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2006年05月31日(水) 『anan』のセックス特集号を読んだ(前編)

美容院に行くと必ず味わう、緊張の一瞬がある。鏡の前で美容師さんが雑誌を持ってきてくれるのを待っているとき、だ。
彼らはこちらの外見を見て、「この客はこういうのを好んで読みそうだ」と判断したものを選んでくる。つまり、運ばれてきた雑誌からその目に自分がどんなふうに映っているかがわかるのである。

私の場合、『SPUR』『BAILA』『LEE』『with』『MORE』あたりが多い。どれも若い女性をターゲットにした雑誌であるから文句はない。しかしながら、不本意な雑誌を持ってこられることもたまにあるのだ。
「どうぞ〜」という明るい声とともに『家庭画報』を目の前に置かれたときは、心の中でハア!?と叫んだ。ちょっとぉ、それ、四、五十代の女性が読むやつでしょーっ。
そういうときは「失礼ねッ、こんなの読まないわよ!」と突き返し、べつのものに取り替えさせる。
……というのは冗談だが、無言の抗議はする。それには指一本触れない、目もくれない。たとえパーマに何時間かかろうと、意地でも読まないのだ。

年齢は関係ないけれど、『オレンジページ』を持ってこられてショックだった、とうなだれる友人の気持ちもよくわかる。
「家に帰ったら夕飯の支度が待っている主婦」と見られていると知るのはあまり心躍ることではない。あの場面で渡されるのは生活情報誌ではなく、やっぱりファッション誌であってほしいよなあ。

さて先日、私の前に置かれたのは『anan』だった。
あら、よかったじゃないという声が聞こえてきそうであるが、私はやはり手に取らなかった。二十代の女性向けの雑誌であるから、美容師さんのチョイスが不服だったわけではない。
ではなぜか。
表紙には「恋に効くSEX」というどでかい文字と、裸でM字開脚した女の子のイラスト。そう、年に一度のセックス特集号だったのである。
「読者アンケートで明らかに!どーなの?みんなのSEX事情」という見出しに目が行ったけれど、男性が後ろに立ってチョキチョキやっている状況でページを繰る気にはちょっとなれない。

というわけで、帰りに駅の書店で買ってしまった……。
すっかり前置きが長くなりましたが、かくかくしかじかの理由により本日はそういうお話です。


『anan』のセックス特集号は通常月の倍売れるそうだが、私が読むのは今回が初めて。
……驚いた。これはセックス教本ではないか。
「アイラインをこう引けば目がぱっちり大きく見えますよ」「この体操でウエストを引き締めましょう」といった美人になるための化粧法や美容法を紹介するのとまるで同じ調子で、男性を悦ばせるためのテクニックについて書いてある。文章とイラストできわめて具体的に解説されているのである。
夫も「すごいなあ、こんなの女の人が読むの。エロ本と変わらないじゃん」と目を丸くしている。

で、私の感想はというと。
「いまや男が悦ぶテクニックはあらゆる女性の必修科目」とのことで、「ヘルス嬢秘伝の技」とか「プロに学ぶテク」という文句がそこここに出てくるのであるが、ううむと唸ってしまった。
いくらセックスが大切なものだとはいえ、ふつうの女性がここまで研究熱心になるのは推奨されるようなことなのかしら……という違和感である。
それに、
「初めての相手とのHでは受け身が基本。どんなに自信があろうとも『どうしたらいい?』『ここ?』などと生娘を装い、控えめな愛撫を」
「事後は『気持ちよかった……』より『おなかすいちゃった』『のど乾いちゃった』などのセリフが効果的。どれだけ夢中になったかをアピールできます」
なんてことまで指南しており、かなりマニュアルチックなのである。

が、一方で、自分のこの白けたようなあきれたような気分は「この年」だからなのかもしれない、とも思う。
大学に入ってまもない頃、キムスメの友人たちと経験豊富な先輩の家に押しかけては、キャッキャッはしゃぎながらレクチャーを受けた。彼女はなにも知らない、わからない私たちのために一・五リットルのペットボトルを男性自身に見立て、「ここが敏感なポイント。ここをこうすれば男の人はこうなってああなってイイ気持ち」という具合に教えてくれたので、初めて実物を見たときは「あら……ちょっと違うわね……」と思ったっけ。
以前、ある日記書きさんから「童貞時代、大きなテディベアに姉貴のブラジャーを装着して、スマートにホックを外す練習をした」という話を聞いておなかを抱えて笑ったことがあるけれど、思い返せば自分も相当バカなことをしていたのである。
好奇心、向上心旺盛だったあの頃なら「勉強になるわあ」と嬉々として読み、その修得に勤しんだのではないだろうか。

* * * * *

……とまあ、「anan認定Hテク向上講座」には苦笑した私であるが、セックスライフに関する読者アンケートの結果はそれなりに興味を持って読んだ。
それについての突っ込みと、付録の「女の子のためのエッチDVD〜ラブ・エクスタシー〜」を見た感想は次回