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2007年10月02日(火) 夏の鬱憤

仕事がひと段落してドタバタの毎日が少し落ちついたこともそうだが、もうひとつホッとしていることがある。夏がようやく終わってくれたことである。
いま、「なんとか今年も乗り切った……」という気持ちでいっぱいだ。
もともと夏は好きではなかったが、結婚してからはさらに憂鬱な季節になった。夫が異常な暑がりで、七、八、九月の三ヶ月間は常に機嫌が悪いため、腫れ物に触るように扱わなくてはならないからだ。
彼は夏のあいだ中、「暑い」以外の言葉を忘れたんじゃないかと思うくらいそのことしか言わなくなる。
「なんだよ、この暑さは。人間が生きられる気温じゃないよ、まったく」
「だから大阪は嫌いなんだ、早くどこかへ移りたいよ」
これを始終聞かされるストレスといったら。
「暑い、暑い」を連発されると頭にくる。こちらは努めて気を紛らわせようとしているのに……。「文句垂れたって気温が下がるわけじゃないんやから、ぐちぐち言いなさんな」が喉元まで出る。

そして私のイライラに拍車をかけるのが、そこまで耐えられないと言いながらも彼がなぜかクーラーを買おうとしないことなのだ。
結婚して七年、涼を求めてというより夫の愚痴を聞きたくないために「今年こそ買おうよ」と言い続けてきたのであるが、我慢すればタダで済むと思っているのか、はたまた自分は週末しか家にいないので妻一人で使うのはもったいないと思っているのか、彼は頑として応じない。
いや、買わないなら買わないでいい。でもそれなら、
「クーラーはいらない、サウナのような部屋に住む、という選択をしたのはあなた自身なんだから、がたがた言わず我慢しなさいよ!」
と私は言いたい。
麦茶を沸かそうとすると、部屋の温度が上がるから自分が留守のときにしてくれと怒る。いつもイライラカリカリしていることを「こんなに暑かったらそりゃあ気も立つよ」と開き直られるのは納得がいかない。わが家が蒸し風呂なのは妻のせいではない。

夏のあいだ、夫は朝起きたら、夜帰宅したら、なによりもまず玄関のドアとリビングのカーテンを全開にする。風の通りが悪くなると言ってレースさえ嫌がるから、当然家の中は廊下を通る人からも向かいのマンションからも丸見えだ。これが私は嫌でたまらない。
夫が家にいるときは、蚊が好き放題入ってくることとよそから覗かれてみっともないことを我慢すればいい。問題は彼が留守の日なのだ。私一人のときはもちろんドアは閉めているが、クーラーなしではベランダの窓だけは寝るまで開けたままにせざるを得ない。わが家は一階である。どんな人間が住んでいて部屋のつくりがどうなっているかが外から丸わかりになるようなことは怖いのだ。
「私が一人でおるときに悪い人がベランダから入ってきたら……とかそういうことは考えへんの?」
が、答えは毎度「だって暑いんだからしかたないじゃない」。どうやら妻が危険な目に遭うまでまともに聞く気はないらしい。

* * * * *

少々の出費を惜しむがために年の四分の一もの期間、常に気が立った状態でいなければならず、そのせいで夫婦ゲンカも倍増……なんて本当にバカバカしいことだ。
ただでさえ出張の多い夫が家にいるのは週末だけ。その家族との貴重な時間を少しでも快適に楽しく過ごせるようにすることのほうが月何千円かの電気代を浮かせるよりはるかに価値があると私なんかは思うのだが、人の価値観はいろいろみたいだ。

夫がリビングの飾り棚のサイズをメジャーで測っている。
「どしたん?」
「うん、ワインセラーを買おうと思って。この上に載るかな?」
フ・ザ・ケ・ル・ナ。冷やしてやらにゃならんのはワインじゃなくて人間様だッ!