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2006年01月30日(月) ナンパについての一考察

金曜の夜、ミナミを歩いていたら、向こうからやってくる男性と目が合った。
スーツ姿のサラリーマンで、年は私と同じか少し下かというところ。見知らぬ人である。
よって私はすぐに目をそらそうとした。……のだけれど、あちらが知り合いに会ったときのようなハッとした表情をしたため、すれ違ってから心の中で腕組み。
「はて。以前どこかで会ったかいな?」
サークルの後輩だろうか、派遣でお世話になった会社の同僚かもしれない。いや、それとも……。
歩をゆるめて脳内検索をしていたそのとき。「あの、すみません」と声がかかった。振り返ると、さきほどの男性が立っている。
「わ、やっぱり知ってる人だったんだ。どうしよう、ぜんぜん思い出せない」
焦っていたら、彼が言った。
「突然すみません。あの、もう食事されました?」
「へ?」
「よかったら食事しませんか」
……あ、えーと、それってもしかして。

それがナンパであると気づくまでにかなりの時間を要したのは、あまりにもひさしぶりの体験だったからだ。なんせ直近のそれはスポーツクラブで「エアロビクス、上手だなあっていつも見てたんです」と食事に誘われたときだから、数年ぶりの快挙。
ナンパをされたときの女性の反応には二種類ある。「そんな軽い女じゃないわよ!」と気分を害する人と、「あら、私も捨てたもんじゃないわね」とホクホクする人。で、私は後者。
そりゃあ相手が見るからに遊び人で、「ネーネー、ちょっとそこのオネーサン」なんてふざけた声のかけられ方をしたときは返事もしないが、女性に不自由していそうにない普通のルックスの男性に一対一で、まともな言葉で誘われたときは悪い気はしない。

しかしながら、三十を境にそういう機会が激減した。
というよりほとんど絶滅。三十代になったとたん、夜ひとりで歩いていても透明人間のような扱いをされるようになったのである。
「三十路」「既婚」なんてワッペンをつけて歩いているわけでもないのにどうしてなの……。

* * * * *

ところで、私はナンパに応じたことが一度もない。そういうことをする男性に対する不信感以外にもうひとつ、大きな理由がある。
「お茶しませんか」「食事しませんか」を真に受けてはいけないのだろうという思いがあるためだ。

たとえば今回、「よかったら食事しませんか」の後、
「あ、でもちょっと……」
「素敵な人だなと思って、どうしても話してみたくなって声をかけてしまったんです。もしご迷惑じゃなかったらぜひ」
「あ、はあ……。じゃあ少しくらいなら」 (「あなただから誘ったんです」という一言は効果大)
となっていたとする。
私の想像では、彼は私をレストランではなくおしゃれめの居酒屋に連れて行くだろう。お酒が入ったほうが打ち解けやすいのと適度にワイワイしている店のほうが女性を安心させられるのを考えてのことだが、そのチョイスは正解だ。もしいきなり連れて行かれたのがやたら夜景がきれいだったり、恋人同士の客しかいないようなムーディーな店だったりしたら、私はその用意周到さに引いてしまうに違いない。
で、そこで私たちは互いのプロフィールを当たり障りのない程度に二時間くらい話すのだろう……が、私はこの後の展開についてある疑問を抱く。

「誘い文句が『食事しませんか』だったからといって、本当にごはんだけ食べてサヨウナラということは可能なのか。というより許されるのだろうか」

誘いに乗ったと同時に、ナンパした側とされた側のあいだには暗黙の了解のようなものが生まれるのではないか。つまり、食事であれ飲みであれカラオケであれ、応じた時点で男性に対して「気が合ったらその先もあるかもね」というサインを出したことになってしまうのではないか……と案じるからだ。
巷に存在するナンパは即日か次回以降の決行かはともかくとして、やはり「エッチ」目的であろう。それを知りながらついて行き、ごちそうになった後で「あなた、食事しないかって言ったんじゃない。だからオッケーしたのよ、そんなつもりじゃなかったわ」というのは、ある種のルール違反であるような気がする。
一次会が盛り上がらなかったから“続き”がなかった、ということなら男性もしかたがないと思えるだろうが、はなから女性にその気がなかったと知ったら、「それなら声かけたときに断ってくれよ!」と言いたくなるのではないだろうか。俺はべつにメシを誰かと食いたかったわけじゃないんだ、と。
よって仮に相手がなかなか素敵な男性で、たまたまこちらも暇だったので「お茶くらいならべつにいいけど」とちらと思ったとしても、気を持たせるようなことをしてはいかんなと配慮するわけである。

……という話を某所でしたところ、ある男性日記書きさんがおっしゃった。
「僕の場合は会って即エッチというのは考えない。その日はとりあえずメシとかお酒とか飲んで意気投合できればいい。電話番号を交換するだけでも成功と言えるかもしれません」
純粋に女性との会話を楽しみたい、それが目的、というナンパもあるのか。なるほど、それなら「それ以上のことは望まない」ということを声をかけたときにアピールしたほうがいいかもしれない。
ナンパに応じる女性が少ないのは、私と同じように「ついて行ったらヤレると思われる」が頭にあるためだと思うので、そこのところをはっきりさせてあげれば勝率はぐっとアップするのではないかしらん。「お茶ならオッケー」「ごはんだけなら」という女性を見つけるのはそれほど難しくはなさそうだ。


「僕の彼女はナンパされても完全無視だそうで、彼氏としては嬉しい限り。完全無視だから安心なのと、ナンパされるってことは可愛いってことですからね」
と先の日記書きさん。
ふむ、ついて行かれると困るけれど、恋人がナンパされること自体は男性もまんざらでないわけね。
出張中の夫にメールで「私もまだいけるみたいよ」と自慢……もとい報告したら、「へええ、そりゃすごい。大したもんだ」と返事が来たが、少しは妻を見直したかしら。