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2002年12月27日(金) 電話の向こう側のドラマ

私はいま、某百貨店の配送お問い合わせセンターというところで仕事をしている。
お届けを承った商品についてのお客様からの問い合わせに応対する部署なのであるが、この業務に就いて初めて知ったこともいろいろあり、楽しんでやっている。
たとえば、一日に何十本も取る電話の半数以上が「先方から何も言ってこないんだけど、ちゃんと着いているのかしら」という問い合わせなのだが、たいていはすでにお届け済み。世の中にはものをもらっても速やかにお礼の連絡を入れない人がこんなに多いのかと驚いたものだ。
また、私たちは宅配で荷物が届くとサインをするが、その受け取り印のところに配達員が「30女」「50男」などとメモをしていることをあなたはご存知だっただろうか。
依頼主から「たしかに本人が受け取ったかどうか確認したい」と問い合わせがあったとき、どんな人に荷物を手渡したかを説明できるようにするためだが、このことを知ってからというもの、宅配が届くたびに彼らの手元をのぞきこみたい衝動に駆られてしまう私である。
さて、今日は仕事納めだったのだが、定時直前に取った一本の電話がなんとも言えない後味を私に残した。
「二十四日の夜指定で荷物を送ったんですけど、届いているかどうか確認してもらえますか」
三十代くらいの若い男性の声。いつものようにコンピューターを叩いたところ、モニターに表れたのは「受け取り辞退により売場に返品」というコメント。お届けにあがったものの、なんらかの理由で先方が受け取りを拒否したという意味である。
相手とどういう関係であれ、「受け取ってもらえなかった」という事実は依頼主に少なからずショックを与えるものだ。伝えづらいなあと思いながらモニターに表示された注文伝票のコピーを眺めていた私は息を呑んだ。
商品はサンリオのキャラクターグッズの玩具。備考欄には「X`mas包装で」と書かれている。幼い子どもへのクリスマスプレゼントだったのだ。
宛先にはいまどきな女の子の名前。苗字は依頼主のそれとは違っていた。
私の胸によぎる切ない予感。しかし、ふだん通り事務的に受け取り辞退の旨を伝える。
男性は「わかりました」と小さく言って、電話は切れた。

サンタになれないパパはせめてもの思いを込めて、二十四日の夜に小さな娘にクリスマスプレゼントを贈ろうとした。しかし、別れた妻はそれを受け取るのをよしとしなかった------これはたくましすぎる私の想像力が作りだしたお涙ちょうだいのドラマだろうか。ひとりよがりの妄想だろうか。
うん、そうだ、きっとそうに違いない。ほら、私って思い込み激しいからさ。
そう片付けようとしながらも。
「来年はこのパパと女の子、両方にとって幸せな年になりますように」
とつぶやかずにいられなかった。

【あとがき】
昨日は別の若い男性からも、二十四日指定で注文した商品が先方の女性にちゃんと届いているか調べてほしいという問い合わせがありました。着いたかどうかを本人に尋ねられないってことは、恋人同士の間柄ではないのでしょう。片想いの相手に贈ったクリスマスプレゼントだったのかしら……と私は勝手に想像したのですが、二十四日に届いていて二十七日になっても彼女から「ありがとう」の電話が入っていないところをみると、見込み薄かなあなんて思っちゃいました。
この時期は電話の向こう側にドラマがいっぱいです。でもわれながらイヤですね。スーパーで他人の買い物カゴをのぞいて「今晩はカレーね」とか想像するオバサンみたいで……。