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2007年02月13日(火) 金銭感覚

先日、名古屋に遊びに行ったときのこと。夜、手羽先を食べてホテルに戻りくつろいでいたら、友人がマッサージを呼ぼうと言いだした。
「せっかくこんなゴージャスな部屋に泊まってるんだしさ!」
が、私は渋った。その日泊まっていたのは名古屋では一番と言われているマリオットアソシア。街のマッサージ屋さんが十分間千円ちょっとである、こんなホテルで一時間頼んだら諭吉さんが飛んで行くんじゃないの……。
マッサージは私も大好きなのだ。香港や台湾に行くと必ず店に寄るし、ホテルの部屋に呼んだこともある。でもそれはあちらの相場が日本の半額だから。
日本でしてもらうこともときどきはあるが、終わった後はいつも「贅沢しちゃった」とささやかな罪の意識を感じる。「この程度の肩のこりや足のむくみなんて、ちょっと我慢すれば済む話じゃないか」という思いがあるからだ。
これと同じ心理で、私がひとりのときにタクシーに乗ることはまずない。わりと気軽にタクシーを利用する人もいるけれど、私は疲れていようが雨が降っていようが荷物が重かろうが、「自分の足で行けばタダなのだ!」と根性を入れて歩く。
「消えもの」にお金を使うのが惜しい、というわけでもない。おいしいものを食べたり旅行に行ったりは趣味である。

なにを贅沢とし、なにを惜しくないとするかは人によって違っているからおもしろい。
先の友人はマッサージやエステには一回五千円くらい喜んで払うのに、旅行に行く際の交通費はとことん削りたがる。「体力は元手がタダ。それ使ってお金が浮くならこんなお得なことはない」という考えで、最近も仙台の友人宅まで大阪から高速バスで行ってきたという。私にはとても真似できない。
若い頃からお茶を習っている別の友人が抹茶茶碗を買ったとほくほくしているので、じゃあそれでお茶を点てて飲ませてよと言ったところ、すげなく断られた。三十万円の品だと聞いて、たかが茶碗一個が!?と声を上げたら、「たかがとは失礼なっ」と叱られた。
そんな彼女は携帯は通話料をぼったくられるとそのつど公衆電話を探し、月々何千円かをけちって新聞をとらない人である。

私にとって一番身近な人である、夫のお金の使いどころもいまいちよくわからない。
移動を快適にするためのお金は惜しまない人で、出張でグリーン車に乗ったり海外旅行ではビジネスクラスを使ったりする。タクシーにも乗らない私からしたら贅沢極まりない話であるが、彼にとっては価値のある出費なのだ。
が、そんなふうに気前よくお金を使う一方で、「床屋でシャンプーしてもらうと四百円もとられる」と家で髪を洗っていく始末家なところもあるから不思議だ。
結婚してまもない頃、「ゴムを替えて」とウエストがゆるゆるになったトランクスを持ってきた。見ると、布地に直接ゴムが縫いつけられているためパジャマのズボンのようにゴムを交換するということができない。もう処分だねと伝えたら、「生地はしっかりしてるのにもったいないな……。あ、それなら布を寄せてきて縫っちゃったらどうだろう?」と言いだしたからびっくり。
もちろん、「そんなことをしたら履くときお尻が入らないじゃないの」と説得して捨てた。破れるか穴が開くかするまで履きたかったようだが、金魚すくいの網じゃないんだからさ……。
それにそんなものを履かせていて、東京出張の際に「最終の飛行機に間に合わなかったから、今日は実家に泊まることにするよ」なんてことがあったら困る。パンツも満足に買ってやらない鬼嫁みたいじゃないか。


誰かのお金の使い方が自分には理解できなくても、人それぞれだなあとおもしろがることはできる。あるもの以外にはまったくお金をかけない“一点豪華主義”の人にはあまり魅力を感じないが、浪費家だと思うことはない。
しかしながら、こういう人にはさすがに驚く。新入社員の頃、同期の飲み会があった。二次会の店に向かう途中、ある男の子が「あ、俺、ちょっと金おろしてくるわ」と言って通りがかりのビルに駆け込んで行った。
「お待たせ!」
爽やかに出てきた彼の頭上には消費者金融の看板。むじんくんだかお自動さんだかで資金を調達してきたらしい。
ううむ、飲み代がなかったら「家に帰る」ではなくて、「お金を借りて参加する」か……。

彼のことを「ちょっといいよね」と言っていた女の子がいたが、その後はなにも言わなくなった。