でも私が就活生なら、応募しても事実上選考の土俵に上がれないのであればこうして門前払いしてくれたほうがありがたい。
友人からもらったハガキで申し込んだ企業からはなしのつぶてだった。おかげで、誰の目にも留まらない履歴書に貴重な時間を費やさずに済んだ。

結局、自分が持っているもので勝負するしかないのだ。
これから本格的に就活をスタートさせる人もいるだろう。健闘を祈ります。

【あとがき】
就活を終えたとき、安堵すると同時に「ああ、学生生活が終わるんだな」と胸がぎゅっとなりました。もう二度とこんな日々は来ないとわかっていたから。
青春の終わりが近づいていることを感じて、泣きたくなったのでした。