うららか雑記帳
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2007年03月08日(木) 最初のひとくち ※長文


某web友さんの短編小説を読んでいて、ふと思いました。
小説の書き出しって難しいですよね。
最初の一行をどんなふうに始めるか、悩んでしまう文章書きさんは多いのではないでしょうか。

以下、2003年4月7日付け執筆随録より転載。

──… * * * …──

[最初のひとくち]

新しく小説を購入する時、よさそうかも?と思った小説を買うか否か、皆様はどういう判定基準で決めていますか?
あとがきを読む、というのはよく聞きますよね。折り返しカバーや後ろ表紙に書かれたあらすじをチェックというのも一般的。
それでもいまいち購入に踏み切れない時、私の場合決め手になるのは『書き出しの一文』です。
最初の文に惹かれるか否か。それで購入or却下を決めるのです。

例えば北方謙三『三国志』の書き出しは──“草原が燃えていた。”
山本文緒の『落花流水』──“マリはスポイルされた子供だ。”
司馬遼太郎の『竜馬がゆく』──“「小嬢さまよ」と、源爺ちゃんが、この日のあさ、坂本家の三女の乙女の部屋の前にはいつくばり、芝居もどきの神妙さで申しあげたものだった。”

ですから私にとって、小説の最初の一文は非常に重要なわけです。
そうでなくとも書き出しというのは、その物語の世界へと読者を誘い込む導入部。大事でないはずがありません。
タイトルが小説の『顔』であるならば、書き出しはさしずめ、他者に第一印象を与える小説の『表情』、といったところでしょうか。
ということは、当然小説を書く際にも書き出しには充分気を配らなければなりません。
そこで私は、過去に書いた小説を振り返りました。以下、書き出し部分を幾つかのパターンに分類してご紹介したいと思います。
※『 』は小説のタイトル、“ ”は最初の一文。

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『異端者たちの夜想曲』──“闇が蠢き、影が躍る。”

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『タイトル未定』──“気がつくと、辺りはすでに戦場と化していた。”

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『Example1,風御門 理夢』──“「強い人間になりなさい」”

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『LIO』──“まったくこの娘は、なぜこうも無茶なことを平気でやってのけるのか。”

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『戦士たちの大陸』──“はるかな太古──大陸は、ひとつだったという。”

他にも色々あるでしょうが、とりあえず目についたのはこんなところです。
どんな書き出しが人の関心を惹くのか……それは小説を書くだけでなく普段から読む方なら、きっと経験的にご存知のことと思います。
最初の一文は当たり前の話、1つの小説に1つしか存在しませんから、書き手としては考え抜いた文章を持ってきたいものですね。

もちろん小説は中身全体が大事。ですが今回はあえて書き出し部分に焦点を当ててみました。
小説書きの皆様、あなたの小説の冒頭はどんな書き出しで始まりますか?
これに関してはちょっと個人的に興味があるので、今後の参考も兼ねて、小説を書かれる方にお訊きしたいと思います。
もし協力してもいいよというお方いらっしゃいましたら、小説タイトルと書き出しの一文を列記し、浜月まおまでご連絡くださいませ。
お1人幾つでもOK。マガに返信・私書箱・直メ、どれでも構いませんので、ぜひぜひ教えていただけると嬉しいです。よろしくお願いします〜!


──… * * * …──

書き出しの行だけではありません。
大事なのは最初のワンシーン。これをいかに魅力的に描くか。
読者を物語の世界に引き込み、続きへと誘う力量が、書き手には求められると思うのです。
そう改めて認識して、おもむろに自分の小説に目を向けてみました。

──… * * * …──

▼ 長編小説『WILL』



 藍色の闇に包まれた世界──

 目覚めたのは、まだ早朝というのにも早すぎる夜明け前だった。
 午前4時くらいだろうか。辺りにひっそりと夜気が沈殿しているのを感じながら、アリアは水色の眼を開けた。

「……う〜……」

 寝ぼけながらも、ふらふらと身を起こす。
 他の人はどうだか知らないが、もともと寝起きは決してよい方ではない。
 いや、むしろ相当悪い。おまけに羽毛の掛布にしっかりくるまって寝ていたというのに、妙に手足の先が冷たくなっていた。
 頭もうまく働かず、身体は整備不足の機械のように軋んでいる。アリアは生まれてこのかた14年間、重篤な低血圧と親友づきあいをしていた。

 この少女にとって、起き抜けはさぞかし不快に違いない。それは白皙の顔に浮かんだ表情を見ても明らかだ。

 半身を起こしたものの、すぐには寝台から出ず、アリアは意識がはっきりしてくるのを静かに待った。
 この症状、毎度のこととはいえ少々うんざりしないでもない。

 普段なら、こんな刻限に目が覚めることはまずない。
 だが、その日に限って眠りは彼女をあっさり手放した。まるでこれから起こる何かを察知したかのように。

「う〜ん」

 猫みたいに大きな伸び。
 ようやく人心地ついたらしいアリアは、眠そうに目をしばたたかせながら乳白色の遮光カーテンを開け、はめ殺しの窓から外の様子を覗った。
 今はまだ夜の気配の方が濃いが、東の彼方では、太陽が新たな一日の準備をしているのだろう。

 それを満足げに眺めることしばし。
 やがてアリアはカーテンを閉め直すと、部屋の隅に置かれた鏡台にふらつきながら歩み寄った。
 夜目がきくタチなので、足取りは危ないが闇の中でも家具にぶつかるようなことはない。

 磨き込まれた鏡に映るのは、どこか緩んだ少女の顔。寝起きであることを差し引いてもなお、ふわふわした雰囲気がある。
 ましてやその碧眼が潤んだように柔らかな光を湛えているので、おっとり感も倍増だ。

 アリアは髪に櫛を入れ、慣れない手つきで結い始めた。
 華奢な背中に波打つ髪は、淡い金──蜂蜜色というのだろうか。黒髪黒瞳が多いこの島国では、ちょっと珍しい容貌である。
 そのせいか、薄い純白の夜着を纏ったアリアは、まるで宗教画から抜け出た天使のようにも見える。

 しかし洗顔をすませた後にアリアが着替えたのは、可愛らしさの欠片もない麻色の服だった。まるで少年のような格好である。実用一点張りで飾り気がない。
 だが本人は嬉しそうに、「ふんふん〜」などと口ずさみながら、着心地を確かめている。どうやら初めて袖を通す衣装らしい。
 さらに何を思ったのか、クローゼットの奥から引っ張り出した外套も羽織る。

 とろんとした眼差しで自分の出で立ちを確認すると、アリアは抜け出たばかりの寝台へ戻り、その豪奢な寝台の下から小ぶりの鞄を取り出した。
 旅行者用の、ポケットがたくさんついている鞄だ。前々から荷造りしてあったらしく、程よい重みがある。
 床に腰を下ろして鞄の中身をあらためる。

 しかしその荷物がどうにもおかしい。
 着替えや洗顔用具はともかく、保存食、水筒、簡易ランプなど、まるで野外活動のような品々が詰まっているのは一体どういうことだろうか。

「準備万端〜」

 最後に財布の中を確認し、呑気な口調と共に鞄を背負う。

 ふとベッドのわきの置時計に目をやると、時刻は午前5時を回ったところだった。

 もうすぐ夜明け。あと数時間は、この部屋を訪れる者はいない。護衛という名目の監視役も、夜の間だけは席を外すことになっている。

 ――好機だ。
 アリアはゆっくりと、ためらわずに部屋を後にした。


 こうして、少女は日常に終わりを告げた。
 静かに動き出す運命の歯車。これから彼女を待っているのは苦難か悲嘆か……それは誰にも分からない。

 しかし、彼女は望んだ。
 籠の鳥であるよりも、自らの翼で翔ぶ野の鳥でありたい、と。

 これは、そんな少女の物語である。

──… * * * …──

▼ 長編小説『異端者たちの夜想曲』



 闇が蠢き、影が躍る。

 漆黒の衣に身を包んだ少女は身じろぎもせず、息を潜めて時が来るのを待っていた。
 時刻は深夜3時。周囲には鬱蒼と茂った雑木林と、瀟洒な別荘以外には何もない。
 虫や梟の鳴き声、木々の間を吹きゆく夜風……ただひとつ、白銀の満月だけが、咲き誇る山桜を柔らかに照らしていた。

 目標人物が自室に入ってからすでに数時間が経過している。
 静寂。ほの暗い外灯も消え、完全なる夜の帳が辺りを覆っていた。

 ──“夜刀(やと)”、ミッション発動──

 少女は仲間へ合図を送り、反応があると同時に動き始めた。
 音もなく屋敷へと侵入し、防犯装置を沈黙させ、目指す部屋を探し当てる。
 2人の仲間たちも、それぞれ与えられた仕事を難なくこなしていった。
 作業が進むごとに、少女は次々と指示を出す。即応する仲間。
 任務において、少女と仲間たちは3人でひとつの生き物のように行動するのが常だった。
 頭は少女。仲間の2人は、一丸となって働き少女を助ける手足。頭脳から送られてくる命令を忠実にこなす駒であることを、彼らは己に課していた。それが彼ら2人の担うべき役柄なのだ。
 少女は2人に待機を命じ、館主の寝室へと密やかに入り込む。
 皮手袋を着けた繊手には、不吉に白光りする錐刀。

 そして──

 まるで猫のように無駄のない、しなやかな動きだった。

 部屋に満ちる血臭。
 無言の断末魔。

 一太刀で獲物を仕留めた少女は、もはや事切れた男には一瞥もくれず、仲間たちに撤退の合図を送る。

 暗殺は遂げられた。
 風が吹き抜けたかのような、あっという間の所業だった。
 正確で素早い仕事──それが彼女ら“夜刀”の身上なのである。

 ──“夜刀”。

 闇に紛れ、裁きの斬撃を振るう死刑執行人。
 それが少女たち3人の役割だった。
 そこには涙も慟哭もない。血への嫌悪すら無表情の下に押し隠し、彼女らは冷徹に断罪を実行する。

 4月の冷たい夜風に誘われ、少女の美しい黒髪が躍った。
 辺りには一面の漆黒。山桜の花片だけが、ほのかな月明かりを受けて輝いていた。

 音を立てて吹き過ぎる風。儚く舞い散る桜、桜、桜……。

 少女は仲間を率いて別荘を後にした。
 遠ざかる屋敷は深い沈黙に包み込まれ、そこで起きた惨劇を知る者は誰もいない。

 ──ただ満月だけが、全てを見守っていた。

──… * * * …──

▼ 連作短編『明星』



 気がつくと、すでにそこは戦場と化していた。

 憎悪をはらんだ炎が辺りを覆い尽くし、敵か味方か、どちらのものともつかぬ怒号や悲鳴がこだまする。
つい先日までは居城だった巨大な建築物が、数時間のうちに殺し合いの場へとなり変わり、数え切れないほどの戦士たちが流した血の臭いを──戦争の臭いを充満させていた。
 すでに戦闘の前線は城の最深部へと移っており、城門付近には破壊された城壁と、物言わぬ亡骸だけが残されている。錆びた鉄にも似た異臭は薄まることなく瓦礫の海を漂い、むしろ刻一刻とその濃度を増しているようにも思われた。

 まさに悪夢のような光景──

 その中を、年端もいかない少女がひとり、懸命に走り続けていた。
 剣戟の音、断末魔、苦悶の声……絶え間なく鼓膜を刺激する戦いの轟音。
 烈火にあぶられた夜風に乗って聞こえてくるそれらに半ば錯乱しながら、それでもなお幼い少女は、震える脚で進み続けた。
 平和な世界とは決して相容れない、異質な空気を振り切るかのように。

──… * * * …──

うん。微妙だ。
もっと挑戦心を持って精進しなくては!
技巧面で高望みして、結果を早く出そうとすると、自分の首を絞めることになるって分かってるけど。
緩急のある、小気味良い文章を書けるようになりたいな。
私がこれだけ熱心に打ち込み続けられるのって、本当に小説だけだから。
楽しく、真摯に。初心と向上心を忘れずに。
いつまでも書き続けていきたいな。


浜月まお |HomePage

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