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2006年10月09日(月) 結婚したらしてみたかったこと

三連休の初日、土曜日は仕事だった。空いた電車に乗って少し早めに出勤すると、エレベーターで同僚のA子さんと一緒になった。
「あらっ……」
思わず声をあげる。いつもパンツルックの彼女がスカートを履いていたから。それも、あらたまった場所に行くときのようなかなりドレッシーな格好だったのだ。仕事帰りにどこかに出かけるのかしらん。
すると彼女は照れくさそうに、今日は誕生日なので夫と待ち合わせて食事に行くのだと言った。
「まああ、すてき!なに食べに行くん?」
「なんのお店か知らないのよ。主人が予約入れてくれたから」

これを聞いて、私は感動してしまった。自分の誕生日を祝うために夫が店を探してくれるなんて……。
なんでも、毎年互いの誕生日には外で食事をすることにしていて、結婚してから欠かしたことがないのだそう。共に仕事を持つ身だと都合のつかない年があっても不思議ではないのに、たいしたものだと感心していたら、
「“忙しい”を理由にしてたら結局どんなこともできない、やらないで終わっちゃうと思って、それを言い訳にはしないでいようって決めてるの、主人と。年に二回くらい、相手に『ありがとう』って伝える機会を持つのはすごく大事なことだしね」
とA子さん。その後、笑いながら「それに、たまにはごちそう食べたいわよお」と付け足した。

結婚して二十年ともなれば夫婦間のさまざまなことが惰性になって、誕生日についても「いまさら」とか「そんな年でもない」とかいう言葉で自分のも相手のもさっさと片づけてしまいそうなものだ。しかし、A子さん夫婦にとってそれをきちんと祝うことは夫婦に必要な“けじめ”であり、そのための時間を捻出することも夫婦ですべき努力のうちなのである。
ああ、賢い夫婦だなあと私は感嘆のため息をついた。

翻って自分たちはどうか、と考えてどきり。夫婦歴六年にして、誕生日のみならずあらゆる記念日がなあなあになってしまっているではないか。
結婚前は誕生日には互いにプレゼントをし、バレンタインには私がケーキを焼き、クリスマスにはチキンを買ってきて家でささやかなパーティーをしたものだ。が、いまではそういうイベントもすっかりハレの日ではなくなっている。
夫はそれらにまるで執着がなく、自分の誕生日になにかをしてもらおうというのがない代わりに、妻のそれを祝ってやらなくっちゃというのもない。結婚記念日だから仕事の後まっすぐ家に帰ろうというのもない。プレゼントや外食が面倒なら無理につき合わせる気はないけれど、今日はなんの日かということくらい把握していて、妻から請求される前に「おめでとう」とか「ありがとう」とか言ってもいいんじゃないの、とはよく思う。
それでも私はなにもしないのも寂しいなあと、彼の誕生日にはちょっとしたものを贈ってきたのであるが、今年はとうとうあげなかった。というのも、去年ネクタイピンをプレゼントしたら、何日も包装も解かずそこいらに放置したまま。頭にきて引き出しに仕舞ってしまったのだけれど、それから一年半、「そういえばあれはどこ行っただろう?」と訊かれたことはない。

相手がこう無関心だと、こちらもせがない。いつしかその日を楽しみにすることもなくなってしまった。
クリスマスこそ独身の友人が「ひとりで過ごすのは耐えられない」と避難してくるので賑やかにするけれど、誕生日や結婚記念日は年々地味になってきて、最近は夕食をいつもより少しごちそうにするくらい。買い物に行くのも作るのも片づけるのも自分だから、「お祝いだあっ」とはしゃぐ気にもあまりならない。

* * * * *

先日、結婚相談所が実施した「結婚したらしてみたいこと」アンケートの結果を見ていたら、「年に一回海外旅行に行く」「週末はふたりで料理を作る」といった回答が上位にあった。うん、なるほどね。
でも私が憧れていたのは、「節句や民間信仰の行事を楽しむ」ということ。人日の節句には七草粥を炊き、節分には恵方に向かって丸かぶり、十五夜には月見団子を飾り、冬至にはかぼちゃを煮てゆず湯に浸かり、年末にはおせち作り……というようなことをしたらどんなに楽しいだろうと思っていた。
が、現実は夫は出張がちで平日は家におらず、ひとりでするのはつまらない。前後の週末にずらしてすることもできなくはないけれど、こういうのはやはりその日でなくては雰囲気が出ない。
これについては夫のせいではないが、残念ではある。

……なんて辛気くさい日記を書いている今日は六回目の結婚記念日。おまけに、これ以上ない晴天。
こんな日に家にひとり、予定もなく朝からサイトを更新しているだなんて、もしやなにかの罰ゲーム?