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2006年06月14日(水) 病院にて

同僚の夫の話である。以前から下肢にある症状が出ていたのだが、若い頃に配達の仕事で腰を傷めた後遺症だろうと思い、放っておいたという。

「そしたら会社の健康診断でひっかかってね、精密検査したら脊髄に巻きつくように腫瘍ができてたんよ。で、即入院の即手術」

ひえええー!と顔に縦線を入れたのは、少し前から私にも似たような症状があり、不快を感じていたからだ。
いや、自分もそうではないかと思ったわけではない。その症状をネットで検索すると、それはもうさまざまな種類の病気が候補として出てくるから。けれども原因がなんであれ、いまのところ生活に支障が出るほどひどくないからといって放置しておくのは恐ろしいな、とつくづく思ったのである。
そんなわけで、昨日病院に行ってきた。

何科で診てもらえばいいのかわからなかったので、電車とバスを乗り継いで総合病院へ。
歯医者以外のお医者さんにかかるのはいつ以来かなあ……と思いながら窓口に行って、「わ!」。カウンターの中の女性たちが白いブラウスに紺のベストとタイトスカートという、まるでOLのいでたちだったのだ。
ここにいる人たちは受付や会計の担当で、診察室に立ち入ることはないらしい。私はこれまで窓口業務も看護師が行う小さめの病院にしか行ったことがなかったので、かなり驚いた。

さて、そこでどの科を受診すべきか相談したところ、まず内科へとのこと。
その棟に行ってみたら、待合室には人がいっぱい。会社に行くときより早く家を出たというのに!
しかも問診票を提出しようとしたら、「受付を待っておられる方が前に十五名様ほどおられますので、ベンチに掛けてお待ちください」。えーっ、ただそれを渡すのにも順番待ちがあるの!?
この調子じゃあ診察室に入れるのなんていつになることやら……と思っていたら、名前を呼ばれたのは二時間後だった。


診察室から出て時計を見る。滞在時間はちょうど十分。よく耳にする「三時間待ちの三分診療」は現実の話だったのだ。

部屋に入ったとき、その年配の先生は書類を書いていた。そして私が丸椅子に座ると、横を向いたまま「どうしました?」。
一週間前からこれこれこういう症状で、と話しはじめるとようやく手を止め、こちらを向いた。……と思ったら、今度はパソコンに向かい、私の言うことを「自覚症状」欄に打ち込みはじめた。
が、それが恐ろしくスローモーなのである。一文字一文字キーを探しながらぽちっぽちっという感じ。そんなだから、先生は話を聞くことより入力の作業に集中しているように私には思われた。
少し前に新聞の投書欄で読んだ文章を思い出した。やはり同じ経験をした人が「キーボードを打つのが苦手な先生には代わりの人をつけるなどして、きちんと話ができるようにしてほしい」と書いていたのであるが、まったくだ。
患者の表情や顔色もろくに見ないで、どんな診断が下せるというのだろう。

三行ほどの文章をやっとこさ打ち終えると、先生は「ま、もうちょっと様子を見ましょう」と言った。
「で、もしだんだんひどくなるようだったら、また来てください」
「ですから、少しずつ症状が強まってきてるから来たんですけど」
「あ、そうですか、ひどくなってってますか」
だからさっきからそう説明しているじゃないか。
が、それでもなお先生は「もうしばらく経ってから来て」としか言わない。

いや、検査をするにももう少し症状がはっきりしてからでないと……という話であるなら、もちろん異議などない。けれども、
「じゃあビタミン剤でも出しときますから、それ飲んで一、二週間待ってもらってですね」
という言い方をしたものだから、素直にハイと言えなかった。ビタミン剤「でも」ってどういうこと?
私はそれはこの症状がどういう原因だった場合に効くのかと尋ねた。すると、「栄養の偏りとか脚気(かっけ)だったときですねえ」という答え。

「この私が栄養不足に見えますか……。脚気の可能性をお考えなら、いまここで膝を叩いてみてください」
と思わず言いたくなった。この患者は薬を出すとでも言わなきゃ帰りそうにないと思ったのだろうか。
ビタミン剤は、もちろん断った。

* * * * *

診察室を出たら、待合室はまさに芋の子洗い状態。診察も流れ作業になるわけだ。
新聞の医療特集記事で「『患者様』はおかしい」という意見をよく見かける。昨日の病院もやはりその呼び方だったけれど、この扱いで「様」なんて誰だって違和感持つわなあ……と妙に納得した。
ああ、こんな無意味に貴重な平日休みの午前中を潰してしまって。それがなにより腹立たしい。