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2001年05月01日(火) 本当に不幸なのは

番組の中で後ろ姿でインタビューに答える彼女は、小学生のころから自分の顔が嫌いで嫌いでしかたがなかったという。
「大人になったら整形をして人生をやり直すんだ」と心に誓い、今日まで生きてきた。高校も卒業したし、アルバイトでお金も貯めた。いよいよ長年の夢を叶える------その直前のテレビ出演だった。
「ブスだと思われてるんじゃないかと思うと、人の目を見て話せない」
「自分の嫌いなところ?すべてです。目も鼻も顔の輪郭も、早い話が全部です」
こんなことを言うぐらいだから、どんなに不細工な子なんだろうと思った。
だから、スタジオに現れた彼女を見て驚いた。まったく普通の女の子なのだ。それどころか、きちんとメイクをしているせいか、整った顔という印象。華やかな顔立ちではないけれどスタイルもいいし、これなら美人と評されても不思議ではない。
しかし、彼女はその顔を捨てたくてしかたがない。「あなたは自分のことをわかっていない」「いったいその顔のどこが不満だというの」と驚くゲストの声も彼女には届かない。
「反対する人はみんな、『整形したらなにか大事なものを失ってしまうよ』っておっしゃいますけど、じゃあその大事なものってなんなんですか。教えてくださいよ」
「どうしようもない容姿のまま生きている女の人を見ると思うんですよ。どうやって自分の気持ちに折り合いつけて生きてるんだろうって」
誰の言葉もはねつける。これだけの容姿をしていながら自分を醜いと評価するのは、拒食症患者が実際は骨と皮になっているのに「まだ太っている」と思い込んでいるのと似ている。
これでは失ってきたものがたくさんあるだろうなあ、と思わずにいられなかった。彼女の本当の不幸は、自分を否定して生きてきたこと。
もし彼女が誰からも同情されるような容姿で、「一生うつむいて生きていくのはイヤだから」と整形を望んでいるならわからない話ではない。しかし、不当に自分の顔を嫌い、この顔でいるかぎり自分は幸せになれないと思い込んでいるのだから。
こんなブスな自分は素敵な人と恋をする資格がない、みんなが私を笑っている、顔を変えなければ私の人生は始まらない。そう思って二十年間生きてきたから、もう誰の言葉にも耳を傾けられなくなっている。唇をゆがめ、敵意むきだしで反論する彼女には、可愛げというものがまったくなかった。
過去には恋人も何人かいたのに、「どの人も男としての魅力はゼロでしたね。でもこんな私と釣り合うのはその程度の人しかいないと思ったから、付き合ってました」と平気で言えてしまう心の荒みよう。彼女にとって、生まれ変わるまでの人生は惜しくもなんともないらしい。
十代の恋を粗末にしてきたことがどんなにもったいないことか。彼女はいつか気づくのだろうか。
手術直前のVTR。「生まれついての顔を見るのはこれで最後だけど、なにか言ってあげたいことはないですか」という問いかけに、彼女は即答した。
「べつにありません。さっさとおさらばしたいんで」
「生まれ変わった後の人生」は、彼女の思い描いたものになるのだろうか。(後日談はこちら

【あとがき】
女性は「きれいになったら人生が開ける」「痩せたらすべてが解決する」みたいに考えてしまうところがあるけれど、残念ながらそう単純なもんじゃないんだよねえ。一生下を向いて生きていくよりはぜったいいいけど。