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2006年06月07日(水) 夫の転勤(前編)

四日ぶりに出勤したら、何人もの人に声を掛けられた。
「どうしたん、そんなそろりそろり歩いて」
「足、捻挫でもしたん?」
そうじゃない、そうじゃないのよ。でもあまりに情けないから言いたくない……。
週末、私は千歳で行われたマラソン大会に参加し、十キロ走ってきた。爽快に完走したと思っていたら、翌日この筋肉痛である。駅の階段を降りるときも、つい「あいたたた!」と声をあげてしまうからはずかしい。笑ったり咳をしたりしてもおなかに響くのだ。走るのがこんなに腹筋を使うことだったとは知らなかったわ……。
いやいや、今日はそんな話がしたいわけではないのだ。

* * * * *

千歳JAL国際マラソンはわが家の恒例行事で、毎年夫の同僚夫婦と一緒に参加している。私はマラソンが趣味というわけではまったくないので最初の何回かはフルを走る夫たちの応援をしていたのだけれど、ひとりだけ沿道で旗振りというのもつまらないなあと去年から十キロの部に出ているのだ。
現地でAさん夫婦と合流。ウォーミングアップをしながら夫たちはもう次に出るマラソン大会の話をしている。それを「好きだねえ」と思いながら聞いていたら、Aさんに急に話を振られた。

「そんな他人事みたいな顔してんと。東京マラソンの申込書、小町ちゃんの分ももらってきたからな」
「えっ、そうなんですか。まあ十キロだったら……」
「十キロの部は都庁をスタートして飯田橋、皇居前を通って日比谷公園でゴールや。道路を封鎖して走るなんて気持ちいいぞー」
「でもあれですね、マラソンのために飛行機乗って東京まで行くなんて人が聞いたら、かなりの物好きだと思いますよねえ」

すると、「なんでや、来年の二月やからちょうどええやんか」とAさん。え、ちょうどいいってなにが?
「その頃にはもう東京におるんやし」
意味がわからないという顔をしたら、彼は「だってこいつ、十月から東京やん」と夫を指差して言った。
「それ、どういうことですか……」
そんな話、夫からは聞いていない。それに秋の異動がどうしてこの時期にわかっているはずがあるのだ。
そう詰め寄ると、十月一日付けで組織編成の改変があり、いま夫が担当している地域の管轄が大阪支社から東京本社に移るからだと説明した。それまでに担当が変わらないかぎり机は東京に移動する、と。
「俺のパターンからして八月末に辞令で、九月に引越しやな」
Aさんは昨秋、大阪から東京に転勤になった人なのである。

マラソンの後、東京出身で現在は札幌支社に勤務している同僚も加わって五人でお寿司を食べに行ったのであるが、そこでも夫の転勤話になった。
同僚二人はどのあたりが住みやすいだの、通勤を考えたらやっぱり○○沿線だろうだのと盛り上がっている。小町ちゃんはどこがいい?とも訊かれたが、街や駅の名を挙げられてもまったくわからない。それに、「そうですねえ、羽田に好アクセスで都心にも三十分圏内ってとこ、どこかありますかね」なんて答えられるような心境でもない。
大好物のウニもイクラも、この日ばかりは喉を通らなかった。

……ということはなくて、おいしいものはやっぱりおいしかったけれど、いろいろなことが頭をよぎって相槌は上の空になってしまった。 (つづく