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2005年12月12日(月) テキストを確実によくする方法

私はエッセイが好きで、ほとんど作家を選ばず読むのであるが、そうすると誰のところでもお目にかかる話があることに気づく。
その、作家共通のネタとも言えそうなテーマのひとつが「締め切りの恐怖」である。
週末に読んだ筒井康隆さんのエッセイの中に、「泣きごとは言いたくないのだが一度だけ言わせてほしい」ではじまる、新聞連載のつらさを書いた話があった。
エッセイを書くには毎回テーマを見つけてこなければならないが、それが毎日続くので眠っている間も気が抜けない。今日中に書くことが浮かばなかったらあさっての新聞に空白ができるのだと思うと不安のあまり、そうなったらどれだけの人に迷惑をかけるだろうかとついその数を勘定してしまい、さらに追い詰められることになる……という内容である。

読みながらこちらまで息苦しくなったのは、その切羽詰まった感がとてもよくわかる気がしたからだ。
うちは毎日更新ではないけれど、曜日と時間帯を決めて更新しているので、締め切りがあると言えないこともない。次回書く内容を決めるまでの、なにか小さな宿題を抱えているかのような気分は私も日常的に味わっている。
日記読みをしていると、ネタがないことをネタにした日記にしばしば出くわす。一日二日更新しなくても誰に迷惑をかけることもない日記書きでも、書くことが見つからないと焦るのである。趣味でやっている者でさえこうなのだから、書けなくても書かなくてはならない作家のプレッシャーはそれはもう大変なものであるに違いない。
ひらめきを必要とする仕事は、締め切りが迫ってきたからといってこなせるものではない。
だから、「自分は締め切りを守る」と書いている作家を見つけると------たとえば村上春樹さん、池波正太郎さん、酒井順子さん、内館牧子さん------本当にすごいなあと思う。

* * * * *

ところで、そうした作家が締め切り日までに仕上げる理由として、「各方面に迷惑をかけないため」「性格だから」以外にもうひとつ挙げることがある。
「たとえ一日でも原稿を渡す前に読み返す余裕を持つことで作品がよくなるから」ということだ。

村上さんはそれを「クール・オフ効果」と呼んでいたが、これはもう本当にその通りなのである。
私は書いたものは必ず一晩寝かせることにしている。というのは、長文のため書くのにけっこうな時間がかかる。すると書き終えたときには頭の中がその内容一色になっており、その状態で推敲しようとしても不具合が目に留まらないからだ。
窓を開けて部屋からタバコの煙を追い出すように、眠っている間に頭の中の空気を澄ませる。そして、「えーと、昨日なに書いたんだっけ」くらいまで内容を忘れてから再読する。そうしてはじめてテキストのいびつさに気づく、文章を削ったり語尾を直したりすべき部分が見えてくる。
見違えるようになるとは言わない。でもたったこれだけのことで、書き上げた直後のテキストと比べたら出来栄えは三割増しになるのである。

この“手直し”をあなどれないと感じているので、私はサイト開設当初からそのプロセスを踏んできた。結果、自分の満足度が上がり、五年間楽しく書き続けてこられたのだろうとも思っている。
半日置いて読み返してから更新する、これは誰にでも簡単に、今日からできることである。しかも確実に効果が期待できる。
テキストをいまよりよくしたいと思っている人がいらしたら、ぜひお試しあれ。


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