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- 2004年12月22日(水) ∨前の日記--∧次の日記
- 「虚海」


漆黒の海を泳いでいた。

厳密に云えば、彼は泳いでいるのではない。
彼方に見える白浜の無人島を目指すでもなく、
水流が身体をすり抜けていく感触を味わうこともなく、
ただ、「泳ぐ」という動作を四肢が行っていた。
何もしなければ沈んでしまう、だから泳いでいた。

黒く重い水が彼の身体に纏わりつき、深く暗い底へと
引きづり込もうとしている、…と彼は感じていた。
「沈んでしまう」と身体が察知すると手足が動きだす。
それだけのことであった。




***********************




その昔、彼は泳ぐのが好きだった。

初めて海に出た時の感動は今でも忘れない。
自らの手で、力で、自由にどこまでも進んでゆける喜び。
碧く煌めく海、極彩色の魚、未知の島々、出会う人々。
手で水を掻きながら、五感が得ていく新しい情景と情感。
果てしない大海原が目の前で広がっていく様は、
彼の内なる世界の広がりとシンクロした。



彼はすぐに満たされた。

自分の満足のために割かれたスペースは
彼の内なる世界の中でそれほど広くなかった。
己だけで完結する満足には、もう興味が無かった。
この喜びを共有する他人の存在を欲した。
今度は、自分以外の人の目で世界を見たいと思った。
自分以外の心で世界を感じてみたいと切に願い、
彼は再び力強く泳ぎはじめた。




***********************




現実が黒なのか?
それとも、現実は蒼なのに、
彼の網膜と視神経が黒に見せているだけなのか?
あの頃、蒼かった海は目の前にない。
ただただ、どこまでも続く墨塗りの海が、
彼の視界に広がっていた。




ふと、一隻の船が彼の脳裏に浮かんだ。
彼は壊れたボートとともに海へ沈みながら、
去っていくその船を、海の中から眺めている…

いつも突然、頭に差し込まれるシーンであった。




***********************




船が去り、彼が再び一人になった時、
しばらくの間、彼の目に映る海はまだ蒼かった。

その頃、ひたすら繰り返される四肢の受け身な運動に、
何かの目的を与えようと彼は何度も試みたことがあった。
海鳥のさえずりにあわせて、歌を唄ってみた。
なついてくるエンゼルフィッシュを飼ってみたりした。
珊瑚の色を頭の中で好みの色に塗り替えてみたりした。
漂流する木片のところまで、全力で泳いでみたこともあった。
彼は愉しかった。自分を五感で確かめられることが嬉しかった。

ただしその歓びは、その時だけに過ぎなかった…。



彼は怖かった。

愉しみが終わった直後に襲われる、
抗うことの出来ない虚無感が怖かった。
何をやっても、直後に必ずそれは彼の中に現れて、
すべての有機的なもの、ポジティブなものをさらっていく。
さらには、彼自身をさらおうとした。
その度に彼は動けなくなり、海の底へ沈んでいくのだ。

蒼色の海の下に広がる暗黒の世界が、
彼が堕ちてくるのを待っていた。
四肢を投げ、身体を任せて、黒い海の底へと沈みゆく時、
何故か甘美な薫りが彼の脳内で広がっていく。
毎日、頭上に見える海面で、沈まないように手足を動かし、
あらがい続けている姿が馬鹿馬鹿しく思えてくるのだ。
暗黒はささやく。沈みゆく彼に語りかけてくる。

…何のために、お前は泳いでいる。
己で完結する満足はもう無いんだろ?
己のために生きようとしていた頃に戻るには、
記憶の全て、世界の全てを初期化するしかない。
子供の頃の、あの真っ更なメモリに戻さない限り、
お前が幸せを得ることはない、そう思わないか?…

言葉が頭の中を染み込んでいく途中で、
いつも彼は我に返る。そして掻きむしる様に四肢を動かし、
海面へと戻っていくのだ。




***********************




半年の間、それを繰り返すうちに、

彼の目に映る、彼が泳ぐ海は、

すべてが漆黒と化していった。





(いつかつづく)



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